光石研『デザイナー 渋井直人の休日』はなぜクセになるのか

2月16日(土)16時0分 NEWSポストセブン

光石研の初主演作にハマる人が続々(テレビ東京HPより)

写真を拡大

 作品の良し悪しは、必ずしも予算では決まらない。そう実感できる瞬間はアートの醍醐味の一つだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、深夜ドラマについて言及した。


 * * *

 最近、日本国内でもそれらしき作品が見つかり、にわかに注目されている謎のアーティスト、バンクシー。イギリス出身らしいということ以外分かっていない覆面芸術家です。そう、「バンクシー」という名が世界に鳴り響いたのは、昨年10月のオークション現場でのことでした。


 サザビーズの会場で1億5000万円で落札された絵画《風船と少女》。落札の槌が響いたその瞬間、額縁に仕込まれたシュレッダーが作動し、絵は人々の目前で無残にも裁断されていきました。


 唖然としかいいようのないその光景。


「アートは、一部の富裕層が所有したり金融商品のように売買したりするものではない」というバンクシーのメッセージが浮き彫りに。と同時に「コンセプチュアルアート」の面白さも世界中に伝わっていきました。


 一つのアート作品によって巻き起こされる反響・現象。それを事前に設計する「コンセプチュアル」な行為。バンクシーのアートは、描かれた絵よりも「コンセプト」こそが表現対象であり伝えたい対象なのでしょう。


 さて。現代アートとは分野もスタイルも違いますが、「コンセプト」の面白さを追い求めるという意味で、深夜ドラマの中に個性的な作品が見てとれます。言ってみれば、物語の筋立てやストーリー展開の面白さ以上に、ドラマの「コンセプト」が際立ち、光を放っている個性的な作品が登場してきています。


 その筆頭が『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京・木曜深夜1時)。


 渋井直人(光石研)という52歳の独身デザイナーが繰り広げる日常風景。渋井は個人事務所を持って活躍しているデザイナー、いわば都会の成功者。しかしどこかミスマッチ感が。まずそれを象徴するのが、似合っているとは言いがたいダッフルコートとマフラー姿です。


 浮いている。着こなせていない。光石さん演じる「オシャレな業界人」の「微妙なズレ感」が見事に結晶しています。


「かっこ付けオヤジの痛い日常」「チャラくないのに舞い上がってしまう滑稽さ」。都会生活に適応したかと見えつつも、どこかで右往左往しているチグハグ感こそ、このドラマの「コンセプト」なのでしょう。


 光石さんのナレーションも内面の独白としてズレ感を伝えています。オヤジの小さな見栄とプライド。切なくて情けない。心のつぶやきが「あるある感」をぐっと高めていき、倒れても前を向く健気さは、ついつい応援したくなる。


 そう、このドラマは「ささやかであっても、消せないズレ」がテーマでありコンセプト。それは多くの人のリアルであり、ペーソスが漂い、クスッと笑いを誘う要素。という意味で、まさにコンセプチュアルなドラマです。



 初めて単独主役を演じるという光石研さんですが、これ以上のキャスティングはない、という印象です。北九州市の高校生だった時、映画「博多っ子純情」でデビューし役者歴は何と40年超。出演した映画やドラマは数知れず。しかし、どこか都会的で華やかなスポットライトから一歩脇に立ってきた名バイプレイヤー。


「博多っ子純情」に象徴されるような素朴さを纏いつつ、デザイナーという都会人を気取る(気取らねば仕事にならない業種)渋井を演じ、まさしくその「あわい」の表現が絶妙です。


 その他にも、深夜ドラマにはコンセプチュアルな作品が並んでいます。 


『絶対正義 』(フジテレビ系 土曜夜11時40分)の主人公は、最恐主婦・正義のモンスターである高規範子(山口紗弥加)。間違いや過ちは一切許さず法律のみを唯一の価値基準とするという人物。「百パーセント正しい、ということはそれだけで大きな欠点」というコンセプトをドラマとしていかに興味深く描き出せるか、注目です。


 一方、遠藤憲一主演の『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京 水曜深夜1時35分)も、独特なコンセプト感漂う作品です。


「遠藤憲一が役者を引退」という噂を聞いたスタッフが、真相を確かめに行くシーンから始まり、男仲居として温泉宿で働く遠藤の姿を追いかけていく、という虚実ないまぜがいい。


 いくつもの名湯を訪ねる密着取材、そこで繰り広げられる一話完結の物語。ストーリーも面白いのですが、やはり実在の名湯・名旅館の風情が克明に描き出されるあたり、ドラマが旅番組の別バージョンにもなり得る、という発見。まさにテレ東得意の「ドキュメンタリーとドラマの合体」作です。


 ということで、ユニークなコンセプトをドラマ化していく新しい挑戦、そのみずみずしさが魅力です。深夜帯に限らず「コンセプチュアルなドラマ」が次々に生まれてきて欲しいものです。

NEWSポストセブン

「光石研」をもっと詳しく

「光石研」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ