実梨(菜々緒)はモンスターペイシェントなのか? 「実の父親だから意地を張っている」と決め付ける沖田に疑問/『A LIFE〜愛する人〜』第6話レビュー

2月21日(火)2時30分 messy

 2月19日に放送された木村拓哉主演『A LIFE〜愛する人〜』(TBS系)第6話が15.3%とこれまでで最も高い視聴率を記録した。これまで、第2話の14.7%をピークに下落傾向にあった視聴率の原因に、木村を挙げる記事が散見されていた。確かに本ドラマは、SMAPの解散騒動以降、初めて木村が主演するドラマということもあり、木村に注目が集まるのは仕方がないのかもしれない。だが視聴率の浮き沈みの原因がすべて木村ということはないだろう。少なくとも本ドラマは木村ありきの駄作ではなく、見所のある良いドラマだと筆者は感じている。

 第6話は、壇上記念病院の副院長・壇上壮大(浅野忠信)の愛人で、病院の顧問弁護士である榊原実梨(菜々緒)を巡る物語が中心となっていた。

 パチンコ店で倒れた実梨の父親が病院に運ばれてくる。初めは手術の同意書にサインすることを拒んでいた実梨だが、壮大らの説得によって腕利きの沖田一光(木村拓哉)や外科部長の羽村圭吾(及川光博)ではなく、若手のお坊ちゃん医師・井川颯太(松山ケンイチ)が執刀医になること条件にサインすることを飲む。実梨は、15年前に家を出て別の女のところに行き音信不通となっていた父親を恨んでいたのだ。そんな実梨を、病院スタッフは「究極のモンスターペイシェント」と揶揄し、失敗することを見越して指名された井川は「あんな風に言われて引き下がるわけにはいかない」と憤慨していた。

 他の医師が少しでも手を出したら病院を訴えると脅す実梨に対して壮大は「こんなときに困らせないでくれ」と苦言を呈していた。困り果てた壮大は羽村に「なんとかしてくれよ」と頼むが、「やっかいなことになると僕に丸投げ? 僕は君の操り人形じゃない」と一蹴されてしまう。前回、これまで片腕として貢献してきた羽村をぞんざいに扱ったつけだ。院長・壇上虎之助(柄本明)との病院経営における対立だけでなく、妻・壇上深冬(竹内裕子)が自身の脳腫瘍を知る、羽村との関係悪化など、壮大は徐々に追い詰められていた。



 父親に愛されなかったという過去を抱える実梨の心には大きな穴があいていた。壮大と愛人関係にあったのも、壮大の父親が、98点をとった壮大に対して「医師は少しのミスも許されない。98点は0点と同じだ。100点以外は何の価値もない」と叱責するような厳格な人物であり、「父親に愛されない」という共通点を持つふたりだからこそだと思っていた。だからこそ、壮大には自分の気持ちをわかってもらえると期待していた実梨だが、壮大に「何の話だよ」とスルーされてしまう。苛立つ実梨は、壮大の妻・深冬に突っかかる。「深冬先生みたいに恵まれている人にはわからない。お金の苦労なんてしたことないですよね。仲の良い両親に育てられ、今は医者で、妻で、母で、おまけに腕のよい元カレが病院の実績に貢献してくれる」。そんな実梨に深冬は「そうね、私は幸せよ? ものすごく幸せ」とひと言返答する。それもまた実梨にとって気に入らないことだろう。

 一方、威勢よく「自分が担当する」と啖呵を切った井川だったが、困難な手術の上、他の医師に助けをもとめれば病院が訴えられるという、八方ふさがりの状況に弱気になっていた。しかし実梨の「リラックスしてやっていただいて大丈夫ですよ。井川先生に執刀していただけるなら悔いはないです、どんな結果になっても」という挑発を受け井川は覚悟を決める。オペナース・柴田由紀(木村文乃)に頭を下げ、手術のシミュレーションの手伝いをお願いするのだ。「患者さんの命の限界を俺が決めるわけにはいかない」と、沖田の言葉を借りて。第一話では、プライドの高いお坊ちゃん医師でしかなかった井川が、沖田の背中を追うように成長していく姿は、本ドラマの身どころのひとつでもある。

 そして手術当日。実梨は壮大に「深冬先生にのろけられちゃいました。幸せだって。たぶん気づいてますよ、私たちのこと。(桜坂中央病院との)提携の話もまとまったことだし、私は用済みなんじゃないですか、いいですよ、終わりにしても」と語りかける。どこか投げやりに見える実梨だが、手術の様子だけが気がかりな壮大は、たったひと言「ありがとう」とだけしか返さない。

 手術は、途中トラブルが発生するものの、沖田のひと言によって目覚めた井川によって無事成功を収める。直後、「出て行ってくれ」と壮大は実梨に言う。父親の手術が成功したことをどう受け止めていいのかわからずにいる実梨は、動揺したまま「私たちはこれで終わりということで。弁護士の契約も切っていただいて結構です」と述べ、副院長室から出て行く。



 その後、父親に「治療費、入院費は清算しておく。今後一切私に頼るようなことはしないと約束してください。二度とお会いすることはありません」と言い、井川に「オペを成功させてくれたおかげで、今度は私があの人を捨てることが出来た」とお礼を述べる実梨に、沖田は言う「そうやって意地を張れているのも、いまお父さんが生きているからでしょ」。

 メインストーリーについても進展があったので後にまとめるが、ここまでが今回の実梨に関する物語だ。壮大と実梨の愛人関係は、お互いの穴を埋めあっていると思っていた女性が、実は男性に都合よく利用されていたという典型的なパターンで、特筆すべきことはないかと思う。違和感を覚えたのは術後に沖田が実梨を軽く咎めたシーンだ。

 確かに実梨は、確実性のある沖田ではない、経験不足の井川にオペを担当させたという意味では問題があったが、手術自体を拒否したわけでもないし、治療費などを全額負担している。他に女を作り家を出て音信不通となった人間に対して、ただ「実の父親」であるというだけでここまでしなくてはいけない理由はない。パートをかけもちしてなんとか大学まで進学させてくれた母親、そして自分の実力で手に入れた弁護士という職業で得た対価を、なぜこの父親に払わなければいけないのか。実梨の怒りは当然なものだろう。

 もし「その怒りをぶつけられるのも、いまお父さんが生きているから」であれば、沖田は実梨の思いを否定したのではなく、助けられる命を見捨てようとしたことを咎めたと解釈できる。でも実際に沖田が吐いた台詞は「意地を張れているのは」だ。これではまるで実梨が「本当は父親を愛しているのに(父親に愛されたいと思っているのに)、意地を張って見捨てようとした」かのようだ。「親子」を理由に、助け合うことを強制されるいわれはない。あとに実梨が「どうして愛してくれなかったの」と嘆くシーンがあり、沖田の発言は必ずしも間違いではなかったが、たいへんモヤモヤとさせられた。

 今回の放送で第6話と、ドラマも折り返し地点となった。壮大は日に日にがんじがらめとなっている。羽村は壮大から距離をとるようになり、小児科の赤字を補填するために組んだ桜坂中央病院との提携は、院長から「やり方に品性がない。こんなものに合併の価値はない」と怒鳴られ(恩師を売って合併をした。前回参照)、いつ脳腫瘍が破裂するか分からないと怯える深冬を沖田が抱きしめるシーンを目撃する。誤魔化しが効かなくなるほど壮大は追い詰められている。第1話で怒りに任せて拳で穴を開けてしまった壁に掛けていた絵が、床に落ちている描写があったのは、壮大の「誤魔化しの効かなさ」をあらわしているのだろう。

 抱き合う沖田と深冬を見た後、不気味なにやけ面で廊下をひとり歩く壮大が、次回以降なにを仕掛けるのか。いつ爆発してしまうのか。ますます『A LIFE』が見逃せなくなってきた。
(ドラマ班:デッチン)

messy

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