岡村靖幸と講談師・神田松之丞が語り合った“結婚と幸せとモテ”

2月3日(日)11時0分 文春オンライン

 この日、新宿末廣亭の寄席に出た松之丞さん。タイミングよく岡村さんもその高座を初鑑賞。人気者ふたりの初顔合わせやいかに!?



◆ ◆ ◆


岡村 ナマで観たら、やっぱり迫力ありますね。講談をすごく現代的にわかりやすく、噛み砕いてくれる。傾(かぶ)いてるなと思いました。


松之丞 岡村さんにそう言ってもらえるのは嬉しいですね。


岡村 最後に師匠(神田松鯉)が出たじゃないですか。スタイルが似ているのかと思ったら、ぜんぜん違うんですね。師匠のほうはわりと淡々と話されていて。


松之丞 師匠も、若い頃は僕みたいにうるさくやっていたかもしれないんですが、歳とともに淡々と引き込むようなやり方になって。あの抑制が利いた感じも、講談の魅力なんですよね。今回、岡村さんに末廣亭まで来ていただいたのは、いろんなスタイルや寄席の雰囲気を味わってもらいたいというのがあったので、よかったです。


岡村 とても楽しかったです。


松之丞 あと、同世代の落語家に岡村さんのファンが非常に多い。「岡村ちゃん、聴けよ」って年中勧められるんですけど、今回、その理由がわかりました。DVDなどを見ると歌唱やダンスも圧倒的だし、エンターテインメントとしての完成度もハンパない。その一方で、結婚に関する対談をまとめた新刊を読むと、すごくフランクに話をしてるじゃないですか。こりゃ、みんな好きになるわって。


「飲む打つ買う」は芸に必要か


岡村 まさに松之丞さんも結婚されて、先日、お子様も生まれたとか。いま絶頂じゃないですか?


松之丞 客観的にはそうかもしれない。岡村さんも絶頂ですか?


岡村 どうなんでしょうね?


松之丞 違うんですか(笑)。


岡村 絶頂にもいろいろありますが、まず結婚したことがないです。


松之丞 そういうベタな幸せのパターンも欲しいんですか?


岡村 欲しいですよ。



松之丞 本を読んで、正直「この人、本当に結婚したいのかな」と思ってしまったんですよ。


岡村 よく言われます。


松之丞 好きな人を見つけたいってことなんですか?


岡村 それもあるし、結婚したり、子供作ったりして、幸せになっているんですよね、みんな。


松之丞 たしかにわざわざ言わないですけど、幸せですね(笑)。



思い通りにならないことのほうが音楽になる


岡村 幸せだと芸に対してハングリーになれないってことは?


松之丞 ないです。そこは別です。そもそもかみさんは、僕の講談をそんなに好きじゃないんです。


岡村 えっ? そうなんですか。


松之丞 そこが心地いいというか。たぶん岡村さんのつきあってきた人って、岡村さんの音楽も好きでしょう? 岡村さんと僕とを比較するのも失礼ですけど、僕の場合、いつかこいつ(妻)に認められるようにがんばろうっていう感じがあるんですよ。お互い、一切、口には出さないですけど。


岡村 そういう関係はとってもいいかもしれない。


松之丞 すごく仲はいいんです。向こうも演芸の仕事をしてるので、何を話しても通じる。ラクなんです。結婚前は「家で仕事の話なんてしたくねぇ」と思ってたんですけど、実は僕、そういう話を家で結構したい人間でした(笑)。


岡村 そういう女性と出会えたからじゃないですか? 僕は真逆のことが多かったです。


松之丞 真逆、というのは?



岡村 女性と仕事の話をすることは一切ない。打てば響くし、話し甲斐もあるし、みたいなことならいいと思うんですけど、なかなかないですよね。松之丞さんは、昔の芸人がよく言う、「飲む打つ買う」みたいな遊びが芸の血となり肉となる、という考え方については賛同できますか?


松之丞 まったくできないですね。そういう時代もあったと思います。でも、いまはもう、将棋で言うと羽生名人みたいな感じですよ。あの人、将棋以外に興味なさそうじゃないですか。ああいう名人像のほうが、芸人でも多いと思います。


岡村 たしかに。野球選手なんかもそうかもしれない。


松之丞 大谷選手だって、野球以外に興味なさそうですしね。きっと彼は野球が一番楽しいんですよ。岡村さんはどうなんですか? 世代としては、ちょうど上と下の世代に挟まれていそうですけど。


岡村 ええ、僕より上の世代には、何をやっても芸の血となり肉となるみたいな芸事に対する神秘性を持っている人は多いですよね。僕自身も、人に会ったりということが、作品の血肉となることがあるほうですね。


松之丞 例えば歌手だと、お酒を飲むことは喉に負担をかけますよね。それでも飲んだほうがいいこともあるんですか。


岡村 うーん、芸事という意味での善し悪しはわからないですけど、お酒を飲んだからできるコミュニケーションや会話はあるんですよ。


松之丞 なるほど、そうか。


岡村 ミュージシャンは特にそうかもしれない。お酒を飲んで初めて見えた街の景色みたいなものを血肉化している人は多いですね。あとお酒で、惨めったらしい気分になることもあって、それもまた血となり肉となります。



浪人中に、初めて談志師匠の古典落語を聴いた衝撃


松之丞 音楽って、ゼロからその人の世界を立ち上げる仕事だというのも大きいんでしょうね。岡村さんの世界は独創的ですし。


岡村 いろんなアーティストに影響は受けていますけどね。松之丞さんは、演芸の世界に興味をもったきっかけが談志師匠の落語だったんですよね。なのになぜ落語ではなく、講談だったんですか。


松之丞 大学に落ちて浪人中に初めて談志師匠の「らくだ」という古典落語を聴いた時に、これしかないっていう衝撃を受けて。こちらの若い感受性もあったと思うんですけど、帰りの道すがらずっと鳥肌が立ってました。それでいろいろと掘っていくと、談志師匠は講談も好きで、講談を噺に取り入れていることもあり、その要素に僕は惹かれたんだなということがわかったんです。


岡村 談志から入って、講談に行き着いたわけですね。


松之丞 講談っていまもそうなんですけど、過小評価されているんですよ。聴いてるのもおじいちゃんばっかりで。でも、待てよ。これって明治時代には全盛を極めたエンターテインメントだったというし、町内に一軒は講釈場があったという。もしこの世界に賭けて、変えてみせようという講談師が現れたらどうなるんだろうって。そういうプロデューサー的な視点というか、青臭いうぬぼれもありまして。まあ、若気の至りで、生意気なんですけどね。



岡村 いや、面白いですよ。高座見て発見だったのは、講談って二枚目の芸なんですね。


松之丞 僕自身はアレですけど、芸としては二の線ですね。


サイコパスのコンビニ店員のオファーが……


岡村 役者の仕事をやりませんかって言われたらどうします?


松之丞 興味ないですね。ポッと出のやつが出る、という行為があまり好きじゃないんです。もちろん役者でない人が素晴らしい芝居をするケースも知ってますけど。


岡村 むちゃくちゃ向いてると思いますけどね。


松之丞 岡村さんは役者をやられたことは?


岡村 何回かは。ぜんぜん向いてなかったけど(笑)。


松之丞 でも岡村さんのライブ映像を見てると、立っているだけで完全に場を掌握してるじゃないですか。あれ、すごく考えてやってらっしゃいますよね。ああいう能力は、役者でも生きそうですけど。


岡村 基本的にどのエンタメでも役者の要素はあるでしょうね。何かの役になったり、憑依したり。なんで松之丞さんにそれを聞いたかと言うと、役者のオファーがくるだろうなと思ったんですよ。


松之丞 1回ありました。「松之丞さんにピッタリの役が」って言われて、サイコパスのコンビニ店員の役でした(笑)。たしかにあってそうだし、出てもいいかなと思ったんですけど、スケジュールが合わなかった。


岡村 それは見てみたかったですね(笑)。




お互いぜんぜんモテなかった


松之丞 前から聞きたかったんですけど、岡村さんの歌詞って、モテない男の感情が生々しく描かれているじゃないですか。本当にモテてきたわけでもないのかもしれない、と思えるんですよ。


岡村 モテてきた歴史ではないです。逆にモテてたら、こういう感じにはなってないですよ。周りにモテモテの人っていました?


松之丞 バレンタインチョコを30個もらっているやつがいましたね。


岡村 真逆です、僕は。


松之丞 僕はその30個もらっているやつから7個ぐらい譲ってもらっていました(笑)。モテないことへのイライラはありました?


岡村 イライラというか、いかんともしがたいな、とは思いましたね。ただ、そうやって自分の思い通りにならないことのほうが、ある時は念となり、ある時は願いとなり、また、ある時は苦しみとなって、詞や音楽になるなと。


松之丞 だから岡村さんの歌は男にも共感されるんでしょうね。ウソがない。一方で、それをぶつける音楽の世界は、モテてるやつが多い世界でもあるわけですよね。


岡村 でもいろいろ見ていると、モテることに対する考察はけっこう深いです。ステレオタイプのモテそうな感じと、現実は乖離してますよ。


松之丞 たしかに一見モテなさそうでも、女性が放っておかない男性っていますよね。あれは何なんでしょう?


岡村 いろいろあると思います。女性に対する所作が心地いいとか、優しいとか。需要と供給の問題もありますよね。モテてるのかもしれないけど、そこは自分の住みたい世界じゃなかったり。



松之丞 素人じみた質問ですけど、岡村さんはご自分のどこが人気の要因になっていると思いますか。


岡村 わからないですけど、松之丞さんのお客さんは、「神田松之丞じゃないとダメ」でしょ?


松之丞 そうですねえ、うん。


岡村 それと同じですよ。


松之丞 いや、いま思ったんですけど、岡村さんのパフォーマンスがすごいからというのは当然として、飾らないですよね。そこがカッコイイなと。結婚したいとか、子供がほしいとか、ささやかな幸せをいまだ渇望されているところにも魅力を感じます。


岡村 でも、結婚も、子供を作ることも、「ささやかな幸せ」なんですかね? 長嶋茂雄さんも、ビートたけしさんも、ジョン・レノンさんも、みんなしますよね。


松之丞 たしかに。


岡村 ネットニュースとかを見ていると、誰々の第何子誕生みたいなニュースが多いですよね。お祝い事だからよく報道されるんだと思ってましたけど、あまりにもよく流れてくるんで、背後で何かが動いてる気もします。


松之丞 岡村さんがそういうニュースばかり気にしてると、自然とそうなるんじゃないですか(笑)。ネットで最適化されて。


岡村 そうか、僕がよく見てるから(笑)。


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写真=榎本麻美/文藝春秋



かんだまつのじょう/1983年東京都生まれ。2007年三代目神田松鯉に入門。二ツ目ながら独演会チケットが即日完売する講談師。TBSラジオ「問わず語りの松之丞」での忖度なきトークも人気。2020年2月に真打ちに昇進する。



おかむらやすゆき/1965年兵庫県生まれのシンガーソングライターダンサー。『GINZA』の人気対談連載をまとめた『岡村靖幸 結婚への道 迷宮編』(マガジンハウス)が好評発売中。待望の2年5カ月ぶりのシングル「少年サタデー」がリリースとなったばかり。





(九龍 ジョー/週刊文春WOMAN 創刊号)

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