安倍、岸田、石破…憲法改正口にするのは「目立ちたいから」

2月1日(木)7時0分 NEWSポストセブン

護憲派のはずの岸田氏はあっさり安倍私案に賛成(時事通信フォト)

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「我が党は結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた。いよいよ実現の時が来た」


 安倍晋三首相は国会召集日(1月22日)の自民党両院議員総会でそう宣言した。政治が国のあり方を大きく変える憲法改正に踏み込むというなら、国民はそれによって「明日は昨日とどう変わるのか」、火のような論戦を聞いてみたい。


 ところが、国会が始まっても、改憲という「結党以来の悲願」に挑むはずの自民党内には全く熱気が感じられない。自民党憲法改正推進本部の幹部が語る。


「本気で憲法改正を発議するなら、今頃は党内一丸となって国民に改憲の必要性を訴えていかなければならない。しかし、推進本部の幹部席には高村正彦ら引退議員と安倍側近が並び、総理へのお付き合いで『ああでもない、こうでもない』と議論しているだけ」


 長年、憲法改正国民運動の先頭に立ってきた保守派の論客、櫻井よしこ氏は、そんな自民党内のムードを見かねてこう叱責している。


「冷めたピザではないのだから、もっと熱をあげてほしい」(1月23日に開かれた「国家基本問題研究所」の月例研究会より)


“冷めたピザ”みたいな改憲論議など国民だって食べたくないが、なぜ、自民党内がそうなっているかの舞台裏を覗くと実力者たちの思惑が見えてくる。


「自民党リベラル派」を看板にする岸田文雄・政調会長はこの間、9条護憲派から改憲派へと転向し、“変わり身の早さ”を発揮した。


「9条の改正は不要という考えに変わりはない」


 モリカケ問題で安倍内閣の支持率が下がっていた昨年9月、岸田氏はそう語り、派閥の会合でも「宏池会(岸田派)は伝統的に憲法に愛着がある」と首相にはっきり距離を置いていた。


 だが、安倍首相が総選挙に大勝して求心力を回復すると、いとも簡単に憲法への愛着を捨てた。今年1月9日のテレビ番組では、「9条2項を残したうえで、自衛隊を明記すること自体は意味がある」と安倍私案への賛成を表明して見せた。


「将来、安倍首相から政権禅譲を受けるためにはここで恭順の意を表しておく必要がある」(岸田派議員)


 総裁レースが有利になるなら9条改正など賛成でも反対でもどっちについてもいいという無責任な姿勢が滲んでいる。


「自民党草案を変えるというなら総理が党内に説明すべき」


 そう批判して「憲法改正」を総裁選の宣伝材料に利用しているのが石破茂・元幹事長だ。


 自民党の正式な憲法改正草案には「国防軍」の創設が盛り込まれている。党内の9条改憲派にとって「国防軍」は悲願だ。


 かねてから現憲法の前文を「いじましい。みっともない憲法」と批判してきた安倍首相も、石破氏も、本来はともに国防軍創設論者だったが、首相は公明党を抱き込むために昨年5月、方針を大転換した。


「多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」


 そう語って9条に自衛隊を明文化する改憲私案を発表した。国防軍創設をあきらめ、9条改憲の“叩き売り”をしたようなものだ。それを石破氏は安倍攻撃の格好の標的と見た。


「自民党草案では国会を通りっこないというのは敗北主義だ」「交戦権なき自衛権という概念は存在しない」と叩き、“我こそは真の改憲派”をアピールしている。


「石破さんの言うことは一見筋論のようだが、本当の狙いは公明党との妥協をぶち壊し、安倍総理に憲法改正をさせないようにすることにある」(細田派議員)


 後に、石破氏は馬脚を現わすことになる。


◆改憲呼びかけ=自民党広告


 改憲のテーマは9条だけにはとどまらない。安倍首相は「教育無償化」をあげ、自民党憲法改正推進本部では、安倍私案の9条と教育無償化に加えて「参院選の合区撤廃」、「緊急事態条項」の4項目が議論されている。


 なぜ、幅広い憲法の中で4項目に絞られたのか。その裏にも打算が色濃い。保守論壇の大物、西尾幹二・電気通信大学名誉教授が語る。


「安倍首相の9条改正私案が公明党取り込みのための妥協なら、教育無償化は維新の党への配慮です。どちらも、憲法改正発議が国会で成立しやすくするためだけの取引材料。安倍さんは自分の手で改憲さえできれば中身はどうでもいい」


 憲法を改正した総理として歴史に名を残す。そんな安倍首相の姿勢を正論で批判しているように見える石破氏は、自民党の改憲4項目のうち「参院選の合区撤廃」の熱心な旗振り役だ。


 憲法学者の上脇博之・神戸学院大学法学部教授はそこに“我田引水”の不純な動機が見て取れるという。


「一票の格差是正で島根・鳥取と徳島・高知が合区された。自民党はそれを地域的不平等だとねじ曲げた論理で、憲法に各県から最低1人以上の参院議員を選出する条文を加えようとしている。鳥取選出の石破氏がそれを推進しているのは、地元選出議員を増やして自分の勢力拡大を考えているからでしょう」


 安倍首相が名誉欲なら、石破氏は数のために憲法もねじ曲げる。


 安倍政権は公明党や日本維新の会、希望の党の改憲賛成派などを取り込んで改憲案を発議し、来年7月の参院選に合わせて国民投票とのダブル選挙を実施する──というスケジュールを視野に入れている。


 その国民投票さえ、自民党にとっては参院選を圧倒的に有利に戦う“抜け道”に他ならない。


 参院選は公選法で新聞広告やテレビCMに規制があるが、憲法改正の国民投票は公選法の対象外で、第1次安倍内閣が成立させた国民投票法では、新聞や雑誌、ネット広告で改憲への賛成を呼びかけるのに制限が定められていない(テレビCMだけは国民投票14日前まで)からだ。しかも、政党交付金は自民党の年間約176億円に対して、立憲民主が約16億円、希望の党は約20億円で資金力は段違い。


「自民党がカネにまかせて参院選の公示後も憲法改正への賛成を呼びかける広告を新聞・ネットなどに流し続ければ、参院選で野党はひとたまりもない」(野党幹部)


 前出の西尾氏はこう言って嘆息した。


「憲法改正は国の根幹にかかわる大事業。目先の都合や政治的打算で行なわれれば、必ず将来に禍根を残す」


 こんな打算まみれの改憲論議の末に“自衛隊を合憲にしたぞ”と胸を張られても、最前線で国の守りにつく自衛隊員たちは虚しくなるばかりではないだろうか。


※週刊ポスト2018年2月9日号

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