佐藤愛子のすごいところ、「最近の若者は云々」を言わない点

2月19日(日)7時0分 NEWSポストセブン

佐藤愛子さん著書がヒットした理由とは?

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「ベストセラーは世の中を映す鏡」といわれるが、では、現在56万部を超える大ベストセラーとなった佐藤愛子さんのエッセイ集『九十歳。何がめでたい』が映し出しているのは、はたして…? 社会学者の水無田気流さんにベストセラーの理由を聞いた。


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 ベストセラーの要因は、大きく3点あるように思います。


◆「役立つ物」至上主義への反動


 ゼロ年代以降の新自由主義的な気運の浸透により、昨今の社会は「より役立つ物」「効率の良さ」が追求されてきました。しかし、合理性や効率性が最優先されてきた結果、失われてしまったものも多々あります。


 本書で書かれている「情」や「信頼関係」へのまなざしは、この「効率至上主義」の社会では旗色が悪いもの、でも人が生き生きと生活するために必要なもののように思います。 また、あらゆるものがクリーンで脱臭済みのような世相の中で、人間の生命力や生活力、自己判断能力、さらには素直な感受性のようなものも失われてきています。


 従って本書のブームを支えているのは、ゼロ年代以降蔓延してきた「役立つ物」至上主義への反動があるのでしょう。


◆「昏迷と騒乱の時代」への不安


 今や、多くの国民にとって、最大の不安は老後など将来への不安です。


 これまで「孤独死へのぼんやりした不安」を背景に、「婚活」や「おひとりさま」の言葉の流行もありましたが、現在も婚姻率は上昇せず、「超」のつく少子高齢化に歯止めはかからず、高齢層の貧困化も深刻です。


 さらに、昨年はイギリスのEU離脱や、トランプの大統領選勝利など、「理性の敗北」ともいえる現象が起きました。理性的に「正しい」判断とされるものが、必ずしも現実に当てはまるわけではなくなってきた、「混迷と騒乱の時代」に突入したともいえます。


 このような混迷の濃霧のような世界の風景の中で、佐藤愛子さんのご自身の意思と感性を信じて進んでいくような姿勢は、いかなるときにも進路を示すジャイロスコープのように見えるのかもしれません。


◆「高齢社会」の重層化


 人口動態的には、層として数の多い団塊の世代も、今年は60代後半から70才となり、団塊より下の世代も高齢者となってきました。


 1970年代に団塊の世代がニューファミリーとなった時期に「若者文化の重層化」現象が起きたのとは対照的に、昨今は「高齢社会の重層化」現象が見られるように思います。


 本書では、子供の声がうるさいという人たちが増えたことに対し、淡々と述べられています。戦時中、厳戒態勢で人の声や物音が消えた静けさの恐ろしさを訴えていました。団塊の世代以降は、高齢者とはいえ「戦争を知らない」世代です。佐藤さんは、彼ら声の大きい団塊の世代より一回りも上の世代でもあり、貴重な戦争経験者世代でもあります。


 近年、この世代の人たちはどんどんお亡くなりになり、「生きられた体験」としての戦争経験が語り継がれなくなってきました。こういった世代の人たちの声は、国際情勢の不安定化の時代、貴重な肉声といえます。


 佐藤愛子さんのすごいところは、世代について言及しても、決して「だから最近の若者は云々」的な語りにはならないところです。


 年齢を重ねると、「類としての若者」に、「類としての年長者目線」で語るようになる人も多いのですが、佐藤さんは90才を超えてなお、自分の感じたことを「自分の言葉」でしか語らず、それでいながら独善的にはならず、普遍性のある言葉で語ることができるというすごみをお持ちです。


 佐藤さんはきっと、90才の高齢者の声を代弁しようなどという意図は微塵もないのではないでしょうか。あるとすれば、自分が面白いと思うものを追求されてきただけのように思われます。


※女性セブン2017年3月2日号

NEWSポストセブン

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