『左江内氏』で話題沸騰 佐藤二朗のアドリブ芝居が進化

2月4日(土)16時0分 NEWSポストセブン

『スーパーサラリーマン左江内氏』で話題の佐藤二朗(公式HPより)

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 人気ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)では、堤真一のさえないサラリーマンぶりが好評だが、もうひとりツイッターを中心に話題を集めている出演者が佐藤二朗(47才)だ。毎回、さまざまなキャラを演じ分け、堤と絶妙のかけあいを見せるのだが、2人のやりとりはなんとアドリブだという。佐藤のアドリブ芝居の進化について、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。


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『スーパーサラリーマン左江内氏』で、ネット上の反応が最も多いのは、佐藤二朗さんの登場シーンです。各話3分弱のワンシーン限定出演ながら、1話ではカラオケボックス、2話ではバッティングセンター、3話では漫画喫茶の店員として、堤真一さんと抱腹絶倒のかけ合いを見せました。


 いかにも佐藤さんらしいのは、それぞれ「テンションゼロの中年フリーター」「ふた昔前の少年野球コーチ」「コミュ障だけど雄弁なオタク」など、キャラクターの裏設定があること。どもったり、息が切れたり、あくびをしながらしゃべったり、語尾に「ザンス」「ゾイ」「左様」「バカヤロー」を出し入れしたり、話し方や表情をガチャガチャのように変えています。


 驚かされるのは、堤さんとのかけ合いが「本番のみの一発勝負」であること。堤さんは、「佐藤さんがどんなキャラクターでどんな演技をするのかまったく知らない」状態で撮影に挑んでいるため、「2人がどんなアドリブ演技を見せるか」というドキュメント要素があるのです。ちなみに1話で2人が“恋ダンス”を踊ったシーンも、佐藤さんは事前に振り付けを見せてもらえず一発勝負でした。


 佐藤さんのアドリブは、昨年放送の『ニーチェ先生』(日本テレビ系)でも爆発していましたが、今作では堤さんとの化学反応でさらなる進化。「笑いの裏に密かな緊張感や違和感が透けて見える」という点では、笑福亭鶴瓶さん司会のアドリブ芝居番組『スジナシ』(TBS系)を思い出させるものがあります。


 佐藤さんの演技がなぜ人々の注目を集め、ネットで盛り上がるのか? その理由は、「こんなヤツいるいる」と「いやいや、いないよ」の両論を生み出す役作り。しかも、同じオタク風のキャラクターでも必ずディテールを変えるなど、安易に前回の演技を踏襲しないので飽きられないのです。


 また、「延長なさる、なさらざる?」「おきゃ、おきゃ、おきゃくさ、オッキー、オッキーさん」「あまりなるほどと思っていないがなるほど」「激しく同意、あるいは御意」などの迷言も見どころの1つ。このように佐藤さんは多彩な仕掛けを用意し、それを長年続けていますが、「独りよがり」「エゴイスト」という印象を持たれないのは、「あくまで作品や共演者ありき」だから。ひょうひょうとした佇まいの裏には緻密な計算があり、だからこそコメディの質をワンランク上げられるのでしょう。


 佐藤さんと言えば、今作の脚本・演出を手がける福田雄一さんや、コメディの第一人者・堤幸彦さんの作品でのコミカルなイメージが強いものの、それは“俳優・佐藤二朗”のごく一部に過ぎません。


 その素顔は、二度の会社員生活を経ても、文学座などの養成所で挫折しても、役者の道をあきらめず、自ら劇団『ちからわざ』を旗揚げした熱さの持ち主。「ああいうコミカルな芝居ばかりになるのもよくない」と語る冷静さも兼ね備え、底知れない怖さ、時折見せる弱さ、背中に漂う哀しさなどを演じ分けられる俳優です。


 事実、『人間の証明』(フジテレビ系)、『砂の器』(TBS系)、『医龍』(フジテレビ系)、『わたしたちの教科書』(フジテレビ系)、『JIN-仁-』(TBS系)など、シリアスな作品との相性も良好。今年の元日にもドキュメンタリードラマ『江戸城無血開城』(NHK BSプレミアム)で西郷隆盛を緊張感たっぷりに演じていました。「そろそろ違う顔の二朗さんも見たい」というドラマファンは多く、個人的には意表を突いて“普通の人”の演技が見てみたいところです。


 私はかつて佐藤さんに2度取材し、飲酒拠点・高円寺でも3度会って言葉を交わしたことがありますが、売れっ子の今も「他の俳優が出演している作品を見ると悔しくなる」という若々しさと、後輩を気づかい、声をかける優しさの持ち主。このところ『A-Studio』(TBS系)、『ネプリーグ』(フジテレビ系)、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)、『フルタチさん』(フジテレビ系)などバラエティー番組からのニーズが高まっている背景には、こうした人間性もある気がします。


 進化し続けるアドリブがどこに行き着くのか。それとも、別の何かを見いだし、洗練させていくのか。演技に加え、脚本・演出の実績も豊富であり、ツイッターも書籍化される人気ぶり。佐藤さんが今後どのような道に進み、日本の映像・演劇界にとってどんな存在になっていくのか、楽しみでなりません。



【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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