江戸落語本来の魅力を伝える重鎮3人の定例会「雲一里」

2月9日(金)16時0分 NEWSポストセブン

重鎮3人による定例会「雲一里」の魅力は

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、寄席の世界の重鎮3人による定例会「雲一里」についてお届けする。


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 五街道雲助、春風亭一朝、柳家小里ん。寄席の世界の重鎮3人が集う定例会が昨年末にスタートした。題して「雲一里」。年に3〜4回のペースで開催していくという。場所は東京・日本橋公会堂。12月11日の第1回公演では一朝、小里ん、雲助の順に高座に上がった。


 一朝が演じたのは『三井の大黒』。名工・左甚五郎の逸話で、三代目桂三木助の演目として知られる。その三木助の流れを汲む型を若い頃に覚えた一朝は、長い間やらずにいたこの演目を最近やり始めた。まず棟梁の政五郎が、なんとも素敵だ。この噺は男気に溢れた政五郎の器の大きさが描けてこそ楽しく聴ける。職人たちも江戸っ子らしくて実にいい。ポン州と呼ばれる甚五郎の描き方も絶妙で、決して与太郎のようにはならず、トボケた中に名人らしさが垣間見える。清々しい一席だ。


 五代目柳家小さん一門の中でも最も師匠に近い芸風の小里んは『言訳座頭』を演じた。『睨み返し』と並ぶ、小さんの暮れの演目だ。派手な『睨み返し』に比べると地味で、あまり人気があるとは言えない噺だが、小里んは淡々と進行していく物語に観客を引き込んでいった。知り合いに頼まれて借金の言い訳に歩く富の市という老按摩の「一本気な江戸っ子」という性格が実に上手く表現されている。押しの強さで相手に「わかった、待つよ」と言わせた途端、ガラリ変わった低姿勢で「あ、どうもすいません」と逃げ帰る富の市の軽さが楽しい。このくだりの可笑しさは小里んならではのものだ。


 トリの雲助は『芝浜』。芝浜の描写をカットする古今亭の型ではなく、財布を拾う件をリアルタイムで描写する三木助系の演出で、魚屋の名は勝五郎、拾った金は四十二両。財布を拾ったのは夢だと聞かされ「大川に身でも投げるか」と弱音を吐く亭主を女房がバシッと叩いて「いい加減におし! 性根をお据え!」と叱る場面が印象的だ。改心した勝五郎が贔屓客を取り戻すワンシーンの挿入も効果的。弟子の桃月庵白酒は古今亭の型をベースに滑稽噺テイストの『芝浜』をこしらえたが、ここは雲助の演出を踏襲している。


 3年後の大晦日、女房が真実を打ち明ける場面も感情過多に陥らず、感謝する勝五郎に女房が「子供ができたのでお祝いに」と酒を勧める演出もあざとさを感じさせない。「江戸の市井にあった、ちょっといい話」として、しみじみとした余韻を残す。胃にもたれない『芝浜』だ。


 江戸落語本来の魅力を今に伝える、肩の凝らない三人会。「こういう会を待っていた!」という好企画だ。第2回は3月8日の開催。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2018年2月16・23日号

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