大坂なおみが日清ホワイトウォッシュ問題を「気にしてない」「なぜ騒ぐ?」は誤報道!別の質問への回答を歪曲・誤訳

1月26日(土)20時40分 LITERA

ニューヨークタイムズ電子版1月22日付より

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〈大坂なおみ選手「気にしていない」=アニメ広告、肌の色批判で〉(時事通信)
〈大坂なおみ、アニメ動画批判「なぜ騒ぐ?」逆質問も〉(朝日新聞)


 大坂なおみ選手のホワイトウォッシュ問題をめぐって、こんなカウンター記事が、25日、相次いで配信された。時事通信のほうの記事はYahoo!トピックスでも取り上げられ、一気に拡散した。大坂選手自身はホワイトウォッシュを気にしておらず、なぜ騒ぐのかと逆に疑問を投げかけたというのだ。


 だが、大坂なおみ選手は実際の会見では、報道されたような文脈でこうした発言は行っておらず、時事通信や朝日新聞の記事は、誤訳もしくはミスリードとしか思えないものだ。


 改めて経緯を振りかえると、この問題はテニスの大坂なおみ選手を起用した日清食品ホールディングス(以下、日清)のアニメCMが、「肌の色が実際より白く描かれている」「髪の毛の色も実際より茶色」などの指摘を受け、公開を停止したというもの。


 周知の通り、米紙ニューヨークタイムズ(22日電子版)が、SNSなどでCMに批判が集まったなどと報道したことを受け、日清は動画を削除。日清の広報はNYTに対して「ホワイトウォッシュのつもりはありません」と釈明しつつ、配慮が欠けていたとして大坂選手に謝罪したという。


 ホワイトウォッシュ(whitewashing)は、ハリウッドなどの映画業界で、アフリカ系やアジア系(有色人種)の役に白人を当てること、あるいは有色人種の肌の色を明るくすること(白人化)を指し、多様性を認めない人種差別として問題視される行為だ。実際、日清のCMのなかでアニメ化された大坂選手は、明らかに肌の色が実際よりも明るく描かれおり、そうした批判があがるのは当然だろう。


 ところが、日本国内では今回のホワイトウォッシュ批判を、逆に批判する声が少なからずあがっている。特に、冒頭のような大坂選手が「気にしてない」「なぜ騒ぐ?」と言ったとされる記事が配信されると、その声はより強くなった。


 Twitterでは〈大坂なおみ選手が気にしてないのなら外野が騒ぐべきではない〉〈前のまっちゃんの指原への発言もそうだけど、 当人が気にしてないならいい〉〈多分、大坂なおみ選手の肌が白い!!って騒いでる人たち自身が無意識にめっちゃ差別してるパターンじゃないかな〉〈ああくだらない。黒く書いたら騒ぐのもいるだろうし〉〈本人が気にしていないと言っているのに、「白いー!!大坂は黒いだろー!!」って、そっちの方が差別みたい〉などといった投稿が相次いでいるのだ。


 つまり、本人が「気にしていない」のに差別だと問題化するのはけしからん、という主張だ。


 だが、ホワイトウォッシュの問題は、歴史的に議論されてきたものであり、ほかの多くの差別問題と同じく社会全体の問題で、その当事者(今回の場合は大坂選手)が気にするかどうかだけの話ではない。大坂選手を白人のように描いたCMは、アフリカ系をはじめ有色人種の人間に対して、あなたの肌の色は白に改変されるべきもの、劣ったものという誤ったメッセージを送ることになる。


 それを「本人が気にしていないから構わない」とは、呆れるくらいの意識の低さではないか。


●大坂なおみが「ホワイトウォッシュ」について本当に答えたこと


 しかも、大坂選手の記者会見の全体をあらためて確認してみると、大坂選手はホワイトウォッシュCMについて、時事通信や朝日新聞が報じたように「あまり気にしていない」「なぜ騒ぐ?」などと発言をしていたわけではなかった。


 どういうことか。報道と実際の会見内容を比較してみよう。まず、報道の方だが、時事通信では、冒頭で紹介した〈大坂なおみ選手「気にしていない」=アニメ広告、肌の色批判で〉の見出しの後、こんな本文を配信している。


〈大坂なおみ選手は24日、日清食品のアニメ広告で同選手のキャラクターの肌の色が実際より白く描かれ批判が起きた問題について「正直に言うと、あまり気にしていない。なぜ騒いでいるのか分からない」と述べた。〉


 また、朝日新聞は「大坂なおみ、アニメ動画批判「なぜ騒ぐ?」逆質問も」〉のタイトルで、以下のように書いた。


〈準決勝後の会見で、スポンサーの日清食品グループが、自身を起用したアニメ動画広告の肌の色を実際より白く描いたことについて批判を受け、動画を削除したことについて、海外メディアから見解を問われた。初めて質問を受けたといい、「たくさんの日本人記者がここにいるから聞いてみたら?」と逆に質問。「なぜ多くの人が騒いでいるのか分からない。この件についてはあまり関心が無いし、悪く言いたくない」と話した。〉


 しかし、実際の会見の日清ホワイトウォッシュ問題をめぐるやり取りは以下のようなものだった。


 大坂選手は、まず、海外の男性記者から“ホワイトウォッシュについて意見がありますか?”などと訊かれて、「私は今このことに集中しています。決勝まで勝ち上がってきて、それが私のメインプライオリティです」(I'm just focused on this right now. I've gotten to the final of a slam, and that's sort of my main priority)と最初は回答を避けた。しかし記者から「社会に意識をもつひとりの人間として」と重ねて問われ、日清と話し合いをし謝罪を受けたと明かしたうえで、「明らかに私の肌は褐色です。明らかですよね。日清がホワイトウォッシュとかそうしたもの(whitewashing or anything)を意図したとは思っていませんが、次に彼らが私や何かを描こうとするときは、私にそれについて話すべきだと思います」と答えた。


「意図したとは思ってませんが」というのは、ビッグスポンサーへの配慮も感じさせるが、一方で「私の肌は褐色である」とイラストの肌の色が誤っていたことを明確にし、再発防止のため今後は自身への事前報告を求めたことを明かしており、アニメが不適切だったという認識は一切否定していない。


●大坂なおみの発言は全く別の質問「マンガ文化の問題」への回答だった 


 そしてここでは、時事通信が報じた「正直に言うと、あまり気にしていない。なぜ騒いでいるのか分からない」というセリフは出てこない。朝日新聞が報じた「日本人記者に訊いたら?」という逆質問も出てこない。


 調べると、それらしき部分は、別の質問に対する回答だった。この質問のあと、テニスに関する質問を2つほど挟んで、日清問題について質問した記者とはまったく別の女性記者が質問したのだが、該当する発言はそれに対する返答の中にあった。


 しかも、質問のテーマは、日清のホワイトウォッシュCMそのものでなく、そこから派生し日本のマンガ・アニメ文化をめぐる問題を大坂選手に尋ねるというものだった。女性記者はこう質問した。


「日清の広告をめぐる議論のほとんどは、異を唱えているのは、西洋の人たちからのものに思えます。マンガのなかでの日本の人々の描かれ方についての誤解が(これまでずっと)ありました。西洋の目から見ると、全員が白くされているように見えます。日本の人々は、それはホワイトウォッシュにあたらないと言います。これは異なる文化間に生じる誤解の一例だとは感じませんか?」
(It seems like the controversy over the Nissin ad mostly came from westerners, people who are objecting to it. There's been a misunderstanding about the way Japanese people are drawn in manga. To western eyes it looks like you make everybody look white. Japanese people say that's not the case. Do you feel this is an example of cross cultural misunderstanding?)


 聞けばわかると思うが、記者の質問は西洋と日本のマンガ表現に関する認識の差異についての見解を求めたものだった。


 これに対して、大坂選手は“I mean...”と一息置いて、微笑を浮かべながら、「ここにたくさんの日本の記者さんたちがいるので、あなたはマンガのこと(the drawing thing)については彼らに尋ねたほうがいいんじゃないでしょうか」と述べてから、このように続けた。


「でも、私が思うのは……そのことでみんなが混乱(upset)するのはわかります。ただ、定かではないのですが、そのマンガを描いた人は『テニスの王子様』の作者じゃなかったかと思います。誰が書いたかとか、彼が以前にこのようなことをしたことがあるのかとか、調べたほうがいいんじゃないかと思います。ようするに……正直言って、これまでそうしたことにそれほど関心を払ってきませんでした。初めて誰かから質問されたみたいなものです。現段階で、私は間違ったことを言いたくはありません。答えるのであれば、私自身がきちんと調べてからにしたいのですが、いいですか?」
(But I think, for me, like I get why people would be upset about it. But then, because, the person that, like, drew that, I'm not really sure, but I think he was the creator of Prince of Tennis. I feel like you would have to do research on it, like, to see if he's ever done things like this before. I mean, to be honest, I haven't really paid too much attention to this. This is sort of the first time that anyone's asking me questions. I don't really want to say anything wrong at this point. I feel like I should do my research before I answer, if that's okay.)


 念のため注釈しておくと、『テニスの王子様』の作者・許斐剛氏がTwitterで説明するところによれば、アニメCMのキャラクターデザインには関わっておらず、〈CMやアニメイラストはカップヌードルさんのツイッターで初めて拝見しました〉(23日のツイート)という。


●朝日も時事通信も発言を“誤訳”して「騒ぐ必要ない」とミスリード


 それはともかく、大坂選手の発言は、「西洋と日本のマンガ表現をめぐる文化的齟齬」というかなり専門的なことを「初めて」問われて、ちょっと困惑しながら、その問題に自分が答えられない理由を「関心を払ってこなかったから」と弁明したに過ぎない。


 質問自体は、マンガやアニメによる記号化の過程で生じる差別の問題と日本文化の特殊性を表出させる意味のあるものだったと思うが、マンガ・アニメの専門家や比較文化の研究者ではなくテニスプレーヤーである大坂選手にとっては、非常に困難な質問で、こういう答えになるのは当然と言っていいだろう。


 ところが、時事通信はこの発言を〈日清食品のアニメ広告で同選手のキャラクターの肌の色が実際より白く描かれ批判が起きた問題について〉、大坂選手が「気にしていない」「なぜ騒いでいるのか分からない」と言ったと配信し、朝日新聞も〈日清がホワイトウォッシュ批判を受け動画削除したことについて〉、「この件についてはあまり関心が無いし、悪く言いたくない」と言ったと書いたのだ。


 しかも、両社の報道には、実際の発言とは明らかに違う日本語訳をつけている部分もあった。たとえば、時事通信は「気にしていない」と大阪がまるで「I don’t care」あるいは「I don’t mind」と言ったかのようなニュアンスで報じているが、該当する英語は「I haven't really paid too much attention to this」で、マンガ文化の問題に「あまり関心・注意を払ってこなかった」と訳すのが正しいだろう。


 また、朝日新聞がホワイトウォッシュCMについての発言として「悪く言いたくない」と訳したセリフも、実際は「I don't really want to say anything wrong at this point.」と言うもの。専門外であるマンガ文化の問題について「私は間違ったことを言いたくありません」と言っているだけなのだ。


 これらを総合すると、時事通信、朝日の報道は明らかに、差別問題を矮小化するために、意図的に誤訳をし、「大坂なおみ自身は気にしていない」「騒ぐほうがおかしいと感じている」というふうにミスリードしていったとしか思えない。 


 実際、日清ホワイトウォッシュ問題についての大坂選手の発言は海外メディアも報じているが、時事通信や朝日新聞のように「気にしていない」「なぜ騒いでいるかわからない」という部分を見出しに取ったり、記事で取り上げている報道はほとんどなく、「I’m tan(私の肌は褐色)」「次に私を描くときは報告するべき」という発言しか取り上げていないものばかりだ。


 そもそも、ことさら「気にしていない」という部分をクローズアップしているところに、日本メディアの「問題視しなくていい」という意識が感じられる。そして、記事の誤訳とミスリードはそうした意識の延長線上ででてきたものだ。


●グロテスクな差別と「日本スゴイ」に利用されてきた大坂なおみ


 日本人の母とハイチ人の父をもち、アメリカで育った大坂選手はこれまでも、日本社会のグロテスクな差別性の発露に利用され、“日本受け”を狙った情報の歪曲の対象になってきた。


 本サイトでも以前お伝えしたように、大坂選手に対しては、かつてネット上で「日本選手っぽくない」「この人を日本選手と呼ぶことに違和感がある」という差別的な攻撃が見られた。


 大坂選手が全米オープンを制して喝采を浴びてからは、そうした差別の声も少なくなっていったように思えたが、逆に、その偉業や美点を“日本の心”や“日本人ならではの謙虚さ”などと無理やり日本に結びつける「日本スゴイ」報道や論評が沸き起こった。しかし、「多様性」の象徴としてその活躍が世界で注目されている大坂選手を日本の文脈に無理やり落とし込もうとするその論調は、明らかに彼女の名誉と人格を毀損するものだ。


 今回、大坂選手の発言を、日本社会の差別性やバックラッシュを許容するような発言に都合よく改変したのも、差別問題への無理解とこの“大坂なおみを無理やり日本の枠にはめ込もう”とする空気の表れと言っていいだろう。


 しかも、もう一つ指摘しておかなければならないのは、それが、産経新聞のような右派メディアだけでなく、時事通信のようなニュートラルとされるメディア、朝日新聞のようなリベラルといわれる報道機関によって行われたという事実だ。大手メディアまでが「日本スゴイ」の空気に流され、“日本受け”のために発言を歪曲した結果、そのフェイクニュースがネットで一気に広まり、「本人が気にしてないから問題ない」などという、全く本質から外れた意識の低い意見が正論としてどんどん拡散しているのだ。


 差別性とグロテスクなナショナリズムが想像以上に日本社会の奥深いところまで入り込んでしまっているという事実に、深刻にならざるをえない。


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