辞任した水道民営化の仕掛け人と外資水メジャーの密接な関係

2月3日(日)16時0分 NEWSポストセブン

民営化推進は誰のため?(共同通信社)

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 水道民営化法案の成立目前に“仕掛け人”とされた官房長官補佐官が突如として辞任──奇しくも、野党がその補佐官と外資水メジャーとの関係を追及しようとしていた矢先のことだった。政権はこの出来事をまるでなかったかのように、民営化を全国で推進しようとしている。この重大疑惑は、このまま封じられていいのか。ノンフィクション作家・森功氏がレポートする。(文中敬称略)


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 コンセッション(民間企業への運営委託)という名の公共事業の民営化。その旗振り役が、「未来投資会議」委員の竹中平蔵東洋大学教授(元総務大臣)であり、その懐刀である前官房長官補佐官の福田隆之だ。


 竹中が参画する未来投資会議は、第二次安倍晋三政権で設置された産業競争力会議をパワーアップさせた政府委員会で、議長は日本経済再生本部の本部長を兼務する内閣総理大臣の安倍晋三。小泉純一郎政権のとき、オリックス会長の宮内義彦とともに規制改革の司令塔と呼ばれた竹中が、安倍政権でも再び同じ任を担う。ちなみに竹中は、関空コンセッションの中心であるオリックスの社外取締役を務めている。


 この竹中の腹心である福田もまた、関空コンセッションのアドバイザー企業「新日本有限責任監査法人」検討チームのリーダーだった。そこを外されたあとの2016年1月、官房長官補佐官に抜擢され、関係者を驚かせた。


 そんな竹中・福田ラインが、空港とともに旗を振ってきたもう一つの目玉政策が、上下水道のコンセッションである。ひと足先に昨年4月、下水道コンセッションが静岡県浜松市でスタート。上水道コンセッションが遅れたのは、水道法の改正が必要だったからで、昨年末の臨時国会で審議入りし、物議を呼んだのは記憶に新しい。


 さらに、その臨時国会を控えた矢先、キーマンの福田官房長官補佐官を名指しで批判した“怪文書”騒動のサワリは、本連載の第1回で書いた通りだ。福田はそのさなかの11月9日、唐突に補佐官を退任。水道コンセッション実現を目前にした突然の退任について、「業務に区切りがついたため」という菅義偉官房長官の会見を鵜呑みにした永田町の住人はいない。



◆ボルドー、バルセロナ、カンヌ


 手元にあるその文書はA4判用紙の10枚つづり。写真付きの福田の履歴書や竹中と福田の関係を記したチャート図、新聞報道のコピー、さらには補佐官任命時の復命書のような書面もある。そこには関係当事者しか知りえないようなことが記されている。まるで内部告発だ。その肝心の文書の中身については、これまでほとんど報じられていないので、改めて気になる箇所を抜粋する。


 とりわけ問題視されているのが、福田の補佐官就任1年後に関係者を引き連れて向かった2017年6月の欧州水道視察である。その【日程概要】としてこうある。


〈6月11日(日):羽田空港→シャルルドゴール空港着→パリ泊

6月13日(火):ボルドーへ移動→ボルドーの上水・下水処理施設視察→ボルドー泊

6月16日(金):カンヌへ移動→カンヌの上水施設視察→スエズ社とのミーティング→カンヌ泊〉


 6月20日まで10日出張の模様が記されているが、いずれも内閣府の出張記録と符合する。


〈ボルドー、バルセロナ、カンヌと完全にお遊びですね……こんなひどい出張久々に見ました〉


 文書には同行官僚たちによる福田の“取扱説明書”と思しきものまであった。


〈中華料理やアジア料理が好き。フランス出張の際は朝食に甘いものを食べる習慣(朝食にクロワッサンしかない)ことに苦しんでいた〉


〈補佐官室にポテトチップスを常備されている。菓子は全般的に好き〉


 文書の焦点は、視察先の「スエズ」や「ヴェオリア」といった仏水メジャーとの怪しげな関係だろう。次のような記載もある。



〈もともと福田氏とヴェオリアは接点があったようで、某マーケット関係会社に聞くと、かなりべったりとのこと。下水道のコンセッションの第1号は浜松町(注=浜松市)の案件なのですが、3月にヴェオリアを中心としたコンソーシアム(事業連合)に決まりました〉


 道路や空港、水道など社会資本整備のための公共施設の財産価値をインフラ資産と呼ぶ。その中で利用収入を伴う日本のインフラ資産は185兆円とされ、うち水道資産は120兆円と突出している。下水道が80兆円、上水道が40兆円だ。


 水メジャーにとって120兆円のインフラ資産のある日本の水道市場は、まさに垂涎の的といえる。民営化される日本の水道市場に舌なめずりする世界の水メジャーにとって、キーマンへの歓待などは安い御用に違いない。未来投資会議などを通じ、水道コンセッションを進めたのが、竹中・福田ラインなのは、念を押すまでもない。いったい何が起きているのか。


◆浜松市の皮算用


「PFI(民間資金等活用)法が改正され、国交省では自治体との勉強会を2015年10月から始めました。そこで浜松でコンセッションを導入する話があがりました。市町村合併により複数の市町村にわたった汚水を集める流域下水道について、浜松市という大きな市が管理することになり、その中でコンセッションはどうかという話になったのだと認識しています」


 日本初の下水道コンセッションを導入した静岡県浜松市について、国交省下水道企画課企画専門官の岸田秀は表向きの経緯をそう説明する。半面、コンセッションに携わった政府関係者は、以下のように打ち明けた。


「浜松市の鈴木康友市長は元民主党代議士だけど、衆院時代から菅官房長官と親しかった。3選目の2015年4月の浜松市長選では、自民が対抗馬の候補を立てず、それどころか官房長官自ら応援演説に駆け付けたほど。下水道コンセッション計画が二人の間で水面下の話として進んでいてもおかしくない」



 文字通りそれを補佐したのが福田だという話だ。で、浜松市の下水道コンセッションは、水メジャーの仏ヴェオリアが代表企業となり、日本側からは関空と同じくオリックスのほか、東急建設やJFEエンジニアリングなど5社の企業連合が参加。25億円で20年の運営権を市から買い取った。


 ヴェオリアについては、内閣府の民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)に日本法人の社員が出向している事実も判明。「利益誘導ではないか」と野党が責め立てた。


 浜松市では、コンセッションにより20年間で下水道事業費の14%にあたる87億円がコストカットできると皮算用をする。年に4億円のコストが浮く計算だが、それで20年間ずっと利益を出せるかどうか、甚だ不安でもある。


 民営化された世界33か国267都市の水道事業が、公営に逆戻りしている失敗などどこ吹く風。前のめりの浜松市は、臨時国会での水道法の改正を踏まえ、2022年4月から上水道コンセッションを目指す。また宮城県でも、2021年4月に上下水道一体のコンセッションを導入すべく動き始めている。これらに深くコミットしているのが、官房長官補佐官だった福田であり、外資の水メジャーと連携してきた。先の政府関係者が言葉を足す。


「浜松は水メジャーではヴェオリア単独で、ライバルのスエズは出遅れて競合していないので、福田氏がヴェオリアとかかわる必要はありませんでした。しかし、ヴェオリアの力の入れようを見て、これはうま味があると考えたのではないでしょうか。ヴェオリアにしろ、スエズにしろ、民営化後の巨大な日本の水道市場を虎視眈々と狙っている。彼らにとって官房長官補佐官は近づきたい相手であり、福田氏はちやほやしてもらえる。互いにメリットがあるわけです」


 ヴェオリアに続き、スエズは日本のゼネコン「前田建設」と上下水道事業で業務提携する覚書を結んだ。実は、スエズと福田との関係は深い。政府関係者はこうも言った。



「福田氏は補佐官としてフランスに都合3回出張していますが、視察先の中心がスエズの施設です。そのスエズは、彼が師と仰ぐコンサルタントのFさんをアジアアドバイザーとして押し込んでいる。Fさんは野村證券から米ゴールドマンサックス、豪マッコーリーグループと証券、投資銀行を渡り歩いてきた国際金融マンですけど、福田氏を可愛がっていましてね。


 福田氏はFさんがマッコーリーを辞めたあと、彼を新日本有限責任監査法人に引き入れ、コンセッションの相談をしていました。で、福田氏が新日本を辞めたあと、Fさんはスエズのアジアアドバイザーになった。スエズにとっても、Fさんは官房長官補佐官とつながっているから、使い道がありますからね」


 官房長官の菅の下、竹中、福田、Fというラインでさまざまなコンセッション事業を進めてきたという。


◆官房長官のビデオメッセージ


 もとより彼らの進めるコンセッションは水道だけではない。先の文書にはこうも記されていた。


〈福田が手を出しているのは静岡と北海道(の空港)。北海道は7空港一体で、PFIを活用しようとしている〉


 数ある空港コンセッションのなか、福田たちが目玉と位置付けるのが、北海道7空港をいっぺんに民営化する計画である。前出の政府関係者はこうこぼす。


「進行中の北海道7空港のコンセッションについて、国交省案ではもともと新千歳、釧路、函館、稚内の国管理4空港にとどまっていました。地方自治体所管の空港だと議会の賛成を得なければならないので、やりにくい。だからまず国管理空港をプラットフォームとし、あとからそこに加えればいい、という計画でした。


 ところが、福田氏はそこへ帯広や旭川を入れろと言い出した。福田氏は帯広市などと仕事をしていて仲がいい。道内の広域観光ルートづくりという旗印を掲げる菅官房長官の意向だとし、7空港のコンセッションをぶち上げたのです。国交省にとっては抵抗がありましたけど、官房長官を持ち出されるとどうしようもありませんからね」



 結果、帯広、旭川、女満別などを加え、北海道全域13空港の半分以上の民営化を目指すことになる。そうしてスタートした北海道7空港のコンセッションだが、その実、関空のときと同じく、具体的な計画は福田ではなく国交省が作成していったという。


◆企業のいいとこどり


「菅官房長官は特に民営化への興味はなく、観光が活性化すればいい。福田氏はそのあたりに食い込んでコンセッションの主導権を握ろうとしたのでしょうけど、現実的な計画作りは役人任せ。それでいて自分がやったとアピールするため、道内のシンポジウムを催したり、そこに官房長官のビデオメッセージを流したり。官房長官の言う広域観光ルートづくりの一環だといい、総理のご意向ではないけど、“官房長官のご意向”という形で主導権を握っていったのです」(同前)


 国交省では2016年中に7空港のコンセッション計画案を作成。ところが、そこへ竹中・福田ラインの横やりが入ったという。先の政府関係者が苦笑いした。


「あとはコンセッション事業者を募ればいい、という段階にまで来ていました。政府のアドバイザー企業には関空を手掛けた新日本監査法人が決まっていたのですが、福田氏は自分が辞めたあと、特定の監査法人ばかりがやるのはおかしい、などと言い出し、そこから振り出しに戻ってしまった。そうこうしているうち、竹中さんが未来投資会議で5原則のコンセッション方針を打ち出してきたのです。通称、竹中5原則と呼ばれ、これにより計画が1年近く遅れました」


 それが2017年2月19日の未来投資会議構造改革徹底推進会合。竹中の提案した5原則をわかりやすくいえば「7空港一体の枠組みの共有」「公平な入札」「提案や要求水準を遵守しない場合の契約解除」「民間の経営力と統合効果による成長」「管理者による出資の原則禁止」だ。それらは、さほど珍しい提言でもない。



「例によって福田氏が資料作りを担い、竹中さんが発表したのですが、中身は国交省や北海道庁で検討してきたものの焼き直し。つまるところ竹中・福田がイニシアティブを握るためのデモンストレーションで、そのせいで計画がずれ込み、今年ようやくコンセッション事業者を募集しているあり様です」(前出・政府関係者)


 慎重に検討するのは悪くはないが、つまるところ竹中・福田ラインの“自己承認欲求”の現われに過ぎない、と関係者は評する。


 民間企業の運営で利益をあげて累積赤字を解消しながら、有事や災害があれば、国や地方自治体が対応し、施設の補修も引き受ける──。ごく簡単にいえば、コンセッションはそういう公共事業の民営化である。企業にとっては、すこぶる旨味のある話の半面、国民にとっては、企業にいいとこどりをされているだけのようにも感じる。


 PFI、コンセッションの仕掛け人は政府を去ったが、この先、有識者として委員会に参加する模様だ。このまま竹中・福田ラインの思惑通りの「偽装民営化」が進むのか。


 先頃、東京都は水道コンセッションではなく、公営のままコストダウンする道を選んだ。なぜ公共事業を民営化するのか。安倍一強の威光を笠に着る者の手柄のためにあるわけではない。それだけはたしかだ。(了)


【PROFILE】もり・いさお/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)で「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション」大賞を受賞。近著に『地面師』(講談社)。


※週刊ポスト2019年2月8日号

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