芸歴70年。堺正章が考える<芸能界に長く居続けられたワケ>とは?「人気が熱を帯びて快感に酔ってしまったら、そのうち絶対にダメになる」

2025年2月6日(木)12時30分 婦人公論.jp


堺正章さん(撮影:小川カズ/写真提供:飛鳥新社)

人生の後半戦、「仕事とどう向き合ったらよいか?」「どんな人と関わっていくべきか?」など、生き方について悩んでいる方もいるのではないでしょうか。そんななか「人生、まだまだ希望がないと張りがなくなってしまう。老化や衰えも客観視して面白がらなければ」と語るのは、司会者や歌手として幅広く活動する78歳・堺正章さんです。今回は、そんな堺さんの初エッセイ『最高の二番手』から、堺さん流の人生訓を一部ご紹介します。

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僕が芸能界に長く居続けられた理由


魑魅魍魎(ちみもうりょう)がはびこる芸能界という摩訶不思議な世界で、僕はずっと生きてきた。TV放送がスタートした昭和の時代から、芸能界はテレビとともに勢いを増し、大きくなっていった。

そんな世界でずっと暮らしながら、その中の様子を眺めてきたが、僕はそこでいったいどうやって今まで生き延びてこられたのか。自分でも不思議でならない。

目に見えないなにかに守られてきたのか、ご先祖様が助けてくれたのか。僕にもわからないけれど、ときどき芸能界の後輩たちからこんな相談を受けることがある。

「僕はこれからどの方向に向かっていったらよいのでしょうか」

「厳しい芸能界の中で焦ることはなかったんですか?」

「芸能界で長続きするにはどうしたらいいんですかね」

ぐいぐいと質問を畳みかけてくる彼らには、「おいおい、ちょっと待ってよ。お気楽に見えてもさ、僕だって意外と頑張ってんのよ」などと返してはみるものの、一方で、なんとなくはわかっている。どうやら僕は、恐ろしい芸能界の荒波の只中をふわりふわりと機嫌よく漂っているように見えるらしい——。

誰しもが「一番手」を目指す


昔、イギリス人の知り合いからこう言われたことがある。日本人は頑張り屋だからみんな社長になりたがる、と。たしかに、高度成長期の日本では一位を目指すことが美徳とされ、真面目な日本人は上昇志向が強かった。

今はもっと個人主義な時代で、どちらかというと事なかれ主義になってしまっているかもしれない。だが、組織に属していれば、どうやって頭ひとつ抜きん出ようかと、その頑張り方を模索する人も多いだろう。

とくに芸能界には、「番手」というものが存在する。「一番手、二番手……」と言う場合のあれだ。番手は、もともとは歌舞伎における役の出番を表すもので、芸能界では、最初のクレジットタイトルやエンドロールに名前が流れる順番のことを指す。

ドラマや映画だけでなく、バラエティ番組でさえ順番があり、年齢に関係なく、主役だったりMCだったり、その番組の中での貢献度や人気度が高い順に、一番手からクレジットされる。

また芸能界は、TVなら視聴率、映画や舞台なら興行成績、またありとあらゆるアンケート結果など、いつでも、どの方向からも順位づけされるという特殊な世界だ。だから誰しもが一番を目指し、それを目標に努力するのが常となる。演技や話術を磨き、その道の頂点を目指す。学校だったら成績一番、営業ならトップセールスマンを目指すように。

一位になるより難しいこと


とはいえ、必ずしも努力が順当に報われる世界ではない。日々どんなに努力を重ねても、なかなか日の目を見られない人がいる一方、一瞬の勢いで一位を易々と獲ってしまう人もいる。若さや新しい個性で世間を魅了し、あっという間にトップを飾る人はたくさんいるものだ。

しかしもっとも難しいのは、一位になることではない。一位をキープすることだ。


(写真提供:Photo AC)

突然、ドラマティックな速度でトップを獲れば、飽きられる速度も同じだけ速い。悲しいかな、ブームとは「はしか」みたいなものだ。急激に上昇したと思ったら、落ちていくときは真っ逆さまに急降下。すぐに誰かに取って代わられ、忘れ去られてしまう。人気なんて、そんな頼りないものである。

だから、心底「いいね」と言われるようになるための本当のスタートは、世間からの注目がいったん離れてからだと思う。僕もザ・スパイダースでひと息に人気に火がつき、それが急激に退潮したあとで、自分について冷静に考えた。僕の目指すべきところは、人気者になることじゃない、エンターテインメントの腕を磨くことなのだと。

若い頃は、なりふりかまわず一位を目指す時期も必要かもしれない。けれど、決してブームに浮かれ、そこに甘んじてしまってはいけない。もし、人気が熱を帯びてきて、その快感に酔ってしまったら、そのうち絶対にダメになる。自分で人気に水をかけ、あえてブームの火消しをするくらいがちょうどいい。

一位になんかならなくていい


一位になんかならなくていいのだ。そして、もし自分が今、ピークにあると感じたら、これは本当のピークなんかではなく、まだまだ自分は上昇途上の過程にあるのだというポジショニングを取ればいい。

脳にそういう意識をさせれば、今以上に成長することもできるし、また精神的にも強く楽しくいられるはずだから。

「傑作は常に次回作」である。自分で自分の天井を決めてはいけない。がむしゃらに一番を目指す必要もない。二位でもいいのだ。同じ場所で太く長く生きていこうと思ったら、「最高の二番手」になるべきだ。

※本稿は、『最高の二番手』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

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