小兵よガンガン打ちに行け——ベイスターズ柴田竜拓を応援したくなる理由

2月5日(水)11時0分 文春オンライン

 僕が一番好きな野球小説は、ジェームズ・サーバー1941年の短篇"You Could Look It Up”(訳せば「調べりゃわかる」)である。日本では以前、文春文庫から出ていた野球小説アンソロジー『12人の指名打者』に「消えたピンチ・ヒッター」の題で入っていた。


 0対1とリードされた9回表ツーアウト満塁、弱小チームの四番打者登場というところで、何と監督が代打を告げる。代わりに打席に立ったのは、秘密兵器パール・デュ・モンヴィル。何しろ身長90センチに満たず、これはちょっとやそっとじゃストライクが入りそうにない……。


 10年後、小説は現実になる。1951年8月、大リーグのセントルイス・ブラウンズ(現ボルチモア・オリオールズ)が身長109センチの新人エディ・ゲーデル(背番号8分の1!)を代打に起用し、ゲーデルは期待どおりストレートの四球を選んで、代走と交代した。精一杯低く構えたストライクゾーンは4センチに満たなかったという。コミッショナーはこれを野球への冒瀆と受けとめ、ゲーデルの契約を無効とし、彼のキャリアはあっさり終わりを告げた。これ、噓じゃないです。それこそ「調べりゃわかる」。


打ちたいという欲求を抑えることができず……


 で、小説に話を戻すと、こちらもやはりピッチャーがいくらがんばってもストライクは入らず、たちまち3—0。押し出し四球で同点も間近かと思えたが、4球目の比較的低めのボールを打ちたいという欲求を、ああ、パール・デュ・モンヴィルは抑えることができなかった。バットが振られ、ボテボテのセカンドゴロは普通ならまず内野安打だが、パールの走りは赤ん坊のよちよち歩きのように遅く、あえなくアウトでゲームセット……。


 3-0のカウントでバットを振らずにいられなかったパール・デュ・モンヴィルに、僕は共感する。おそらくその球は、彼が生涯で得るであろうもっともストライクに近い球だったのだ。どうして打たずにいられよう?


……などと妙に熱く擁護してしまうのは、僕自身も身長157センチしかないチビだからである。相撲取りだって小兵を応援する。昔なら舞の海、今なら炎鵬。


……で、あるからして、横浜DeNAベイスターズの背番号31、167センチの内野手を、どうして僕が応援しないわけがあろうか。野球選手における167センチは、一般人における157センチより相対的には「低い」と言えるだろう(調べてみると、プロ野球全選手中、低い方から3番目)。しかもこの選手、名前は柴田なのだ!



167センチの柴田竜拓 ©文藝春秋


 実際、柴田竜拓が打席に立つと、ストライクゾーンは他の打者に較べて間違いなく狭く見える。ピッチャーも投げにくそうである。その利点と、持ち前の選球眼を活かして、粘り強く四球を選んで次の打者につなぐ、といった展開を我々は何度となく目にしてきた。これに軽快な守備が加わって、守備固めを主な仕事とする有能な控え選手、というチーム内の位置が固まりそうに思えた。



積極的に打ちに行く傾向が強まってきた柴田


 まあそれはそれでいいのだが、昨年の夏あたりから、柴田はサーバーの小説に出てくるパール・デュ・モンヴィルのごとく、四球を狙うより積極的に打ちに行く傾向が強まってきた気がする。しかもその果敢な打撃は、ここはパール・デュ・モンヴィルとは違い、決して悪くない確率でヒットや長打になるのだ。昨年のクライマックスシリーズのファーストステージ、阪神との第1戦、満塁でタイムリーを放った姿などは単純にほれぼれとさせられた(あの試合、結局6点差をひっくり返されて負けてしまいましたが……)。今年もガンガン打ってレギュラーの地位を獲得してもらいたい。電話で名前を伝えるときなど、シバタ、と言って「どういう字ですか」と訊かれたときに「ベイスターズの柴田と同じです」と言えば伝わるようになってほしい。



 テレビで観ていると、柴田は筒香と仲がよさそうである。今年はその筒香がベイスターズから抜けてしまい、柴田への影響が気がかりだが、むろん筒香の大リーグ行きについては、柴田のみならずチーム全体への影響が気がかりと言うべきだろう。選手としての実力はもとより、精神的にチームを引っぱっているという面も見ていて大いにありそうだったから。


 もちろん僕としても筒香が抜けるのは残念だが、ただ……チームとしてのバランスから見ると、ひょっとしたらプラスにはたらく可能性もなくはないのでは、と思う。主軸打者4人のうち3人が、かりに相撲取りになっていたとしてもおかしくない体格というのは、やっぱりちょっと問題ではないか。筒香、ロペス、宮崎、みんなよく打つのだが、走塁はあまり期待できず(3人よりはよほどスリムなソトも、走塁という点では似たり寄ったりである)、このチームは何本ヒットを打てば点が取れるのか、と思ってしまうことも一度や二度ではない。俊足巧打の選手がのびれば(あるいは梶谷あたりが復活すれば)バランスとしてはよりよい打線が出来上がるのではないか。


 加えて、黄金の左投手陣(今永、濵口、石田、東)のうち3人が好調を保てば、そしてソトの全盛期が続きロペスにまだ下り坂が訪れなければ、そうして何より、柴田がガンガン打って積極的に盗塁もして守備も華麗に決めれば……とまあやたら「れば」が多いのだが、そうしたら、今季は優勝のチャンスも大いにあるはず——と、毎年似たようなことを言っている気もするのだが、まあとにかく、筒香がレイズで活躍し、筒香なきベイスターズも快進撃、という虫のいいシナリオを実現して、ラミレス監督を——そしてついでにスターマンを——胴上げしてほしい。


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(柴田 元幸)

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