石坂浩二 名探偵・金田一耕助の孤独を癒す場面作りたかった

2月19日(木)16時0分 NEWSポストセブン

 1976年に始まった後発の映画会社、角川映画の初期を支えたのは、石坂浩二が主演し、市川崑がメガホンをとった金田一耕助シリーズだった。その第一作『犬神家の一族』を2006年にリメイクした時、30年前のオリジナルからラストシーンだけが変わった理由について石坂が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。


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 石坂浩二は1976年、角川映画の第一作目となった市川崑監督作品『犬神家の一族』で、主人公の名探偵・金田一耕助を演じた。映画は大ヒットし、後にシリーズ化されることになる。


「市川監督とトヨタのコマーシャルを撮っている時に『映画に出ないか』と声をかけられたのが最初です。しばらくしてお目にかかった際に『金田一をやりたい』と。でも、今まで映画化されてきたのは背広を着てピストルを持っているのばかりでしたから『そんなことはできない』とお断りしました。ところが監督は『今回は原作通りにやりたい』と。それならやれるかもしれないと思いました。


 監督からは髪を伸ばすように言われていましたが、単に長くするとヒッピーみたいになって面白くないんです。それでパーマをかけることにして、そのパーマを解いて、色を抜いてからまた色をかけて……という風にして髪の毛をギシギシにしました。少し引っ張ったら抜けるどころか、切れるくらいに髪を傷めていきました」


『犬神家〜』は2006年に石坂=市川のコンビでリメイクされた。ディテールまでオリジナル版が再現された本作で、ラストシーンだけが異なっている。オリジナルでは金田一は逃げるように事件の町から去っているのに対し、リメイク版では別れの挨拶をしているのだ。


「監督は金田一を神様や天使のような存在だと言っていました。たしかに彼は傍観者だとは思うのですが、僕はそれだけでなく運命論者とも思います。先祖からの血の流れに起因した事件は、あるところまで行かないと片が付かないと思って、金田一はあえて見過ごしている。だから、全てが終わってから解答を出す。


 同時に、普通は事件が起きてから探偵が来ますが、金田一の場合は、彼が来てから事件が起きます。それはお客さんの目でもある。ですから、彼は決して物語の中には入れません。


 だから、他の探偵と違って未然に防ごうとしない。止められなくて悔しがるけど、その一方で止めちゃいけないとも思っているんです。普通の探偵だと事件が起きてもそんなに苦しまないんですが、彼は苦しむ。その結末はどうなるかを既に知っているのに、何もできないから。


 それで、最初の時は演じていて足りない所があったんです。物語に入り込めない苦しさを演じたかった。ですから、リメイクの時はそれをやりたいと思いました。『彼は孤独な男なんです』と言ったところ、監督は『天使なんだから孤独で当たり前だ』と。

 

 最後に別れの挨拶をするのも『もうこのシリーズはやらない、と思われてしまうから』と監督は嫌がっていました。僕としては、事件現場に向かって、死んだ人も含め『あなたたちと一緒に行けなくてすみません』という感じにしたかった。


 それでも撮影を進めている時も『彼の孤独を癒してやる場面をできませんかね』と食い下がりました。その時は、監督は何も返してはきませんでした。そうしたら最後、あの場面を撮影する時になって監督が『撮ろう』とおっしゃったんです」


●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら〜東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)など。本連載に大幅加筆した単行本『役者は一日にしてならず』が2月23日より発売!


※週刊ポスト2015年2月27日号

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