楽天コーチに就任 伊藤智仁は富山GRNサンダーバーズに何を残したのか

2月4日(月)11時0分 文春オンライン

 伊藤智仁は、人を驚かせるのが好きだと思う。一昨年、ヤクルト退団後に、突然富山GRNサンダーバーズの監督就任を発表したり、文春野球アワードでサプライズ登場したり。そして昨秋、「楽天の投手コーチに招聘」というニュースも突然だった。


 一昨年の文春野球ウィンターリーグで、私は「伊藤智仁は何故『BCリーグ監督』就任を選んだのか」というコラムを書いた。BCLの現状を踏まえた上で、富山で彼が何をするのか楽しみだと書いた。昨年何度か富山に足を運び、生き生きと監督業を楽しむ彼を見た。それだけに、数年は留まることを期待していた。


 僅か1年。伊藤智仁は富山に何を残したのだろう。


 目に見える結果としては後期優勝を成し遂げ、湯浅京己(阪神6位)、海老原一佳(日ハム育成1位)の2選手をNPBドラフト指名に導いた。5月に西武に移籍したヒース、DeNAに復帰が叶った古村徹と合わせればNPBに4人。充分な実績だ。残る選手達は何を受け取ったのか。そして二岡智宏を新監督とするチームは、それを今後どう生かしていくのだろうか。伊藤智仁とサンダーバーズをもう少し知るために、1月の富山を訪ねた。



篠塚和典氏との対決時のマウンドに立つ伊藤智仁前監督


選手・コーチが語る伊藤前監督


 常に伊藤前監督の傍らにいた野手コーチに話を聞いた。大士コーチ(33)は地元富山出身で、選手として在籍した後2014年からはコーチを務めている。入れ替わりの激しいチームの中では貴重な古株だ。伊藤前監督について「現役時代を知らなかったのでは?」と問えば「ゲームで使ってました」と笑う。「伊藤智仁を使うと三振取れるんですよ!」。そんなレジェンドに、最初はコーチや選手たちも接し方を迷ったようだ。しかし監督の方からぐいぐい来るので、馴染むのは速かったという。


「BCLの日程には苦労していました。NPBなら3連戦があれば同じ場所ですが、僕らの場合は1日ずつ試合と移動の繰り返しになることもある。移動にも新幹線などは使えません。それはかなりきつかったようです」


 投手に付きっ切りで指導をする場面は見たが、野手へはどんな風に接していたのだろう。


「配球など投手目線からの指導はありました。前は野手出身の監督だったので新鮮でしたね。この投手はこのカウントならこうくる、とか」


気さくな監督も、厳しさを感じる場面はあったという。


「『これが出来ないと使わない』というようなことははっきり言っていました。やはり投手には厳しかったです」


 昨年キャプテンを務めた河本光平内野手(24)は、「キャンプ前の自主トレで『声出させろ!』と活を入れられましたが、監督を怖いと思ったことはないです」と言う。


「ヤクルトの選手はこういう練習してたよ、とか、この動画見るといいよ、と教えてもらいました」


 河本は鈴木尚広氏の動画を研究し、2018年には盗塁数を倍増させている。



「キャプテンとしては、チームを代表する選手だから模範となるように、と言われました。野球以外でも手本になるように、と」


 昨秋のドラフト時、河本はチームメイトが指名される横にいた。悔しい経験だが、伊藤前監督には「あと1年頑張れ」と励まされたという。



二岡新監督へのバトンタッチ


「伊藤監督には、基本的にやりたいようにやらせてもらいました」と言う乾真大投手(30)は、昨季14勝を挙げたエースで、チームの柱だった。今季は投手コーチを兼任する。


 日ハム・巨人とNPBを経験した左腕は、伊藤と同様2018年に入団した。伊藤からは「打たれていいから何でもやれ」と言われ、本当にありがたかったと振り返る。


「NPBではほぼストレートとスライダーしか投げられなかったんです。でもツーシームとかシンカーとか、投げられなかった球種を投げられるようにしたくてここへ来た。試合で投げてみろ、打たれてもいいから色んなボールでストライクとれ、と言ってくれた。それが大きかったですね」


 アドバイスをもらい、それを次の試合に実行して生かし、1年の最後には多彩な球種でストライクが取れた。自分の成長を実感した。



 伊藤前監督とのエピソードとして「キャッチボールであんなに怖いと思ったのは初めてです(笑)」と語る吉田凌太投手(20)は富山出身。同郷のヤクルト中澤雅人とは子供の頃に親交があり、目標とする投手は「石川雅規」。自然と応援してしまう小柄な左腕だ。


 スピンの効いたキャッチボールのほか、スライダーの回転分析でも「ホップ成分のある横回転」で選手達を驚かせたというから、伊藤智仁のボールは今も健在らしい。


「試合では失敗を恐れず何でもチャレンジさせて頂きました。ストライクはいつでも取れる自信があるので、そのストライクをどう取るか色々試しました。結果的にシーズン終わってみると、ストライクを取れるパターンが増えて投球の幅が広がっていました」


 吉田も「監督に怒られたことはない」と言う。伊藤を支えとし、思い切り挑戦を繰り返して、選手達は自分を成長させることが出来た。


「伊藤監督が残したものを、それぞれがどう生かしていくかが結果に繋がると思います。二岡監督になって攻撃力が上がれば、理想の野球が出来るチームになれる」。そして、「今季の富山は強い自信があります」。吉田はそう言いきった。


 その他にも伊藤前監督からスライダーを伝授され、抑えで活躍した菅谷潤哉投手(24)や、楽天・ヤクルトに在籍した榎本葵外野手(26)も残留する。榎本は伊藤が声をかけ昨季途中に入団した。伊藤もはっきりと「榎本が入ってからチームの打撃が良くなった」と言っていた。攻走守にその存在は大きい。



 昨年後期の優勝時は、投打が噛み合い勝ちを重ねた。今季のチームは「やはり乾と榎本が中心になるでしょう」と大士コーチは言う。「しかし二人に頼るのではなく、全体がレベルアップして二人がサポートに回るぐらいになれば」。選手の話からは、昨年成長を強く実感したことが窺えた。新戦力も含め、今年の変化が楽しみだ。


 伊藤智仁は、企画でも人を驚かせた。篠塚和典氏を招いて再対決。古田敦也氏を招いて逆バッテリーの始球式。後期優勝ではビールかけ。地方番組などにも積極的に出演した。チームにも地域にも溶け込んでいた様子が、周りの話から窺える。富山のために、球団と選手のために、伊藤は様々に考え尽力していた。今季、二岡新監督がどんなアイディアを見せるのか注目したい。


 1月12日。ショッピングモールでの新入団選手記者会見には、例年以上の人が詰めかけた。二岡新監督を迎える周囲の熱気は予想以上だ。大部分の選手にとっても「子供の頃のヒーロー」「スター選手」である二岡智宏。監督就任のニュースには、皆目を輝かせたという。伊藤のインスタには二岡との笑顔のツーショットがアップされた。期せずして実現した「智さん」リレーは、最強の継投となるかもしれない。
















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サンダーバーズ監督! #二岡智宏 #富山GRNサンダーバーズ #東北楽天ゴールデンイーグルス


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(HISATO)

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