2025年冬ドラマ22作、“視聴率無視”で採点 「オリジナルに懸ける日曜劇場の矜持」「記憶に残る秀逸タイトル」
2025年2月8日(土)10時30分 マイナビニュース
●異国で暮らす人々の知られざる人生をのぞき見る楽しさ
主要22作がそろった2025年冬ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
別記事(「2025年冬ドラマ」オススメ5作&傾向分析 1位は“幅広い視聴者層”と“セルフアンチ” 苦境フジテレビに求められるものとは)において2025年冬ドラマの主な傾向を【[1]さらなる保守化の中、際立つ日曜劇場と金曜ドラマ】【[2]苦境のフジテレビに求められるものとは】の2つと解説。
おすすめドラマとして、『御上先生』(TBS 日曜21時)、『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS 金曜22時)、『ホットスポット』(日テレ 日曜22時30分)、『日本一の最低男』(フジ 木曜22時)、『東京サラダボウル』(NHK総合 火曜22時)の5作を選んだ。
本記事では、それらを含む主要22作のレビューと目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『119 エマージェンシーコール』 月曜21時〜 フジ
出演者:清野菜名、瀬戸康史、見上愛ほか
寸評:指令管制員にフィーチャーした新しさがある反面、NHKのドキュメンタリーシリーズとの比較は避けられない。横浜消防局の協力を得られただけに、いかにドラマティックな物語を手がけられるか。現場の消防士と比べて動きのない立場ゆえに揺れ動く心理や決断の難しさをしっかり描きたい。序盤は先の読めるエピソードが続いただけに意外性に期待したいところ。地震や会見などに妨害されたのは不運だった。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『秘密 〜THE TOP SECRET〜』 月曜22時〜 カンテレ・フジ
出演者:板垣李光人、中島裕翔、門脇麦ほか
寸評:架空の組織と架空のMRI捜査という刑事ファンタジー&サスペンスは、「斬新か幼稚か」紙一重の設定。そのため主人公が「死者の最期まで秘めていた想いを見てしまう」という葛藤でいかに引きつけるか。若く童顔なメインの2人はこれまで以上に熱っぽい演技が求められる。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆☆】
『バニラな毎日』 月〜木曜22時45分〜 NHK総合
出演者:蓮佛美沙子、永作博美、木戸大聖ほか
寸評:業績不振で閉店、多額の借金、バイト掛け持ちという過酷な状況に追い込まれた主人公の設定は夜の帯ドラマとしてはヘビー。しかし、謎の料理研究家が醸し出す不思議なムードで中和している。「心に痛みを抱えた人々を“お菓子教室”で癒していく」という筋書きは救いがある反面、ご都合主義の感も否めない。美しくおいしそうなスイーツとレシピをベースにしたコンセプトはこの時期にピッタリ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『財閥復讐〜兄嫁になった元嫁へ〜』 月曜23時6分〜 テレ東
出演者:渡邊圭祐、瀧本美織、西垣匠ほか
寸評:深夜ドラマのメインジャンルである復讐劇に財閥をプラス。不倫も絡めたけれんみしかないような世界観はテレ東が自ら手がけたオリジナル漫画だけに、マーケティングの上で勝機を見い出しているのだろう。もはや往年の東海テレビ昼ドラを思わせるレベルであり、渡邊と瀧本も役に入り切っているが、肝心の“財閥感”が薄い。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『アイシー 〜瞬間記憶捜査・柊班〜』 火曜21時〜 フジ
出演者:波瑠、森本慎太郎、山本耕史ほか
寸評:同枠復活の第2弾も刑事ドラマであり、次の『踊る大捜査線』を生み出したいという狙いは明らか。主人公の女性刑事は「クールで壮絶な過去を持つ」「班を率いる主任」であり、佐藤祐市監督の演出も含め、『ストロベリーナイト』を思わせる仕上がりに。オーソドックスな刑事ドラマだけに、わざわざ採り入れたカメラアイ(瞬間記憶能力)という設定をどう生かすのか、脚本の完成度が問われる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『東京サラダボウル』 火曜22時〜 NHK総合
出演者:奈緒、松田龍平、中村蒼ほか
寸評:リアルな社会で次々に報じられる外国人の事件や犯罪を扱った作品は鮮度が高い。ただ視聴率が取りづらいテーマと外国語が飛び交う物語のためNHKでなければドラマ化できなかっただろう。報道では事件とひとくくりにされがちだが、どんな真実があるのか。偏見や差別はなかったか。そこに向き合おうとする刑事と通訳人は魅力的に見えるし、異国で暮らす人々の知られざる人生をのぞき見る楽しさもある。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『まどか26歳、研修医やってます!』 火曜22時〜 TBS
出演者:芳根京子、鈴木伸之、高橋ひかるほか
寸評:古くから研修医が主人公の医療ドラマは多いが、若手俳優の登竜門という意味合いが濃かった。その点、当作は実績も実力も折り紙付きの芳根京子。彼女があえて「医師1年目のイマドキ研修医」を演じる必然性がほしいが序盤では見えてこない。研修医としての2年間をどう濃密に描くのか。主演に負担をかけないスタッフの奮闘が求められる。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
●近年避けられているテイストで希少価値が高い作品
『御曹司に恋はムズすぎる』 火曜23時〜 カンテレ・フジ
出演者:永瀬廉、山下美月、西畑大吾ほか
寸評:主人公が「恋愛偏差値ゼロ」という設定と格差恋愛はラブコメの王道で、仕事疲れを感じやすい火曜深夜帯らしく気楽に楽しめる。ただ、どちらかと言えば、「御曹司の恋愛というより、失敗と成長をじっくり見守る」というテイスト。永瀬のコミカルな演技が最大の醍醐味であり、キャストに合わせたこの脚本・演出なら配信再生も取れるだろう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『地獄の果てまで連れていく』 火曜23時56分〜 TBS
出演者:佐々木希、渋谷凪咲、井上祐貴ほか
寸評:こちらもテーマは復讐。供給過多である以上、重要なのは過激さだけでなく、いかに意外性で引きつけるか。渋谷のモンスターぶりが作品の反響や評価に直結するコンセプトとも言える。自分の子どもを殺めかねないサイコパスをどう生かすか。ホラーとしての伸びに期待。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『問題物件』 水曜22時〜 フジ
出演者:上川隆也、内田理央、船越英一郎ほか
寸評:問題物件というモチーフは新鮮で、自殺、ポルターガイスト、失踪、ゴミ屋敷、水の呪いなどの多彩な現象も興味を引く。ただ、「けっきょく背景には刑事事件があった」という刑事ドラマのパターンで飽きてしまう人も。さらにミステリー、アクション、ホラー、癒しなどの要素が混在し、焦点がつかみにくい感もある。前期『全決』がそうだったように、ホラーに全振りするくらいの思い切りがほしかったのではないか。「上川が犬!?を演じる」というトリッキーな設定だけで、出演俳優の数が少なさをカバーするのは難しい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『プライベートバンカー』 木曜21時〜 テレ朝
出演者:唐沢寿明、鈴木保奈美、橋爪功ほか
寸評:前提として「大富豪の資産を守るためなら何でもやる主人公」を令和の新たなヒーローとする違和感を拭えるか。とはいえ経営コンサルや何でも屋のような仕事もこなす型破りな活躍で引きつけたいところ。相続、愛人、裏金などのダークなモチーフが好きな人、金融知識に興味がある人向けの作品だろう。鈴木保奈美の役柄が視聴者目線を担保。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』 木曜22時〜 フジ
出演者:香取慎吾、志尊淳、安田顕ほか
寸評:「最低男」「ニセモノ」という前振りに反する主人公の“いい人”ぶりに肩すかし。香取に最低男を演じさせるという意外性を重視したのだろうが、「嫌なやつ」「人生崖っぷち」というムードは感じられない。その一方で物語は、現代社会の家族、労働、政治などの問題をストレートに扱い、人情と温もりが感じられる仕上がりに。近年避けられているテイストだけに希少価値は高く、ひさびさの香取は演技うんぬんとは別に主演としての華が感じられる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
『私の知らない私』 木曜23時59分〜 読テレ・日テレ
出演者:小野花梨、小池徹平、馬場ふみかほか
寸評:昨年量産された反動から「また主人公の記憶喪失モノか」という感は否めないが、そこは世代きっての実力を持つ小野の熱演でカバー。あやしい人物たちに囲まれ、ひたすら攻撃対象にされながらも、記憶をたどりつつ力強く前に進む姿を見せはじめている。一年の間に何があったのか。婚約、転職、殺人疑惑を超える壮絶なラストに期待したい。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『法廷のドラゴン』 金曜21時〜 テレ東
出演者:上白石萌音、高杉真宙、小林聡美ほか
寸評:「将棋×痛快リーガルドラマ」という中高年層向けのコンセプトに振り切れるのはテレ東ならでは。「主人公がさまざまな案件を将棋に置き換えた法廷戦略で解決に導く」という展開と、勝ち筋が見えると眼鏡を外して着物で法廷に立つというクライマックスは昭和の漫画的。小林聡美と白石麻衣という助演のチョイスと、将棋番組のような大盤解説やCGの将棋盤を使った演出で、ネット上の反響を誘っている。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
●『ブラッシュアップライフ』よりも自由度とゆるさを増した脚本・演出
『クジャクのダンス、誰が見た?』 金曜22時〜 TBS
出演者:広瀬すず、松山ケンイチ、磯村勇斗ほか
寸評:今冬最も連続性が高く、先の展開が気になる連ドラらしいロングサスペンス&ミステリー。2つの事件をめぐる秘密、嘘、打算、裏切りなどが交錯する物語は金曜ドラマの王道だけに信頼性は高い。さらに「家族の愛と運命」をかけ合わせたコンセプトは前期『ライオンの隠れ家』に続くものでエンタメ性は十分。父親をひたすら信じ、逆境に立ち向かう主人公の奮闘は共感を集めるだろう。各局がドラマ化を狙った人気漫画であり未完結だが、TBSの金曜ドラマが最適解であり、終盤は盛り上がるはず。注意を引き、記憶に残るタイトルも素晴らしい。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『僕のあざとい元カノ from あざとくて何が悪いの?』 金曜23時15分〜 テレ朝
出演者:山里亮太、鈴木愛理、藤原丈一郎ほか
寸評:「新しいドラマ視聴体験爆誕!!」と掲げて、バラエティとドラマの融合をうたっているが、やはりワイプやリアクションはドラマの集中を削ぎ、次への興味や感動を薄れさせる。ドラマ好きにとってはスタジオパートが邪魔だけに、視聴者層は前者に寄ってしまうだろう。新たな試みへの挑戦は称えたいが、ドラマとは言いがたいのではないか。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『相続探偵』 土曜21時〜 日テレ
出演者:赤楚衛二、桜田ひより、矢本悠馬ほか
寸評:世間が「103万円の壁」に注目する中、今なぜ相続を扱うのか。これまで相続を扱った作品が苦戦を続けてきたことも含め、他局以上にマーケティング重視の番組制作を行う日テレにしては謎のチョイス。「相続の裏には事件があり、だから探偵が解決する」という展開も刑事ドラマに近く苦戦必至か。遺言書をめぐる故人の想いをどう描き、それを導く主人公を魅力的に見せるという点で赤楚にかかる期待は大きい。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『アンサンブル』 土曜22時〜 日テレ
出演者:川口春奈、松村北斗、田中圭ほか
寸評:川口と松村という旬の俳優に、安定の田中を交えたキャスティングは豪華で若年層も狙える。だからこそ弁護士モノと恋愛がイーブンに近い作品にしたのだろうが、どちらつかずの印象に。恋愛ベースの物語でも可能なキャストだけに、「定番の弁護士モノで安定した結果を得たい」というマーケティングのズレを感じさせられる。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『ホンノウスイッチ』 土曜23時〜 テレ朝
出演者:宮近海斗、葵わかな、戸塚純貴ほか
寸評:漫画原作、STARTOアイドル、若手女優のラブストーリーは、すべて既定路線だが、今作はピュア度高め。幼なじみ、遅い初恋、こじらせた大人女性…一途に思われるヒロインを自分に置き換えて見るためのドラマとも言える。予想以上にストーリー展開が早いのは好感。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『御上先生』 日曜21時〜 TBS
出演者:松坂桃李、吉岡里帆、北村一輝ほか
寸評:学園ドラマに文科省を絡めて日本の教育問題を問い、さらにミステリーも織り交ぜるなど、エンタメ性の高さは随一。“官僚兼教師”が生徒にかける言葉の説得力だけでなく、官僚と政治家の言語や自局の『金八先生』をイジる遊び心もあり、脚本のキレが際立っている。人気やルックスより現時点での実力でキャスティングされた生徒たちの演技も必見。音楽なども含め、クオリティファーストの姿勢が鮮明であり、オリジナルに懸ける日曜劇場の矜持がうかがえる。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『フォレスト』 日曜22時15分〜 ABC・テレ朝
出演者:比嘉愛未、岩田剛典、松田美由紀ほか
寸評:開始から約2年、うまくいかないABC制作の同枠が初のラブサスペンスにトライ。「嘘をつき、知らない顔を持っている恋人を愛し続けられるか」を問う物語だけに、序盤から大きな展開をたたみかけて話題を集めたいところだった。その点、序盤は「人間不信のフォレストに迷い込む」という導入部分に時間をかけすぎた感があり、毒母の設定だけでは弱かったのではないか。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『ホットスポット』 日曜22時30分〜 日テレ
出演者:市川実日子、角田晃広、鈴木杏ほか
寸評:脚本家・バカリズム得意のゆるファンタジー+会話劇であり、『ブラッシュアップライフ』よりも自由度とゆるさを増した脚本・演出が見られる。バイプレーヤーとして実力十分の中堅女優を集めるプロデュースは異彩を放ち、のどかなロケーションも含め、日曜夜の視聴にフィット。終盤に向けて宇宙人の意味合いが加速度的に増し、まさかの感動物語になるなどのサプライズも期待できそう。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら