44年前、今上天皇の沖縄初訪問で起きた火炎ビン事件の意味

1月29日(火)16時0分 NEWSポストセブン

沖縄に心を寄せられてきた天皇・皇后両陛下(写真/JMPA)

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 声なき人々の苦しみに寄り添い続けた今上天皇にとって、特に思い入れの深い地が沖縄だろう。戦前は唯一の地上戦の舞台となり、戦後は米軍基地と向き合わされてきた沖縄を、今上天皇は折にふれて訪れてきた。初訪問は皇太子時代の1975年のこと。本土から2400人の機動隊員が派遣される厳戒態勢の中、事件は起こってしまう。『天皇メッセージ』著者のノンフィクション作家・矢部宏治氏が振り返る。


 * * *

 1975年(昭和50年)7月17日、明仁皇太子は沖縄海洋博の開会式出席のため、美智子妃とともに那覇空港に到着しました。


 当日の天候は晴れ、気温は30度。肌がヒリヒリするような強烈な日差しの中、皇太子ご夫妻は、午後0時40分に空港を出発し、車で沖縄本島の最南端へ向かいました。「ひめゆりの塔」を始めとする沖縄戦の南部戦跡をめぐり、慰霊の祈りをささげるための旅でした。


「石ぐらい投げられてもいい。そうしたことに恐れず、県民のなかに入っていきたい」


 沖縄訪問直前、周囲にそう語っていた明仁皇太子ですが、この日、皇太子をめがけて投げられたのは「石ぐらい」ではすまなかったのです。


 訪問当日、午後1時5分、那覇空港から南部の戦跡に向かう皇太子の車列が、戦争中、もっとも悲惨な戦いが展開された本島最南端の糸満市に入って数分後に最初の事件が起こります。


 左手に立つ白銀病院の3階から、10数本のガラス瓶やスパナ、石などが車列に投げつけられ、後続の警察車両を直撃したのです。幸い皇太子ご夫妻の車には何も当たらず、病院に偽装入院して犯行におよんだ過激派の活動家ふたりも、そのあとすぐに逮捕されました。


 さらに午後1時19分、一行は、ひめゆりの塔に到着します。そして皇太子ご夫妻がひめゆり記念会会長(源ゆき子氏)から塔の前で説明を受けていた午後1時23分、塔の横に大きく口をあけた洞穴から這い出してきた沖縄解放同盟の活動家、知念功が、皇太子ご夫妻の前方数メートルの場所に火炎ビンを投げつけたのです。


 献花台の手前の柵にあたって炎上した炎は、一瞬高く燃え上がり、明仁皇太子と美智子妃の足元まで流れていきました。ひめゆりの塔の前で火炎ビンを投げられ、現場は大混乱におちいりましたが、それでも明仁皇太子はスケジュールを変えず、煙を大量に吸いこんだ服も着替えず、2キロほど離れた海岸近くにある次の慰霊地「魂魄の塔」へ向かいました。


◆「この地に心を寄せ続けていく」


 長い一日がようやく終わろうとする午後10時、次の「談話」が報道陣に文書で配られました。



「払われた多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものでなく、人々が長い年月をかけてこれを記憶し、一人一人、深い内省の中にあって、この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません」(抜粋)


 これから自分は国民と共に長い年月をかけて、沖縄が過去に払った尊い犠牲に対し、記憶しつづけ、考えつづけ、心を寄せつづけることを約束しますという、皇太子の明確なメッセージでした。


 一方、壕のなかに1週間ひそみ、皇太子ご夫妻に火炎ビンをなげつけた知念功と、もうひとりの小林貢(共産同・戦旗派)ですが、彼らも皇太子を傷つけるようなテロ行為が目的ではなく、昭和天皇や日本政府の戦争責任を問うことが目的だったと著書に書いています。


 事実、火炎ビンも明仁皇太子と美智子妃に当たらないよう、少し離れた柵の内側に投げつけています。


 この皇太子の沖縄訪問の警備責任者で、事件の2週間後、責任を問われて警察庁警備課長を解任された佐々淳行氏は、事件の翌日、沖縄県に住む有識者300人に対し、緊急世論調査を実施しています。


 その結果を簡単にまとめると、人びとの感想は、【1】長い間モヤモヤしていたものが、あの一発でふっきれた、【2】皇太子ご夫妻に当たらなくてよかった、【3】過激派はイヤだ、【4】皇太子ご夫妻には好感を抱いた、というものだったそうです。


 決して「やらせ」というわけではなく、結果として沖縄と本土の間で「無意識の共同作業」が行なわれ、両者が関係を修復する糸口が作られたということもできるでしょう。


 本当の政治というのは、無数の人びとの思いや激情が交錯するなか、こうしてぎりぎりの着地点を求め、そこに一瞬だけ収斂し、また次の着地点を求めて動き出していく。そういうものなのかもしれません。


*矢部宏治著『天皇メッセージ』(『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』増補改訂版。http://sgkcamp2.tameshiyo.me/MESSAGEで全文無料公開中)より

NEWSポストセブン

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