「問題だらけの撮り鉄」を撲滅するにはどうすればいいのか

1月28日(日)16時0分 NEWSポストセブン

「四季島は混雑する上野を避け尾久駅で撮影しました」と小川さん

写真を拡大

 撮り鉄というと、鉄道の撮影が好きな人なんだろうなという穏やかな印象よりも、乗客や周辺住民に迷惑をかけ、運行にも支障を出しかねない迷惑な存在というイメージが強くなっている。世間を敵に回してまで撮影を続けるのはなぜなのか。自身も撮り鉄であるライター・カメラマンの小川裕夫氏が、写真・カメラ誌『アサヒカメラ』(朝日新聞出版)・佐々木広人編集長へのインタビュー取材から、迷惑撮り鉄をなくすための方策を考えてみた。


 * * *

 鉄道撮影を趣味とする、いわゆる「撮り鉄」のマナーが悪すぎるという指摘がSNSなどで相次いでいる。自分が気に入ったアングルで車両の写真を撮るために、乗客を怒鳴りつけたり、通りがかった子どもの腕を引っ張ったり、果ては駅員や運転士を邪魔者扱いして罵倒するといった粗暴な行為が動画や写真とともに拡散され、広く世間から批判されている。ともすれば事故にも繋がりかねない行動も少なくないためか、鉄道会社も様々な工夫をこらした対応をするようになってきた。


 JR東日本が昨年5月1日に運行を開始させたクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」は、豪華なデザイン、優雅な旅をコンセプトにして注目を集めた。


 出発式は上野駅で催行されたが、その様子をカメラに収めようとする撮り鉄が上野駅の13番線ホームに殺到した。


 JR東日本は乗客の安全確保のために入場規制を実施。また、乗客の旅行気分を害さないように、14番線ホームには回送列車を配置して撮り鉄ブロックを発動。JR東日本の徹底した撮り鉄対策に、集まった撮り鉄は不満を爆発させた。


 本来なら、鉄道会社にとって鉄道ファンは”客”だ。しかし、鉄道会社でもマナーの悪い鉄道ファンを嫌悪する風潮が強まっている。


 あくまでも、マナーの悪いファンは一部に過ぎない。それでも、今年に入ってからだけでも撮り鉄の暴走はあちこちで報告されている。


 千葉県・いすみ鉄道は、1月6日にキハ52を運転することで鉄道ファンを集めた。多くの鉄道ファンが集まれば、少なからず暴走するファンもいる。いすみ鉄道では、線路内に侵入し、列車の運行に支障が出る線路際に三脚を立てて撮影しようとする撮り鉄が数人いた。接触事故を起こしかねない危険な場所だ。いすみ鉄道社長は、その暴挙に憤慨。翌日のブログで迷惑な撮り鉄を晒しあげたうえ、「阿呆連中」と指弾した。


 撮り鉄の乱行は、もはや鉄道ファンの仲間内だけで知られているという状況にとどまらない。テレビや新聞などでも報道されて、世間に広く知られるようになった。特に団体行動していると、見境がつかなくなるせいか暴走するケースが目立つ。私も実際にそうした場に何回か遭遇している。特に印象に残っているのが、尾久駅に隣接する尾久車両センターで開催された「ふれあいフェスタ」での一コマだ。


 広大な操車場では、普段は間近で見る・触ることができない機関車などが並ぶ。チビっ子連れの家族もたくさん来場するので、珍しい車両の前では親子連れが記念撮影の順番待ちで列をなしていた。


 自分の世界に没入し、自分が理想とする列車写真を撮る。そのためには親子は邪魔な存在なのだろう。大声で親子連れを威嚇し、排除する。撮り鉄の行為を注意しても、逆ギレされて危害を加えられることもある。普通の親子は恐怖に駆られてしまい、静かに退散するのが常だ。


 こうした光景は一部のファンによる暴走だが、その一部によってまっとうな鉄道ファンも丸ごと世間から偏見の眼に晒される。そして、肩身の狭い思いで過ごしているのだ。


 そんな撮り鉄の悪行が流布する中、今月20日に発売された『アサヒカメラ』(朝日新聞出版)2月号が衝撃的な内容だとして話題を呼んでいる。


 同誌2月号では、”鉄道と風景”と銘打った特集を組んでいる。誌面では、鉄道カメラマンたちが鉄道をうまく撮影するためのコツを披歴。その特集内の一コーナーに、撮り鉄のマナーアップを目指す “嫌われない「撮り鉄」になるために!”という記事があるのだ。


“嫌われない「撮り鉄」になるために!”は、読者でもある撮り鉄を敵に回しかねない内容だが、「最初からマナーを守るつもりがないカメラマンは、読者としていりません」と厳しい口調で語るのは同誌の佐々木広人編集長だ。


 佐々木編集長は、『週刊朝日』編集部の出身。販売部を経て、2013年9月に『アサヒカメラ』副編集長に就任した。『アサヒカメラ』編集部に移籍してきた当初は、個人的にカメラを楽しむレベルで、特にカメラや写真撮影に深い造詣を持っているわけではなかった。


 佐々木編集長は『アサヒカメラ』を担当し、新製品情報やプロカメラマンの写真が掲載されるだけのカメラ雑誌の在り方に不満を抱くようになる。プロの写真を見たければ展覧会に足を運べばいいし、ネットにも素晴らしい写真はたくさんある。


 佐々木編集長は「上手な写真を見るだけ学べるという意見もあるが、『どうやったら、こんな写真を撮れるのか?』という上達のためのテクニックの解説は必要だと思った」と編集方針を明かす。


 編集長に昇格後、2015年1月号から誌面のリニューアルを敢行。翌月には、さっそく鉄道特集を組んだ。以降、毎年2月号は鉄道撮影の特集を組んできた。


「『アサヒカメラ』は、カメラの知識や撮影技術、新製品情報も掲載していますが、写真愛好家の間で話題になることが多い、写真をパクられたときの著作権問題やスナップ写真を公開したときの肖像権問題といった最近の時事問題を取り上げるようにしています」(佐々木編集長)


“攻める”編集方針と問題意識から生まれた連載が、今回で10回目を迎える「写真好きの法律&マナー」だった。そして、”特集 鉄道と風景”に合わせる形で、今回の連載は”嫌われない「撮り鉄」になるために!”になった。


 ”嫌われない「撮り鉄」になるために!”では、これまで最近の撮り鉄事件が網羅されており、それらはマナーといったレベルのものではなく不法侵入・器物破損・鉄道営業法違反・威力業務妨害といった違法行為であると断じている。


 実は、佐々木編集長体制になってから鉄道特集は通算4回目。撮り鉄のマナー問題を取り上げたのは、今回が初めてではない。佐々木編集長は、繰り返し撮影マナー向上を考える啓発記事を発信してきた。


 線路沿いから撮る場合は、鉄道用地や私有地に踏み入らないことは大前提だが、通りがかった近隣住民にきちんとあいさつする、なども大事だ。ホームで撮影する際はフェンスや柵から身を乗り出さない、三脚や脚立を使わない、駅員や乗客などを不要に撮影して不快な思いをさせない、といったことに気をつけたい。また、列車を撮影する際も運転士の視界を遮るストロボ撮影は禁止。


 一見すると、撮影マナーとして最低限のようなことばかりだが、これらが守られていないのだ。


「鉄道撮影だけに限らず、風景写真や野生動物といった分野でも同じようなマナー問題を耳にします。風景写真・野生動物の分野でも、いい写真を撮ろうとして自然を破壊してしまったり、餌づけをして生態系を狂わせるようなマナーの悪いカメラマンはどの分野でもいるのです。だから、カメラ撮影とマナー問題は避けて通れない話です」(同)


 しかし、自然や野生動物のカメラマンと撮り鉄とでは、世間からのイメージは大きく異なる。今般、一般世間から白眼視されることが多いのは撮り鉄ばかりだ。その差は、何だろうか? 佐々木編集長は、こう分析する。


「自然・風景や野生動物は人里離れた山奥などが撮影地になるので、世間の目は届きにくくなります。一方、鉄道撮影は都市。つまり、人が生活している場が主な撮影地です。だから、撮り鉄は世間から目立ちます。そうしたことから、撮り鉄には非難が集まりやすいと言えます」


 もちろん、マナーを守っている撮り鉄は多い。そうしたマナーを守る撮り鉄でも、撮影に夢中になっているうちに線路内や私有地に入り込んでしまうことがある。期せずして、他人に迷惑をかけることはあるだろう。


 そうした知らず知らずのうちにマナー違反をしてしまったカメラマンに対して、佐々木編集長は「少しずつでいいから、マナーアップしていこう」と呼び掛ける。


 また、撮り鉄は同じ場所に群衆で現れる。鉄道写真の有名撮影地で絶好のポジションは、”お立ち台”と呼ばれる。誰もが美しい鉄道写真をモノにできるので、撮り鉄はどうしてもお立ち台に殺到しがちだ。そのお立ち台を巡る争奪戦では、撮り鉄同士の罵り合いも繰り広げられる。撮影場所をめぐる子供じみた争いは、撮り鉄のイメージをさらに低下させる。


 そうした撮り鉄に対して、佐々木編集長は、こんなアドバイスを送る。


「鉄道に限らない話ですが、みんなと同じ被写体・構図の写真は紋切り型になります。面白味に欠けるので、コンテストで選ばれることはありません。だから、人と同じような写真が撮れるお立ち台に殺到するのではなく、自分が心から撮りたいと思うような、オリジナルの鉄道風景を撮ることを心掛けてほしい」


「いい写真を撮りたい。だから、他人よりいい場所を確保したい」といった撮り鉄の気持ちは理解できる。みんなが殺到する人気撮影地で、自分も撮りたいという群集心理もわからなくはない。だが、周囲に迷惑をかける傍若無人な行為は許されない。


 撮り鉄とマナーの問題は、簡単には解決しない。撮り鉄と鉄道事業者・沿線住民・利用者は共存するためには、なによりも撮り鉄たちがマナーアップし、撮り鉄のイメージを回復させることだ。それは、つまるところ撮り鉄たちの心がけにかかっている.

NEWSポストセブン

「撮り鉄」をもっと詳しく

このトピックスにコメントする

「撮り鉄」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ