中村隼人、『べらぼう』で挑む新たな平蔵像 シケ(ほつれ毛)にこだわり「長さと油の量をすごく研究」
2025年2月9日(日)5時0分 マイナビニュース
●クスッと笑える平蔵に「視聴者の方の息抜きになれば」
現在放送中の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合 毎週日曜20:00〜ほか)で長谷川平蔵宣以を演じている歌舞伎俳優の中村隼人にインタビュー。平蔵に抱いていたイメージや演じる際に意識していることなど話を聞いた。
江戸時代中期の吉原を舞台に、東洲斎写楽、喜多川歌麿らを世に送り出し、江戸のメディア王にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く本作。隼人が演じている平蔵は、のちに老中・松平定信に登用され「火付盗賊改方」を務め、凶悪盗賊団の取り締まりに尽力。池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』の主人公“鬼平”としても知られ、中村吉右衛門さんをはじめ、数々の名優が演じてきた時代劇のヒーローだ。
隼人は、平蔵について「中村吉右衛門さんが演じた鬼平のイメージが強い」と語る。
「過去に私の大叔父の萬屋錦之介も1シーズンだけ鬼平を演じていますが、それは写真でしか見たことがなく、僕は二代目の吉右衛門さんが演じている鬼平を再放送で見て、平蔵のイメージを持っていました」
もともと抱いていた平蔵のイメージは「若い頃は粋に遊び、喧嘩が強く、火付盗賊改方になって世の中を律していくという、男臭い、男の色気のある男」だったが、監督と話したところ、「どうやら今回は全然違う平蔵になりそうだ」と新たな平蔵像になることを知ったという。
本作の平蔵はシケ(ほつれ毛)が特徴的だ。
「監督に言われてシケがある平蔵に。今回、普段斬り込まない目を背けたくなるような吉原の部分をフィーチャーしていて、重い作品になるところを、平蔵が少しでも視聴者の方にクスっと笑っていただけたり、息抜きになればいいなと思って演じています」
SNSでは、シケをふっと口で吹いたり、手で触ったりするシーンが話題に。
「監督が『そのシケどうします?』って言うんです。『じゃあ吹いてみますか?』と言ってやったのが始まりで、それがクランクインのシーンでしたが、ハイスピードカメラでシケを撮っていて、『嘘でしょ!?』『これ大河だよね!?』と驚きました(笑)」
シケは平蔵のキャラクターを作る上で大いに役立っているという。
「シケがあることによって普通の人物ではない。しかも吹いたり触ったりして、ナルシストな部分が非常に強いというのも、見た目でわかっていただけると思いますし、僕も芝居をする上で、嫌味になりすぎると逆に笑えてきて、かっこつけすぎると面白いねってなる、そういうところを狙えるようになったのは大きかったです」
さらに、ヘアメイク担当とシケについて研究していることも明かした。
「シケの長さと、つける油の量をすごく研究しました。長さをミリ単位で調整し、油もつけすぎると風になびかなくなったり、逆に油が全然ついてないとなびきすぎてシケがなくなってしまう」
シケのほか、着物も役作りにプラスになったという。
「現在の感覚では、1話の平蔵の着物を見てもダサいとは思わない。僕もこういう配色もありなのかなと思っていましたが、衣装さん的にはこれは野暮だと。当時でいうダサいファッションをするというのも、芝居をする上でやりやすかったです。ダサいものを着てかっこつけるからこそ、よりダサさが際立って」
●「カモ平がどう立派になっていくのか楽しみにしてもらいたい」
また、演じる際に、キャラクターを成長させていく余白を残すことを意識していると語る。
「きっと立派な火付盗賊改方になると信じているので、あまり立派にやりすぎないというか、所作もセリフのしゃべり方も立派になりすぎないように、少し余白を残すことを意識しています」
蔦重と花の井(小芝風花)にカモにされ、視聴者から“カモ平”とイジられる愛されキャラとなっている平蔵。
隼人は歌舞伎の現場でも中村勘九郎らから「カモ平」とイジられたそうで、「それぐらいカモ平が浸透し始めているようでびっくりしています」と笑うと、「この作品は特に前半戦が重たいので、見ている方が肩の力を抜いて、『またカモ平が現れた』と思ってもらえたら僕の中では成功だと思いますし、そのカモ平がどう立派になっていくのか楽しみにしてもらいたいです」と語る。
蔦重が『一目千本』を制作した際、平蔵は花の井のために50両をつぎ込み、親の遺産を食いつぶしてしまうが、平蔵のおかげで本は無事出版され、賑わいを見せる吉原。花の井は「粋の極み」と評した。
平蔵はカモにされていることに気づいていない、隼人はそう解釈しているという。
「このあと蔦屋重三郎と会うシーンがあるのですが、本当にカラッとしていて、その件に関して一言も触れていない。もしかしたら全部わかっている可能性もありますが、1話からの作り方を考えると、きっと平蔵は思っていることがあったら言ってしまう。言わないということは、本当に粋を教えてもらったと思っているのかなと。計算高くないところが愛嬌につながって、嫌味のない感じのなるんじゃないかなと思います」
数々の名優が演じてきた平蔵役にプレッシャーもあったと明かす。
「やはり世の中的に池波正太郎先生の鬼平のイメージが強い。そして、中村吉右衛門さんや丹波哲郎さんなど、大御所のスター俳優たちが、しかも若くではなく、渋く演じている。皆さん40代とかからで、男の色気、男臭さがある平蔵というイメージがある中で、若い役者が演じるということはすごく怖かったですし、放送を見た先輩たちから『イメージと違う』『若いよね』『寝たばことか似合わなそうだよね』と言われました」
その上で、本作においては若い時代から成長していく平蔵を見せていきたいと意気込む隼人。「大河ドラマだからこそ、1年間かけてずっと放送していく中で成長させていける余白があるのではないかと。それを期待してくださっている方もきっといるでしょうし、自分自身もそこを意識して、平蔵という人物をどう立派に成長させていけるかというのが僕の中の課題です。プレッシャーや怖さはなくなり、あとは自分でやっちゃったものをどう回収して、どう育てるか」と語っていた。
■中村隼人
1993年11月30日生まれ、東京都出身。二代目中村錦之助の長男。2002年2月歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名のり初舞台。古典歌舞伎だけでなく『スーパー歌舞伎II ワンピース』や新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』などにも出演。NHKのBS時代劇『大富豪同心』シリーズで主演を務めるなど、映像作品でも活躍している。
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