“ガラケー女”に間違われた女性、人生を変えた壮絶な1日

2月7日(金)16時0分 NEWSポストセブン

“ガラケー女”と間違えられ、冤罪被害を受けたAさんは釈明記者会見を開いた(共同通信社)

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 ある日突然、自分の名前や顔写真、住所などの個人情報がインターネット上で公表される。それも、犯罪者として──もちろん、身に覚えはない。情報が広がるスピードは速く、2時間もあれば数百万人が、自分を犯罪者として叩き始める。家族まで危険にさらされ、仕事の信用も失う。


 そんなこと、自分の身には降りかかるはずがないと思っているのではないだろうか。しかし、こういったネットでの誹謗中傷事件は10年ほど前から増え続けている。なぜ、こんなことが起こるのか…。誹謗中傷書き込みで犯罪者にされた被害者を取材。彼らもまた、まさか自分にこんなことが…と思っていた。常磐自動車道で2019年8月10日に発生した「あおり運転殴打事件」では、宮崎文夫被告が、当時24才の男性にあおり運転を仕掛け、その後無理矢理停止させ、「殺すぞ」などと怒鳴りながら殴打した。その様子を脇でガラケーを使い撮影する「ガラケー女」も注目された。


◆あおり運転事件の容疑者“ガラケー女”と間違われ、1日で人生が一変しました…


【2019年8月17日(土) 午前4時】


 2019年8月17日土曜、朝4時。1件の投稿がツイッターに上がった。そこには、ある女性の顔写真とともに「#ガラケー女 ○○(女性の本名)」の一文が書かれていた。その後さらに別のツイッターも上がり、そこには、女性の顔写真とともに「あおり運転 指名手配犯 ガラケー女 ○○(女性の本名) 拡散希望」といったつぶやきが──。


 このツイートは瞬く間に広がり、その女性の顔と名は犯罪者として日本中に知れ渡ることとなった。


【2019年8月17日(土) 午前6時】


 彼女が事態に気づいたのは午前6時のことだった。


「あの日は、休日だったにもかかわらず、早朝からたくさんのメールが送られてきたんです。タイトルには『宮崎の女だろう』などと書かれており、わけがわかりませんでした。電話も執拗に鳴り続けていたのですが、知らない番号だったので無視していると、友人から連絡が。慌てて出ると、私を犯罪者とする内容の情報がネットに流れており、実名と顔写真も公開されていると教えられました。何が起こっているのか状況がわかりませんでしたが、自分が犯罪者扱いされている事実に対し、どう対処すべきなのかを考えました」


 当時を振り返り、そう話すのは、茨城県で起きたあおり運転殴打事件の容疑者と間違われ、ネットに個人情報を流されてしまった被害女性Aさんだ。落ち着いた物腰、冷静な語り口調の彼女だが、当時はパニックを起こしたという。


 この事件は、8月10日に起こった。宮崎文夫被告の車に同乗し、その蔵匿・隠避にかかわった、通称「ガラケー女」と、インスタグラムにアップされたAさんの写真の服装やサングラスがたまたま似ていたことと、宮崎被告がAさんのインスタグラムをフォローしていたことから、Aさんが「ガラケー女」だというデマが流されたのだ。


【2019年8月17日(土) 午前7時44分】


 苦情の電話が300件以上鳴り、インスタグラムへの誹謗中傷だけでも1000件以上。知らない人からのいわれのない悪口や脅迫にさらされ、通常なら、恐怖で思考停止になってもおかしくはない状態だ。にもかかわらず、彼女の行動は早かった。


「何をしていいのかわからなかったのですが、とにかくなんとかしなきゃと必死でした。周囲の人に相談しても、誰も経験のないことで、答えが見つからない。なのに、私への投稿はものすごいスピードで増え続け、一時、インスタグラムが読み込み中のまま開かない状態にまでなりました。怖くて仕方がなかった。それでとりあえず、フェイスブックに自分の声明を投稿することにしたんです」(Aさん)


 それが7時44分のこと。


《起きたら犯罪者扱いされててびっくりですが完全に事実と異なりますので無視してください》


 こう投稿するが、これがさらに火に油を注ぐこととなった。《捕まれBBA(ババア)》《殺人未遂犯した後にのうのうと生きてインスタ更新できないよね。(中略)精神異常者》をはじめ、文字にすることもはばかられるような誹謗中傷が殺到。Aさんは、自分では対応しきれないと、朝9時に知人に相談。そこからさらに弁護士の小沢一仁さんを紹介してもらった。ここで、ネット炎上に詳しい小沢さんと巡り合えたのは幸運だったといえる。


【2019年8月17日(土) 午前9時〜午前中】


「私はまず、Aさんに警察へ相談に行くこと、そしてデマを否定する声明文を出すことを提案しました。間違った情報が流れて騒ぎになった場合、なるべく早く、当事者からデマを否定する正式な文書を出した方がいいからです」(小沢さん)


 とはいえ、Aさんも午前7時の段階でデマを否定する投稿を上げたが、余計に炎上した。早く弁明することは重要だが、タイミングと文章の内容が大切で、これらは専門家に任せた方がいいと小沢さんは注意を促す。


 その後、Aさんは小沢さんの言う通り、警察の生活安全課に相談に行く。ところが…。


「警察に説明しても信じてもらえませんでした。“そんなことあり得ないでしょう”“暇な人が多いね〜”“もう少しで犯人が逮捕されるから放っておきな”などと言われ、2〜3時間は拘束されたにもかかわらず、まったく相手にしてもらえませんでした。相談に来たという記録だけ残すと約束してもらい、帰りました」(Aさん)


 こういった件で、すぐに警察が動くことはまれだそうだが、後々、脅迫やストーカー行為など、別の刑事事件に発展することも考え、相談の履歴は残すべきだという。


【2019年8月17日(土) 午後〜深夜】


 Aさんが警察に行き、ネット環境から少し離れている間に、情勢は変わっていた。それまでは罵詈雑言一色だったのだが、朝7時台に出したAさんの声明などを受け、「人違いだったら大変ですよ」などといった冷静なツイートが増えたのだ。そして夕方には「デマだ」という声が大きくなっていった。


「Aさんがガラケー女であるという根拠が、サングラスや着ている服が似ているということだけ。あまりに理由がお粗末なことに気づいた人が増えていったんです」(小沢さん)


 デマだという声が増えつつある今こそ、あらためて正式な声明文を出すタイミングだと小沢さんは考え、早急に文書を作成。日付が変わった18日深夜に、Aさんが代表を務める会社のホームページ上に、デマを否定する声明文を公表した。


【2019年8月18日(日) 夕方以降〜現在】


 声明文のおかげで事態は落ち着いたが、さらにAさんの無実を決定づける出来事が、18日夕方に報道された。本当の“ガラケー女”が逮捕されたのだ。これで完全に解決したように思われたが、実はこの件に関する被害が、事件から半年たった今でも続いている。


「容疑者の逮捕で、私への疑いは晴れましたが、会社関係者や取引先への説明を兼ねて記者会見を開きました。これですべてが明らかとなり、嫌がらせも収まると思ったのですが…。今回の件で私を犯人に仕立て、それを拡散した人たちへの損害賠償請求をする行為が、“金銭目的の浅ましい行為だ”などという新たな誹謗中傷が投稿されるようになり、それは現在も続いています」(Aさん)


 情報がデマだったとわかった後でも、自分が一度してしまった主張に固執したり、この件とは無関係の批判をネットに流す人が後を絶たないという。一度ネットで炎上すると、思いがけない方向へ飛び火してしまうのだ。


「Aさんは、あくまでも被害者です。ですから、誹謗中傷の中でも内容が悪質だった人やリツイートして拡散した人などに対して訴訟を起こすべく動いています。これは当然のことです。今回の件は、犯罪者を懲らしめたいという思いで多くの人が誹謗中傷の投稿を流したのだと思います。しかし、たとえ正義感に基づく行動でも、無関係の人を傷つければ、違法行為になるんだということを知ってほしいですね」(小沢さん)


 人を貶めるような情報は信じない、拡散しないようにするべきだと小沢さんは続ける。そしてAさんは、今回のことは誰にでも起こり得ることだと警鐘を鳴らす。


「私に起きた一件が、SNSやインターネットを利用するすべての人の意識を変えるきっかけになってくれればと思っています。それは被害者になり得るんだ、ということだけでなく、リツイートボタンひとつで簡単に加害者にもなり得て、逆に訴えられる可能性もあるんだということも含めてです」(Aさん)


 ネットに意見を投稿する際は、一度立ち止まって、情報の真偽を見直す癖をつけるべきだと、Aさんと小沢さんは口をそろえる。自分の素性をさらした状態で言えないせりふは決して吐くべきではないのだ。


※女性セブン2020年2月20日号

NEWSポストセブン

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