明石市長の暴言の裏にメディアが作った「確証バイアス」の罠

2月5日(火)7時0分 NEWSポストセブン

辞職願を提出した泉市長

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 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人やトピックスをピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、市職員に暴言を吐き、物議を醸している兵庫県明石市の泉房穂市長を分析。


 * * *

「火付けてこい!今日、火付けて捕まってこい、お前。燃やしてしまえ! 燃やしてこい、今から建物、ふざけんな」


 衝撃的な音声が映像から流れてきた。怒りを露わに声を荒げ、暴言を吐いていたのは兵庫県明石市の元市長泉房穂氏だ。暴言を浴びせられたのは、明石駅前の国道の拡幅事業で交渉を担当する職員。聞いた瞬間、「このハゲー!」と叫んでいた豊田真由子元衆議院議員を思い出した。そしてこう思った。


「あぁ、またパワハラか…」


 職員らがボイスレコーダーを持ち込んでいたのだろう。だとすれば、暴言は度々行われていたと考えるのが筋だ。案の定、泉氏による感情的な言動により、度々、騒動が起きていたという報道が続々出てきた。やっぱり単なるパワハラなのかと先入観が芽生えてくる。暴言に耐えられなくなった職員が、マスコミを通じて泉氏の言動を糾弾しようとしたのか。そう思えてしまう。


 この時、報じられていた音声は、衝撃的なフレーズを強調するこの部分だけだ。そのため泉氏が行った謝罪会見では、先入観にそった情報ばかりが目についてしまう。「確証バイアス」という思考や判断のクセだ。


 暴言を認め「自分自身の発言は許されないものであり、深く反省しております」と唇を噛みしめ、深々と頭を下げた泉氏。だが肩には力が入って首をすくめ、視線を落とし、前を見る時は上目使い気味、どこかおびえた印象だ。弁解も言い訳もしなかったが、既にパワハラ市長という先入観が生じているだけに、強い者には巻かれ、弱い者には高圧的になりやすいタイプなのかと思えてくる。地元でないため、泉氏が市長として、どんな功績を上げてきたのかわからないという点も先入観を強くする。


 テレビの情報番組では、泉氏が国会議員だった当時の映像も流れた。国会で自信満々にはつらつと発言している様子は、会見での低姿勢と比べると「あぁやっぱり」という印象を強くさせるものだった。


 この時までは、メディアもネットも後追いするような記事ばかりで、反証するような情報は出ていなかった。


 



 会見や映像から判断する時、怖いのはここだ。先入観にとらわれると、自分の考えや印象に一致するような情報ばかりを探すようになる。集めた情報から自分が正しいと思い込むと、一部の映像や音声だけで起きていた状況を判断してしまう。ここに確証バイアスの“罠”がある。違う情報や反証する情報があるのかどうかを確かめようとしなくなってしまうのだ。


 折しも、東京都町田市の都立高校で教師が生徒を殴った動画がSNSで拡散し炎上。教師は謝罪したが、動画は生徒が炎上目的で挑発したものだと判明。挑発した生徒に非難や批判が集中するという騒ぎになったばかりだ。泉氏の場合はどうなのか。暴言は1年半以上も前のもので、4月には市長選が予定されている。このタイミングでの報道に何らかの意図があるのではとの憶測も飛び始めた。


 やはり音声には続きがあった。

「2人(担当者)が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ」


 暴言を吐いていただけではなかった。そこには理由もあった。問題となった道路では慢性的に渋滞が発生し、事故が多発。死者まで出ていた。そのための拡幅工事で用地買収に時間がかかり、完成予定が大幅に遅れていたという。だからといって、暴言は許されることではない。

 

 一度は辞任を否定し、市長選に出馬して「有権者の判断を仰ぐ」と述べていた泉氏だが、再び会見を開くと「大変無念です」と涙しながらも、「自分への処分は辞職以外ない」と語気を強めて辞任を表明した。当初、苦情や批判が殺到していた明石市には、泉氏を擁護する声が多くなっているという。


 音声や映像が衝撃的であればあるほど先入観にとらわれる。切り取られた報道だけを鵜呑みに判断してしまうと、疑問をもたなくなってしまう。今回は続きの音声が流れたが、メディアやネットにそれ以上の情報が出てこなければ、いくら確かめようとしても確かめられない場合もある。今の情報社会の怖いところだ。だからこそ、情報を受ける側も発信する側も、思考を柔軟にしておくことが必要だろう。

NEWSポストセブン

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