『べらぼう』蔦重と長谷川平蔵宣以がサシで語り合うシーンに視聴者最注目 第6話画面注視データを分析
2025年2月16日(日)6時0分 マイナビニュース
●「中村吉右衛門さんの鬼平を連想」
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、9日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第6話「鱗剥がれた『節用集』」の視聴者分析をまとめた。
○「うまくやるってなぁ…堪えるもんっすね」
最も注目されたのは20時41〜42分で、注目度78.1%。蔦重(横浜流星)と長谷川平蔵宣以(中村隼人)がサシで語り合うシーンだ。
「うまくやるってなぁ…堪えるもんっすね」誰もいなくなった鱗形屋の軒先で、蔦重は複雑な胸の内を平蔵に明かした。鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が大坂の本屋・柏原屋(川畑泰史)の偽板を作っていたことが露見し、孫兵衛は捕縛されてしまったのだ。偽板には小島松平家も関与していたが、発覚を恐れた家老が勘定奉行・松本秀持(吉沢悠)に賄賂を渡してとかげのしっぽ切りをはかったため、孫兵衛はすべての罪を着せられる格好となった。
蔦重は独自に調べ、孫兵衛の悪事を確信していたが止めることはしなかった。鱗形屋がいなくなれば、自分が後釜に座れると心のどこかで思っていたからだ。「願ったり叶ったりじゃねえか」平蔵の言葉に、性根がまっすぐな蔦重は抵抗を感じている。
そんな蔦重に平蔵は武家社会の陰湿な出世争いを例に出し、出し抜くこと、追い抜くことは気にすることではないと諭した。そして、「濡れ手に粟餅」と名付けた餅を蔦重に渡し、ありがたく頂いておけと言い残して去っていった。蔦重は平蔵の言葉を胸に「鱗の旦那! 濡れ手に粟餅、ありがたく頂きやす!」と、餅を思い切り頬張った。
○運を天にまかせることにした蔦重
注目された理由は、偽版騒動の落着に視聴者の注目が集まったと考えられる。
蔦重は鱗形屋が「丸屋源六」である証拠を握ったが、鱗形屋をいさめることも、役人へ訴え出ることもせず、運を天にまかせることにした。鱗形屋が西村屋与八(西村まさ彦)と自分を都合よく利用しようと共謀する会話を聞き、一度は須原屋市兵衛を通じて役人へ訴え出ようとしたが思いとどまった。蔦重の江戸っ子としての矜持が告げ口という行為をよしとしなかったのだろう。
SNSでは、「蔦重はこれからも成功を手にしながらも、色々な後ろめたさや罪悪感を背負っていくんだろうな」「常に『なんでですかねぇ』と考えることが蔦重のアイディアの源なんだな」「後ろ暗いところがなければ、鱗形屋と蔦重うまくいっていたのにざんねんだな」「蔦重と平蔵くんが仲良しなの最高! ずっと仲良くしてほしい!」と、蔦重の複雑な胸中に共感するコメントが多く集まった。
青本のアイデア出しで大いに盛り上がっていた蔦重と孫兵衛は、出版に対する情熱を通して意気投合しているように見えたが、このような結果となってしまい残念。また、「明和の大火」がなければ、2人の関係も違っていたかも知れない。
今回2人が制作を進めていた青本というのは、草双紙の一種で主に婦女子の間で流行した。表紙が萌黄色であることから青本と呼ばれた。浄瑠璃や歌舞伎の概要を絵入りで解説し、子どもでも楽しめるように配慮されていたが大人たちには不評だったようだ。再登場したカモ平こと長谷川平蔵宣以だが、今までのコメディリリーフではなく、有能な幕府の役人として手柄を上げた。
SNSでも多くの反応があり、「今回の平蔵、かっこよかった!濡れ手に粟餅のシーンでは中村吉右衛門さんの鬼平を連想しました」「われらが平蔵ちゃん、なんかキリっとしてる」「仕事中はステキだったのに、最後の今いいこと言ったなって顔してるの笑える」と、カモ平のファンは増加傾向にあるようだ。今回にしても50両の入銀の件にしても、間接的に蔦重はカモ平にものすごく助けられている。
平蔵の現在の役職である御書院番士は、1605(慶長10)年に設立された徳川将軍直轄のいわば親衛隊。小姓組と並んで御両番と呼ばれていた。本人は性に合わないとぼやいていたが、幕府の軍事部門の職制であり、番士には幕府内での出世への道筋が開かれるという、まさにエリートコースだった。
●「丸屋源六」なる人物に心当たり
2番目に注目されたのは20時27分で、注目度72.9%。蔦重が鱗形屋で偽板作りの証拠を探すシーンだ。
須原屋市兵衛(里見浩太朗)から大坂の版元・柏原屋が出版した『増補早引節用集』の偽板が江戸に出回っていると知らされた蔦重には、偽板を作っている「丸屋源六」なる人物に心当たりがあった。外ならぬ鱗形屋孫兵衛である。
鱗形屋は1772(明和9)年に起きた「明和の大火」で蔵が焼け、本を作るための板木、摺り出し、紙や墨、糸など、道具の大半を失っていた。さらに店や蔵の建て替えまでおこなって、摺り損じを紙屑買いにも出さず、自前の厠紙にするほどの深刻な資金難に陥っていたのである。蔦重は鱗形屋では夜中にこそこそと何かを摺っており、その摺り損じもたくさんあったことを思い返すと、偽版作りの犯人は間違いなく孫兵衛だと疑惑を深めた。
翌朝、蔦重はその疑惑を確信に変えるため、証拠を探しに鱗形屋を訪れた。腹痛を装い、厠へ駆け込み厠紙を調べると、すぐに「丸屋源六」と記された1枚を見つけ出した。「やっちまってたか…」蔦重は複雑な思いでその1枚を懐に収めた。
○「人に接するときの態度は大事だね」
このシーンは、鱗形屋が怪しいとにらんだ蔦重がどのように立ち回るかに、視聴者の関心が集まったと考えられる。
須原屋から偽板が出回っているという話を聞いた蔦重は、孫兵衛が犯人ではないかと目星をつけた。孫兵衛が、『一目千本』や『雛形若菜初模様』のような元手がかからない入銀物の発行を求めていたこと。孫兵衛の次男・万次郎(野林万稔)が、父から物之本が地本より儲かると言い聞かせられていたこと。番頭・藤八(徳井優)が、摺り損じを厠紙にしていたことなど、思い返せば怪しい伏線がテンコ盛りだが、これらを見逃さなかった蔦重はやはり優れた洞察力を持っているようだ。
SNSでは、「鱗形屋さんが『青本作りは運命だ』って言ってた時の蔦重は本当に嬉しそうだったのに…」「もし、鱗形屋が蔦重を大事にしていたら、平蔵が言っていたように蔦重は忠告していたんだろうなぁ。人に接するときの態度は大事だね」「前回クズに見えた鱗の旦那が意外といいヤツと思ったらやっぱり狡猾で。結局人は善悪両面持ってるんだな」と、蔦重と孫兵衛の人間関係に言及するコメントが多く寄せられた。
鱗形屋の2人の息子である鱗形屋長兵衛(三浦りょう太 ※りょう=けものへんに寮のうかんむりなし)と鱗形屋万次郎が今回、初登場を果たしたが、史実では名前までは明らかになっていない。万次郎は西村屋に婿養子として入り西村屋の2代目となる。その後、父の出版物の版権を苦労しつつも買い戻した。
鱗形屋長兵衛を演じる三浦りょう太は、トップコート所属で東京都出身の27歳。大河ドラマは『べらぼう』が初出演。父はキングカズこと、元サッカー日本代表の三浦知良、母はタレントだけでなくファッションモデルの三浦りさ子、弟はプロ格闘家の三浦孝太。なんとも華々しい家柄だ。
鱗形屋万次郎を演じる野林万稔はオスカープロモーション所属で東京都出身の11歳で、『べらぼう』がドラマ初出演。これからの活躍に期待だ。片岡愛之助は大河ドラマでは不遇な役回りが多いが、『べらぼう』は今回で退場となってしまうのだろうか。今後の展開に注目だ。
●鱗形屋が「丸屋源六」ではないか…?
3番目に注目されたシーンは20時25分で、注目度72.4%。蔦重が須原屋で鱗形屋を追い落とすネタを得るシーンだ。
蔦重が「申椒堂」の前を通りかかると、須原屋市兵衛と勢いよく塩をまく番頭の姿が目に入った。思わず声をかけると、大坂の版元・柏原屋が出版した『節用集』の偽板を、「丸屋源六」という版元が作っており、市兵衛が「丸屋源六」ではないかと疑われたというのだ。
あらぬ嫌疑をかけられて憤る須原屋だったが、蔦重はふと鱗形屋の次男・万次郎との会話を思い出した。万次郎は物之本は地本より儲けが多いと鱗形屋から教えられたと言い、その手元には『節用集』があった。蔦重の脳裏に、鱗形屋が「丸屋源六」ではないかという疑惑がよぎる。須原屋が言うには、「丸屋源六」が見つかれば柏原屋は役人に訴え出るだろうという。鱗形屋の悪事をつかんだかもしれない蔦重だったが、その胸の内では人知れず葛藤がうずまき始めていた。
○メンタルを心配する声「蔦重も複雑だっただろうな」
ここは、蔦重が版元となれるチャンスの到来に視聴者の注目が集まったと考えられる。
前回の予告で、今回は偽板をめぐる展開となることは多くの視聴者の知るところであったと思われる。蔦重と孫兵衛は青本の制作を通して意気投合し、信頼関係を構築しつつあるタイミングで鱗形屋による偽板疑惑が浮上。2人の蜜月に影が射す。よいドラマというのはこういうジェットコースターが絶妙だ。
SNSでは、「蔦重って、敏いからこういうの察知するのも早いな…」「青本作りは2人共しっかり楽しそうだったのに、儚い夢だったな」「せっかく鱗形屋とうまく行きそうだったのに、蔦重も複雑だっただろうな」と、蔦重のメンタルを心配するコメントが集まった。
今回の騒動のもととなった節用集というのは、室町時代から江戸時代にかけて作られた辞書の一種。熟語を多く収録して読み仮名をつけて記されていた。江戸時代は識字率が飛躍的に増加した背景もあり、節用集の需要は飛躍的に拡大した。人気の商材である節用集は版元にとって魅力的な商品であり、孫兵衛もそこに目を付けたのだろう。
江戸時代には、出版物に関する権利を有していたのはその出版物の文字や絵が刻み込まれていた版木を製作した者、もしくは所有していた者だった。木版印刷は、1枚の版木に文字や絵を刻んで作った版木を使う。版木は一字一句でも間違いがあれば価値がなくなるので、本を出版するには多くの時間と費用がかかった。そのため、版木自体への財産的価値が認められ、版元は偽板に神経をとがらせていたのだ。
●武元による意次へのハラスメントも話題に
第6話「鱗剥がれた『節用集』」では1775(安永4)年の様子が描かれた。
鱗形屋抱えの改となった蔦重は、花の井(小芝風花)や次郎兵衛(中村蒼)から青本がつまらないから読まないという話を聞いて、皆が読みたくなるような新しい青本を作ろうと考える。そんな中、鱗形屋が大坂の板元・柏原与左衛門の出版した『増補早引節用集』を『新増早引節用集』と改題した偽板を販売していることを知る。ことの真相にたどり着いた蔦重だが、密告することをよしとせず、成り行きを見守ろうと決意。だが結局、孫兵衛は長谷川平蔵宣以によって捕縛される。
一方、幕府では老中・田沼意次(渡辺謙)の奔走により、御金蔵の資金をようやく「明和の大火」以前にまで持ち直した。しかし、老中首座・松平武元(石坂浩二)が発案した「日光社参」が決行となり、さらなる出費が課せられる事態となる。
注目度トップ3以外の見どころとしては、お互いを思いやり、逢瀬を重ねる松葉屋の座敷持ち・うつせみ(小野花梨)と小田新之助(井之脇海)が挙げられる。座敷持ちは花魁に次ぐ地位であり、揚代もそれなりにかかる。平賀源内(安田顕)の助手として炭売りをしながら長屋で暮らす新之助の身分では頻繁に通うのは難しいだろう。それゆえにうつせみは自分が自腹を切っても、新之助に会いたいという手紙を蔦重に託した。2人の恋の行方はどうなるのだろうか。
そして、武元による意次へのハラスメントも話題になっている。意次は「日光社参」を回避しようと動いたが、今回は武元の根回しの方が上手だったようだ。SNSでは、「松平武元のうまくいったっていうニッコニコの笑顔が憎たらしい」「嫌味をふりまく武元に笑った」「イヤなじじい…ほんとたまらん」と、イヤミな性格ながら憎みきれない石坂武元へのコメントが集まっている。
なお、意次の「『高家吉良様』よろしくご指南願えれば」というセリフは、かつて石坂浩二が演じた1999年の大河ドラマ『元禄繚乱』の吉良上野介になぞらえたオマージュだ。
余談だが、武元と意次の年齢差はわずか5歳。また、将来抜き差しならぬ関係に発展する田沼意知(宮沢氷魚)と佐野政言(矢本悠馬)の初対面も描かれた。『べらぼう』公式サイトではすでにネタバレされているが、この2人はのちに衝撃的な事件の当事者となる。佐野家の家系図を池に捨てた意次の行動に、フラグ成立を感じた視聴者も多かったのではないだろうか。
きょう16日に放送される第7話「好機到来『籬の花』」では、今の倍売れる『吉原細見』を作り出せば、地本問屋仲間に加われる約束を取り付けた蔦重の前に西村屋与八)らが立ちふさがる。蔦重はお披露目直前まで、編さんを繰り返すが、妨害を乗り越えられるのだろうか。