日本の閉鎖病棟のブラックボックス、「拘束」されることも

1月26日(金)7時0分 NEWSポストセブン

寝屋川市の監禁衰弱死事件は年の瀬の日本列島を震撼させた

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 2017年12月23日、大阪・寝屋川市の住宅で柿元愛里さん(享年33)が遺体で発見された。発見時の体重は19kg。自宅敷地内のプレハブ小屋に監禁されるような状態だった。この小屋は簡易トイレと給水タンクを備えただけのわずか2畳半の空間で、二重扉で仕切られ、中からは開けられない仕組みになっていた。監禁と保護責任者遺棄致死罪で父親の泰孝容疑者(55才)、母親の由加里容疑者(53才)が逮捕。愛里さんは15才の頃に精神疾患が発症し、暴れまわって危害を加えたり、自傷行為があったりしたため、療養目的で監禁していたという。


 現在、精神疾患患者を医療機関に入院させる手段は、「誰が同意するか」の違いによって大別される。


 患者本人が同意する「任意入院」、患者もしくは家族のいずれかが同意する「医療保護入院」、患者と家族の同意が必要なく、2人以上の精神保健指定医が必要と認めた場合に行われる「措置入院」の3種類である。


 多くの精神疾患患者は入院を頑なに拒むため任意入院は極めて難しく、医療保護入院か措置入院となるケースがほとんどだ。


 もし愛里さんが早い段階で医療機関に入院していたら、本人も家族も救われたのだろうか──。


 この問いに、「安易にイエスとは言えない」と話すのは、精神疾患や薬物依存治療の問題に詳しいジャーナリストの石丸元章氏だ。


「一般的に精神科病院には開放病棟と閉鎖病棟があります。入院患者のなかでもとりわけ重病者が入る閉鎖病棟は、出入り口が固く施錠されていて病棟の外に自由に出られないうえ、常時監視されています」(石丸氏)


 過去に薬物依存の治療で精神科病院に入院したことのある石丸氏によれば、日本の閉鎖病棟は、愛里さんが過ごした“小屋”と変わらないという。


「病棟内の強化ガラスの窓はわずかな隙間までチェーンでグルグル巻きにされていて、ベランダには鉄の網がかかっていた。要するに監獄と同じです」(石丸氏)


◆人間の尊厳は感じられなかった


 基本的に病室は相部屋だが、暴力や器物破損、自殺などの恐れがある患者は、「保護室」と呼ばれる個室に入れられる。この保護室こそ、“精神科病院のブラックボックス”と称される部屋である。


 例えば都内のある閉鎖病棟の場合、5畳ほどの個室にあるのは簡易トイレとベッドのみ。扉には鉄格子や強化窓ガラスがはめられ、出入り口にドアノブはない。トイレにも仕切りがなく、天井にある監視カメラで24時間監視される。


 患者が紙をのんで自殺するのを防ぐためトイレットペーパーは1回分しか常備されず、水も自分で流せない。用を足すたびに看護師を呼ぶか、監視者が室外にあるスイッチを押す必要がある。


 入院患者の治療は薬物投与が基本となるが、患者が暴れることを防ぐため、過剰な精神安定剤を投与するケースが目立つという。



「少ない職員で多数の患者を効率的に管理するために、それがいちばん手っ取り早いんです。投薬された患者は一日中グッタリしていますよ。私も経験がありますが、注射を打たれた瞬間にグラッと来て、あとは死んだように動けなくなる」(石丸氏)


 それでも暴れる患者には、最後の手段として「拘束」が待っている。


「ベッドにくくりつけられ、両手足も安全ベルトで固定されます。身動きが取れずトイレにも行けないので、おむつをはかせて糞尿は垂れ流し。もちろん室内の様子は24時間モニターで監視されている。私が入院していた時も、『これを外せ!』『トイレに行かせろ!』といった拘束患者の悲痛な叫びが看護室のモニター越しに聞こえてきました。正直、そこに人間の尊厳は感じられませんでした」(石丸氏)


 入院患者の隔離と身体拘束件数は年々増え続けており、厚労省の調査(2014年)によれば、全国の精神科病院および一般精神科病床の入院患者のうち、身体拘束を受けた患者は1万673人と10年前から倍増。隔離患者数も1万89人で、過去10年間で初めて1万人を超えた。


 だが、一見“人権無視”に見えるこの状況にこそ、精神疾患特有の難しさがある。昭和大学医学部教授で、閉鎖病棟に勤務経験のある精神科医・岩波明氏が語る。


「閉鎖病棟の保護室に入るのは、自分の病気について認識が乏しく、家財を破壊し、暴力を振るうなど極めて重篤な症状の患者が多い。被害妄想が強く、他者に危害を加えることや、自殺に至る恐れもある。本人にも周囲にもリスクが生じるので、行動を制限する閉鎖病棟での入院が避けられないのです」


 事実、閉鎖病棟に入院する精神疾患患者への対応は、ひと筋縄ではいかない。


「閉鎖病棟の保護室で患者が着る衣類は、自殺予防のために“紐なし”と決まっていますが、それでも着衣を切り裂いて首を吊ろうとする人が絶えません。食事中に箸をのみこんで自殺を図る患者もいるため、食べている間は看護師がずっと見守ることもあります。保護室に物が一切置いてないのは、患者がそれを壊して凶器にしたり、自傷行為に使う恐れがあるからです。


 隔離と拘束は決して率先して行うべき処置ではありませんが、『患者の命を守る』という点を考えた時、やむにやまれぬケースもあることを理解してほしい」(岩波氏)


 日本の精神科病院は国際的にも入院が長期にわたり、全国の医療機関で精神科に入院する28万9000人のうち、1年以上の長期入院は18万5000人に上る。


※女性セブン2018年2月8日号

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