表情は硬い、でも複雑な感情を読み取らせる浅野忠信の演技がスゴい。『A LIFE〜愛しき人〜』/第三話レビュー

1月31日(火)3時0分 messy

『A LIFE~愛しき人~』公式サイトより

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 木村拓哉が主演を務める『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)の第三回が1月29日放送された。初回14.2%、第二回14.7%と好調な滑り出しで、本放送も13.9%と若干下がったもの高水準を保っている。

 これまでの放送では、病院の経営を優先する副院長・壇上壮大(浅野忠信)、羽村圭吾(及川光博)と、患者を第一と考える虎之助(柄本明)とその娘・深冬(竹内結子)、そして沖田一光(木村拓哉)という対立構造が明かされてきた。そして前回、今後その間で揺れ動くであろうと考えられていた井川颯太(松山ケンイチ)が、意外にも早く沖田側になることが示唆されたのは第二話のレビューで書いたとおりだ。

 育児のために当直に出られない小児科医の深冬は、周囲から自分の働きが0.5人前だと思われているのではと焦っていた。院長の娘であること、また夫であり、病院の経営を全面的に担っている副院長・壮大が病院を立て直すために小児外科の縮小を検討していることもあって、深冬は小児外科指導医の認定を受けて、小児外科・病院に貢献しようと考えていた。

 そんな中、夜になるとお腹が痛くなることがあるという女児が外来にやってくる。実家に娘を預けた夜にその症状が出るため、他の病院では心因性によるものだと診断されたと母親はいう。沖田とともに原因を探るうちに、腸捻転が起きている可能性に思い当たる深冬。二人は検査では確たることが言えないとして手術の検討を始めるが、そのとき一本の電話が虎之助のもとにかかってきた。相手は、小児外科治療学会のトップ・蒲生(越村公一)だ。女児は、かつてジャングルジムから落ちて怪我をした際に、蒲生の手術を受けていた。小児外科界のトップである蒲生と異なる診断をすることは、蒲生に喧嘩を売ることになる。壇上記念病院にとっても、そして小児科の指導医の認定を受けようと考えている深冬にとっても、蒲生との関係が悪化することは避けなければならない。「蒲生教授には逆らうな!」と逆上する父・虎之助の姿をみた深冬は手術を断念し、母娘に転院を勧める。

 当然、病院の都合で患者を見放すことを沖田は納得しない。「院長の娘として、“何よりも”小児外科を守らないといけない」という深冬に、「何よりも?」「手術できないなら、この病院をやめる」「この病院にいるのは、小児科を立て直すためでも、患者さんを見捨てるためでもない。目の前の患者を救うためだ」と声を荒げる沖田。「手術は諦めて欲しい」「俺は経営者でもあるんだ。お前にわからないものも背負っているんだよ」と説得する壮大の声にも沖田は耳を傾けない。沖田にとって大切なことは病院の事情ではなく、目の前の患者を救うことなのだ。愛人で秘書の榊原実梨(菜々緒)から「戦い方を変えたらどう」と入れ知恵をされた壮大は、深冬に切らせないことを条件に、女児の手術に賛成する。沖田を病院に残し、そして深冬を蒲生教授から守るための苦渋の決断だ(沖田の立場を危うくさせる意図もあったのかもしれない)。



 手術が行われることを知った深冬は「自分に切らせて欲しい」と沖田に頼むが、「いまさら何を言っている」「自分のしたいことがなんなのかわからない患者の身にもなれ」と突っぱねられる。深冬は「小児外科の存続は二の次。目の前の命を救うことに一生懸命な医者でありたい」と考えを改めたと伝えるも、沖田からの返事はない。そのまま手術が始まるが、事前に手術が行われることを聞かされていなかった虎之助が逆上して壮大に電話をかける。「沖田先生が蒲生教授の患者のオペをしている。なんてことをしてくれたんだ!」「そうしないと沖田先生を病院に引き止められなかった。深冬(の名前)を傷つけるようなことはしていない」「(手術室に)深冬までいるじゃないか!」。そう、メスを握っているのは沖田だが、深冬も手術に参加していたのだ。手術中に駆け込み、いますぐ患者の腹を閉じるように命令する虎之助。だが沖田は「ちゃんと見てください! 腸捻転でした」とはっきり言い返す。そして沖田は深冬に手術を任せる(脳腫瘍があることを知っている沖田は、万が一を考えて自身が手術するべきでは、とも思ったのだが……)。

 手術は無事成功した。父・虎之助が蒲生教授に、見落としを黙るかわりに(指導医認定のための)論文を正当に評価するように電話してくれた(脅した)こと、そして「これまで父にも主人にも逆らってはいけないと思っていた。医者として母親として覚悟がなかった。沖田先生のおかげで、これまでとは違う未来が始まる気がする」と深冬は沖田に感謝を述べる。一方、壮大は、約束を破り深冬に手術をさせた沖田に「なぜ切らせた」「深冬は俺に逆らったりしない」「まだ深冬のことが好きなのか」と問い詰め……というのが第三話のストーリーだ。

 今回の発見は虎之助が実は患者のことを第一に考える医師ではなかったという点だ。壮大と意見を違え、小児外科こそ壇上記念病院の原点であり縮小させないと考える虎之助だが、小児外科界の権威である蒲生教授に逆らってまで手術を行うような、患者思いの医師ではなかったようだ。第二話で、古馴染みの和菓子職人の手術で医療ミスが発覚した際、再手術を行うと医療ミスを認めることになると話す壮大や理事長に対して「院長の私が許可する」「責任は全て自分にある」とまで言った虎之助だったが、今回、蒲生教授の患者への手術を阻止するために「医療ミスが起きたらどうする。訴訟になったら(病院の経営にとって)大打撃だ」と語気を荒げていた。虎之助は、なにより患者を第一に考えている人間なのではなく、権威やしがらみに弱い人間であり、これまでの態度は馴染みの和菓子職人や小児外科を守りたいと思っていたからこそのものだったのかもしれない。



 そもそも筆者は第二話視聴の段階で、虎之助の無神経さが非常に気になっていた。前回放送では、自身の快気祝いに沖田を呼び、義理の息子であり、副院長であり、病院の方針で対立している壮大の前で、「(自身の心臓手術を成功させてくれた沖田に)お礼をしなくてはいけない。院長かあ?(笑)」と煽り、第三話でも「経営手腕のある副院長にお金を貸したつもりでいる(だから小児科は縮小して欲しい)」と銀行員から言われると「(うちには)沖田先生がいる」と、病院の立て直しに(良し悪しはさておき)尽力を尽くしている壮大をまったく尊重していなかった。

 本作では、ヒールの立ち位置になるであろう壮大だが、決して腕の悪い医者ではない。沖田も壮大の実力を、脳神経外科医としてトップクラスだと認めている。その上、院長と方針は違うとしても、壇上記念病院の経営を立て直しつつある功績もある。そもそも婿入りしてきたからといって、必ずしも副院長の座を壮大に与える必要はないだろう(事実、冗談半分ではあるものの沖田に院長の座をちらつかせていた)。自ら副院長の座を壮大に与えたにもかかわらず、壮大を無下にするのは身勝手ではないだろうか。蒲生教授に逆らわなかったように、様々なしがらみが、飲み込まざるを得ない理不尽が、理想を追求できない障壁がこの世界にあることは、院長である虎之助であれば十二分に承知しているであろう。なぜ壮大の苦労がわからないのか。

 浅野忠信が複雑な壮大の感情をうまく表現している。壮大の表情は常に硬いが、そこから様々な感情を読み取れる。野心や「深冬は俺に逆らったりしない」という台詞から「男らしさ」などに捉われていることも伺えるし、結婚前に深冬と付き合っていた沖田への強い嫉妬心も感じさせる。性格も屈折していて、目からは自信のなさが滲み出ている。そのくせプライドの高さややるせなさが、怒りで頬が紅潮する様子からわかる。壮大は、はっきりいって面倒な男だ。もちろん、沖田をアメリカの病院に追い出したのは壮大の策略であり、壮大には決定的な非がある。現時点では、壮大の悪いところしか見えてこない。だがそれにしても、虎之助はあまりにも壮大を認めなさすぎではないだろうか。

 もしかしたら、壇上虎之助は気に入っているものに贔屓するタイプの人間なのかもしれない。そしてそれによって沖田と対立が生まれることになるのかもしれない。虎之助の嫌な振る舞いが、沖田のブレなさを強調させる第三話だった。
(ドラマ班:デッチン)

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