【劇場アニメレビュー】“Project Itoh”最終作がようやく公開へ! ドライ&クールなアクションとキャストの熱演でシリーズの最高傑作に!?『虐殺器官』

1月28日(土)16時0分 おたぽる

「Project Itoh」公式サイトより

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 何はともあれ、完成してよかった! 伊藤計劃第3弾となるアニメーション映画『虐殺器官』の話である。

 多くのファンが知るところではあるが、デビューからおよそ2年、2009年に34歳の若さで早逝した作家・伊藤計劃が遺した3本の小説を劇場用アニメーション映画化するプロジェクト“Project Itoh”。

 その第1弾『屍者の帝国』(伊藤の遺作となった未完の小説を、盟友の円城塔が書き継ぐ形で完成させた)が15年10月2日に劇場公開。そして本来なら『虐殺器官』が第2弾として15年11月13日に公開予定であったが、その制作が難航したため代わって『ハーモニー』が同年同月同日に公開。しかし、結局『虐殺器官』は制作スタジオ・マングローブの倒産によって公開が延期となってしまった。

 しかし、本作のために新たなスタジオ「ジェノスタジオ」が元フジテレビPDの山本幸治らにより設立され、およそ1年の時を経て完成。17年2月3日より、ようやく劇場公開される運びとなったのだ。

 原作小説『虐殺器官』は伊藤のデビュー作であり、9・11テロ以降の世界情勢を反映させた架空の近未来世界が舞台にはなっているが、現実がいつこうなってもおかしくないという、ぞっとするほどのリアリティを体感させてくれる衝撃作でもある。一方では主人公の米軍特殊部隊隊員クラヴィス・シェーバー大尉の一人称で進みながら、難解な台詞廻しなど独自の雰囲気を湛えつつ、後進国にて虐殺を扇動しているという謎の元MITのアメリカ人言語学者ジョン・ポールを追跡&殺害するミッションのためチェコ・プラハへ潜入するクラヴィスらの運命が描かれていく。

 正直、文字で読み進めていくと「虐殺器官」「虐殺の文法」などなどと、難解な言葉が多々登場しては惑わされ(その惑いもまた原作の魅力ではあるのだが)、エンタテインメント性の高さはともかく、これが映画になるのかな? などと余計な不安を感じないでもなかったのだが、いざ完成した作品を見ると、意外なまでにシンプルな印象をもたらしているのに驚いた。

 要は特殊部隊の主人公による暗殺ミッションのお話で、実は『地獄の黙示録』(79)あたりの名作群を彷彿させるような普遍的なストーリーであったことを、本作は明快に提示してくれているのだ。

 作画も極めてシンプルで淡白な印象だが、それが徹底した情報管理システムに支配されているドラマの背景や世界観と巧みにマッチしており、非常に効果的でもある。

 観念的な表現がキモでもある作品ゆえに、説明台詞もかなりのものではあるが、意外にそれも気にならず、むしろ理屈ではなくスッと感性的にこちらの脳裏に響いてくる。

 これには各キャラクターが魅力的に構築されていることが大きな理由として挙げられるだろう。クラヴィス役の中村悠一とジョン役の櫻井孝宏、双方のクールで美しい声質がもたらすヴォイス・バトルとでもいった幻惑的な緊張感が、作品の資質とマッチしている。

 また、今回のヒロイン、ルツィアの峰不二子的なものとは微妙に異なるアダルトで、憂いある存在感と、それに即した小林沙苗の声の印象は、正直このところのキャピキャピ・アニメ声に慣らされていた側からすると、実に新鮮に映え響くものがあった。

 惨酷味も合わさった戦闘シーンのドライ&クールさも特筆もので、このテイストならばハリウッドで実写映画化も十分可能ではないかと思わずにはいられなかった。それほどまでに現代社会から剥離していない、地に足の着いたダーク・サスペンス・ファンタジーたりえているのである。

 テロの脅威に対抗すべく管理システムを徹底化させるアメリカなどの先進国と、紛争の絶えない後進国との対比からもたらされる文明批判のメッセージもまたシンプルに見る者の胸に届けられる。

 原作に即した本作独自の用語も多々出てくるが、それ以上に「アマゾン」「マクドナルド」など現実の単語の数々が、痛切に響くのもいい。

 ラストへ至る展開に関しては、日本でも公開されたばかりのオリバー・ストーン監督の『スノーデン』からみなぎる反体制的反骨の姿勢ともどこかかぶさるものがあった。

 原作との差異をチェックすることも含めて、本作は結果として“Project Itoh”3作品の中で意外にも伊藤計劃の世界に触れる入門編として一番適した作品に仕上がっているのが、やはり驚きであった。

 個人的嗜好としては『ハーモニー』のほうがお気に入りではあったが、巷で伊藤作品に抱きがちな難解なイメージを払拭させてくれるのは断然こちらのほうだろうし、少なくとも本作を見た後は、原作既読者も未読者も伊藤小説に触れてみたくなること必至。

 その意味でも本作は、長きにわたったプロジェクトの成果という点で、実はもっとも成功している作品と言えるのかもしれないし、それを抜きにしても近未来的異世界サスペンス映画として好もしい味わいを持つものである。

「小粋なプログラムピクチュアの快作を見せてもらったなあ」
 これが鑑賞後、真っ先に脳裏に浮かんだ言葉であった。
 これからご覧になるかたがたも、本作ならではの「虐殺の文法」を存分に楽しんでいただきたい。
(文・増當竜也)

おたぽる

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