アウトローカントリー(レッドネック・ロック)を回顧する『アウトロー&アルマジロ:カントリーの騒然たる70年代』

1月29日(金)18時0分 OKMusic

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2018年にリリースされた『アウトロー&アルマジロ:カントリーの騒然たる70年代(原題:Outlaws & Armadillos:Country’s Roaring ‘70)』はアウトローカントリー(レッドネック・ロックとも言う)好きか、70sシンガーソングライター好きの一部には伝わるかもしれないが、多くの音楽ファンにはその内容がまったく見えないアルバムかもしれない。毎年、テキサス州オースティンで開催される『SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)』は、今では音楽イベントだけにとどまらない巨大フェスとして知られている。では、なぜニューヨークでもロサンジェルスでもないオースティンでこんな大きな音楽イベントが開かれているのかというと、それはオースティンが音楽の街としてアメリカ中に認知されているからである。オースティンが音楽の街として知られるようになったのは、本作のジャケットにも登場するウィリー・ネルソンとウェイロン・ジェニングスに代表されるアウトローカントリーの代表的アーティストによる活躍と、アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーターズという奇妙な名前を持ったライヴホールの存在があったことにほかならない。

カントリー音楽の全盛期

白人音楽を代表するカントリー音楽は、テネシー州ナッシュビルの『グランド・オール・オープリー』(1925年にスタートしたラジオの音楽番組)を中心に、50年代には成熟期を迎えていた。当時のカントリー音楽はカントリー&ウエスタンと呼ばれ、田舎のカントリー音楽ファンだけでなく、ポピュラー音楽のチャートにも食い込むほどの都会的なサウンドを身につけるようになっていた。それはナッシュビルからさほど遠くないメンフィスで制作されていた南部ソウル音楽が、60年代に洗練されるようになっていった経緯と似ている。もう少し分かりやすく言うと、日本の浪花節や演歌が昭和歌謡へと変わっていったような感じである。

名ギタリスト兼プロデューサーのチェット・アトキンスやプロデューサーのオーウェン・ブラッドリーが制作するカントリー音楽は「ナッシュビル・サウンド」と呼ばれ、ポップスファンにも受け入れられる垢抜けたサウンドを特徴としていた。カントリーが全盛期を迎えていた50年代の終わりからナッシュビルでは、一流のスタジオミュージシャンたちを使ってカントリー音楽を工場ラインのように量産し続けており、60年代末になるとその均一化したスタイルを嫌って、ナッシュビルから出ていくアーティストは少なくなかった。全盛期のナッシュビル・サウンドこそが日本ではカントリー&ウエスタンと呼ばれ、なぜか日本では今でも、カントリー=カントリー&ウエスタンと捉えられがちであるが、実際にはカントリー音楽は進化を続けていることを忘れてはいけない。

ナッシュビル・サウンドへの反発

「クレイジー」や「ハロー・ウォールズ」などで売れっ子ソングライターのひとりとなったウィリー・ネルソンは、ナッシュビルの保守的なシステムを嫌った代表格である。他にも、モンキーズやフラット&スクラッグスに曲を提供していたマイケル・マーフィー(後のマイケル・マーティン・マーフィー)やスティーブ・フロムホルツも故郷であるテキサスへと戻っている。彼らはみんな、ナッシュビルにはないホームメイド的なオースティンの独特の音楽シーンに魅力を感じていたのである。「ミスター・ボージャングル」を全米でヒットさせたニューヨーク出身のジェリー・ジェフ・ウォーカーは、ネルソンらに触発されてオースティンへの移住を決めているし、ネルソンとともにアウトローカントリーを推進するウェイロン・ジェニングスもナッシュビルでレコーディングを続けてはいたが、オースティン産音楽の良き理解者であった。

カリフォルニア州ベイカーズフィールドで50年代の終わりから活動を始めたバック・オーウェンスがビートルズにリスペクトされ、65年に「アクト・ナチュラリー」(オーウェンスのオリジナルは63年リリース)をカバーするとベイカーズフィールド・サウンドが一気に脚光を浴び、それはオースティンで活動するアーティストたちにも大きな影響を与えることになる。70年代に入るとオースティンに移住するアーティストは増えるが、そのアーティストたちの受け皿が当初は老舗クラブの『スレッギルズ』(ジャニス・ジョプリンはここで腕を磨いた)であり、『アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーター』だったのである。

アルマジロ・ワールド ・ヘッドクォーター

70年にオースティンにできたライヴホール『アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーター』は、オースティンにおけるヒッピー文化の中心地になっていて、ビル・モンロー、ジェームス・ブラウン、ジョニー・ウインター、フランク・ザッパ、グラム・パーソンズ、キース・ジャレット、パティ・スミス、ドック&マール・ワトソン、ソニー・ロリンズ等々、ブルーグラスから前衛ジャズまで幅広く取り上げるホールであった。ここでネルソンやジェリー・ジェフは数多くのライヴ活動を行なった。ネルソンらの提唱するアウトローカントリーがロック的なのは、彼らがアルマジロに出演したさまざまなアーティストに影響を受けているからである。もともとのアウトローカントリーのイメージは、オースティン在住のカントリー・シンガー、ラスティ・ウィアが提唱していた「コズミック・カントリー」が最初の起源である。カントリーとアウトローカントリーの関係は、AORとパンクロックの関係に少し似ているかもしれない。

アルマジロのおかげで、他の音楽バーやライヴハウスもオースティンに次々と作られ、ミュージシャンがどんどん移り住むようになる。ネルソンやジェリー・ジェフがいるためか、若手カントリー系の反ナッシュビル派が大勢集まることになり、70年代の中頃になるとオースティンはナッシュビルやベイカーズフィールドと並んで第3のカントリー(今でいうアメリカーナに近い)音楽都市として知られるようになる。

アウトローカントリーのアーティストとしては、他に小説家としても知られる(邦訳もある)キンキー・フリードマン、レオン・ラッセル(彼もまたアウトローカントリー推進者のひとり)にシェルターレコードの中で一番好きと言わしめたウィリス・アラン・ラムゼイ、ウェイロンと声が似ているビリー・ジョー・シェイバー、クラッシュのジョー・ストラマーにリスペクトされているジョー・イーリー、ガイ・クラーク、リー・クレイトン、レイ・ワイリー・ハバードなど、数えたらキリがないほどである。

本作 『アウトロー&アルマジロ :カントリーの騒然たる70年代』 について

本作は2枚組(全36曲)で、多くのアーティストがレーベルの枠を超えて収録されている。アウトローカントリーを代表するウィリー・ネルソンの「ミー&ポール」、ウェイロン・ジェニングスの「ホンキー・トンク・ヒーローズ」、ジェシ・コルターの「ホワイ・ユー・ビーン・ゴーン・ソー・ロング」、トムポール・グレイザーの「アイ・エイント・ルッキング・フォー・ザ・アンサーズ・エニーモア」(ネルソン、ジェニングス、コルター(ジェニングスの妻)、グレイザーの4人はアウトローカントリーを世界的に知らしめた『テキサスのならず者(原題:Wanted ! The Outlaws)』(’76)をリリースしている)の他、マイケル・マーフィーの「コズミック・カウボーイ(Part-1)」やウィリス・アラン・ラムゼイの「サテン・シーツ」、クリス・ガントリーの「アレゲニー」といった今では入手が難しいアルバムからのナンバー、リトル・フィートが取り上げたテリー・アレンの「アマリロ・ハイウェイ」、そしてジェリー・ジェフ・ウォーカーが歌う「ロンドン・ホームシック・ブルース」はゲイリー・P・ナンの書いた曲で、76年に始まったTV番組『オースティン・シティ・リミッツ』で27年もの間テーマ曲として使われた言わばオースティンを代表するナンバーなどが収められている。

個人的にはジョン・ハートフォード、マーシャ・ボール、エミルー・ハリス、ダグ・ザームなど、アウトローカントリーとは思えないアーティストの顔も見えるのだが、納得できる選曲になっている。本当はレイ・ワイリー・ハバードの「アップ・アゲンスト・ザ・レッドネック・マザー」(未CD化のためか)が入っていれば文句なしだったのだが、まぁ仕方ない。

なお、本作はカントリーミュージック殿堂博物館で2018年5月25日〜2022年2月7日まで、ナッシュビルとオースティンの2カ所で大々的に開催されているイベント『アウトロー&アルマジロ:カントリーの騒然たる70年代』のサウンドトラックのような位置付けとなっている。いずれにしても、本作が日本盤としてリリースされたことに喝采を贈りたいと思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『Outlaws & Armadillos: Country’s Roaring ‘70s』

2018年発表作品

<収録曲>
■Disc 1
01.ハンクならどうする?/ウェイロン・ジェニングス
02.帰らぬあなた/ジェシー・コルター
03.ミー・アンド・ポール/ウィリー・ネルソン
04.古き良き日は/ジョン・ハートフォード
05.汽車を待つ無法者のように/ガイ・クラーク
06.レックスのブルース/タウンズ・ヴァン・ザント
07.ノー・プレイス・トゥ・フォール/スティーヴ・ヤング
08.過ぎ去った後に/トムポール・グレイザー
09.マリー・ラヴュー/ボビー・ベア
10.最高の夜に/マーシャル・チャップマン
11.ロンドン・ホームシック・ブルース/ゲイリー・P・ナン
12.グルーヴァーズ・パラダイス/ダグ・サーム
13.崇高な希望だけを/ジョー・イーライ
14.ジョー、ドント・レット・ユア・ミュージック・キル・ユー/トム・T・ホール
15.変わらぬ俺には/ビリー・ジョー・シェイヴァー
16.ホンキー・トンク・ヒーローズ/ウェイロン・ジェニングス
17.君の頼みに/"カウボーイ"ジャック・クレメント
18.アレゲニー(mono)/クリス・ギャントリー
■Disc 2
01.アマリロ・ハイウェイ/テリー・アレン
02.ゲティン・バイ/ジェリー・ジェフ・ウォーカー
03.トゥ・マッチ・ファン/コマンダー・コディ&ヒズ・ロスト・プラネット・エアメン
04.ドント・アスク・ミー・ホワイ (アイム・ゴーイング・トゥ・テキサス) /アスリープ・アット・ザ・ホイール
05.ダラス/ザ・フラットランダーズ
06.コズミック・カウボーイ/マイケル・マーフィー
07.ソールド・アメリカン/キンキー・フリードマン
08.明るいうちに出てくわよ/マーシャ・ボール
09.アイ・スティル・シング・ジ・オールド・ソングス/デヴィッド・アラン・コー
10.巡礼者−第33章/クリス・クリストファーソン
11.ノー・エクスペクテーションズ/ジョニー・キャッシュ
12.赤毛のよそもの/ウィリー・ネルソン
13.サテン・シーツ/ウィリス・アラン・ラムゼイ
14.イージー・フロム・ナウ・オン/エミルー・ハリス
15.サンフランシスコ・メーブル・ジョイ/ミッキー・ニューベリー
16.11ヶ月と29日/ジョニー・ペイチェック
17.ユー・キャン・ハヴ・マイ・ハズバンド/ルー・アン・バートン(ft.スティーヴィ・レイ・ヴォーン)
18.こんなに長生きするなんて/ロドニー・クロウェル

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