ちょっと待て 松本裕樹の「サイドスロー転向報道」に異議あり

1月28日(月)11時0分 文春オンライン

 ちょっと待て! 異を唱えたいことがある。


 1月20日のスポーツ紙で、ソフトバンクの松本裕樹投手がサイドスローに転向したとの趣旨で報じられた件についてだ。


 賛否両論が飛び交った。松本はドラフト1位で入団して今季5年目を迎えるが、昨季1勝など通算でも3勝(6敗)しか挙げておらず、期待に応えられているとは言い難い。背水のシーズンに臨むにあたり新挑戦を前向きにとらえる声も聞かれた。だが一方で、変則投法など何事か、といった意見も耳に入ってきた。親交の深い野球ライターからも「怒りのツイートをしようかと思った」と連絡が来た。


 アレルギー反応を示した方々は、松本のかつての姿をよくご存知なのだろう。盛岡大付属高校時代は150キロ近いストレートで打者を押し込んでいた。しかし、3年夏の県大会中に右肘を故障した。それでも甲子園に出場して優勝候補筆頭とされていた東海大相模高校を相手に3失点完投勝利で撃破。直球は全く走らず剛腕ぶりは見る影もなかったが、変化球を巧みに使いこなしてコントロールも抜群というピッチングに、ネット裏のプロ野球スカウトたちも「野球センスがとにかく高い」と唸ったという。ホークスの当時の球団幹部に聞いた話では、かなり早い段階からドラフト1位指名することを決めており、結果一本釣りに成功したのだった。


 背番号66は、かつての大エース斉藤和巳を受け継いだもの。巧みな投球術はプロの世界でも十分通用するレベルで、球団スコアラーも「コーナーの出し入れに関しては、チームの中でもかなり上位」と舌を巻くほどだ。


 だが、現在に至るまで、かの剛速球を取り戻すことは出来ていない。松本は、それがもどかしくて仕方なかった。


「どうしたらフォームが良くなるのか」


 試行錯誤を繰り返したが、上手くいかない。肘の不安からか、前腕が全くしならずに、まるでダーツを投げるような使い方しかできなくなっていた。


 そして、巡り巡って行き着いた場所。それが「鴻江スポーツアカデミー」だった。



今季5年目を迎える松本裕樹 ©時事通信社


『うで体』か『あし体』か


 同代表の鴻江寿治トレーナーが1月に主宰するトレーニング合宿に、チームの先輩である千賀滉大がまだ背番号128だったプロ1年目オフから毎年欠かさず顔を出し、2年前からは石川柊太も参加するようになった(今年はリハビリのため急きょ不参加……)。千賀の大出世は言わずもがな。さらに石川も入団3年目までは1軍登板なしだったのが、参加以降は8勝、13勝と驚きの飛躍を遂げたのである。


 今年1月17日〜19日、わずか3日間ではあったが、松本は「鴻江合宿」に参加する機会を得たのだった。


 鴻江氏は昨年「あなたは、うで体? あし体? 〜3秒で体がわかる、人生が変わる」を上梓したように、人間の体は『うで体(猫背タイプ)』と『あし体(反り腰タイプ)』と大きく2つに分けられるとの理論を提唱している。


「身長や体重といった体型、さらには年齢、男女、利き腕、血液型など人間の体は千差万別です。しかし、私がスポーツトレーナーとして数多くのアスリートを見てきた中で、『うで体』『あし体』の2種類を基準に判別し、タイプごとに合った体の使い方をすることが成功を導くのだと分かったのです」(鴻江氏)


 その2種類を生み出すのが骨盤の形だ。『うで体』は右の腰がかぶって(通常よりも前に出ている)いて、左の腰が開いた(通常よりも後ろに下がっている)状態を指す。


『あし体』はその逆で、左の腰がかぶって(通常よりも前に出ている)いて、右の腰が開いた(通常よりも後ろに下がっている)状態だ。


 おそらく初見の読者の方は「??」だろうが、これによって『うで体』タイプは上半身始動タイプ、『あし体』は下半身始動タイプに分けることが出来る。



サイドスローは『あし体』の投げ方の初期段階だった


 あれこれ説明するとどんどん脱線するので、ここは松本に話を戻そう。


 松本は『あし体』だと分かった。同タイプの右投手。ボールを投げるためには体を左回転させなければならない。先ほどの骨盤の形を思い出してほしい。左側がかぶっている。つまり、それは「壁」が出来ているということで、開いている側に比べれば回しにくい方向だということを意味している。


 回りにくい腰を、『あし体』の右投手は自分で回しに行かなければならない。だから、例えば左手のグラブは胸の前に抱えるのではなく、肘を回してグッと後ろに引く。そして腰は横回転を意識する。人間の体は縦よりも横の方が回しやすいのだ。


 勘のいい読者の方ならば、もうお分かりだろうが、『うで体』の右投手の場合は左回転しやすい体だから、グラブの左手でしっかり止めて、腰も縦回転を意識するのが良いのだ。


 もちろん他にも要素はあるが、腰の回転は大前提となる。


 松本は鴻江合宿に参加するまで、このような考え方など知る由もなかったし、意識をしたこともなかった。『あし体』にもかかわらず、『うで体』の要素を含んだ投げ方(体の使い方)をしていたのだ。


「自分の体に合わない体の使い方をすれば、自身の持つ本来の能力を発揮できないのはもちろん、故障につながります。この合宿では自分を知り、自分の進むべき道を見つけることを1つのテーマにしています。迷いは上達の敵ですから」(鴻江氏)


 つまり、松本は『あし体』の投げ方の初期段階として、腰を横回転させることを意識していた。初めは極端に表現することが大切である。たしかに捕手を座らせる前の立ち投げの段階ではサイドスローにも映った。


 しかし、鴻江氏が「投球を重ねる中で、徐々に肘から先が上がっていく。特に手首はしっかりと立つようになり、球に伝わる力は以前とは段違いに変わります」と説明するように、捕手を座らせて投げるとサイドスローというより、スリークォーターの投球フォームになっていたのだった。


 これこそ松本が見つけた、自分の進むべき道なのである。



 今回、反論コラムを書き綴ったわけだが、べつに「サイドスロー報道」に喧嘩を売るつもりはない。彼らもまた、ホークスを近くで取材する仕事仲間だ。普段の取材姿勢だってよく知っている。ただ、思った以上に、SNSなどで賛否両論が盛り上がっていた。


 まもなく始まる春季キャンプ。松本には迷うことなく、己を信じて突き進んでほしいのだ。


 もう一度言う。迷いは上達の敵だ。自分を知り、自分の進むべき道を見つければ、人は自分の能力のなかで一気に成長を果たしていくのだ。


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(田尻 耕太郎)

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