尾野真千子、沖縄移住でメリハリ 仕事も「より一生懸命になれる」 女優業への思いや沖縄生活を語る
2025年2月21日(金)7時11分 マイナビニュース
●さまざまな人生を疑似体験できる女優業の醍醐味を実感
数々のドラマや映画に出演し、昨年放送されたNHKの連続テレビ小説『虎に翼』の語りを務めたことも記憶に新しい尾野真千子。2月22日にNHK BSで放送される特集ドラマ『憶えのない殺人』(21:00〜)では、殺人事件を追う刑事役を演じた。2021年に結婚を機に沖縄に移住し、居酒屋の女将を務めるなど新生活を送っている尾野にインタビューし、本作出演の感想や沖縄移住後の変化を聞いた。
本作は、認知症の元警官・佐治英雄(小林薫)が、殺人事件の真犯人を追う刑事・北嶺亜弓(尾野真千子)にマークされ、自分が犯人かと恐れながらも真相を探ろうとするヒューマン・ミステリー。尾野がヒロインを務めた連続テレビ小説『カーネーション』(2011)で、小林が父親役を演じており、再共演に注目が集まっている。
認知症や冤罪など難しいテーマを扱った本作。尾野は、そういったことが身近にあるという事実を届けられたらと考えている。
「認知症をみんなに認識してほしいとか、冤罪をわかってほしいとか、そんな大それたことは全然考えてないです。お年寄りが増えていく中で、すごく多くなる話だと思いますが、だからといって、認知症の人を大切にしましょうと呼びかけたいわけではなく、身近にそういう人たちはいるということを伝えられたら」
そして、自分自身にも起こり得ることだという意識が高まったと明かす。
「誰かに伝えたいからやっているんですけど、自分も今後考えていかなきゃいけないことだなと。私に言われているなと思いました。認知症とか、冤罪になりかけるとか、そういうことが他人事ではなくすぐそこにあって、自分もなるかもしれないんだなと、いろいろ考えさせられました」
自分ではない誰かの人生を疑似体験できるという女優業の醍醐味も改めて感じたという。
「知らなかったことをたくさん教えてもらえるし、勉強できるし、それは本当にこの仕事をしていてよく思います。ただ、中途半端で終わってしまうんですよね。ちょっとかじって、次の作品に行かないといけないので、そこで終わってしまうもどかしさはありますが、いろいろなことを知るきっかけを与えてもらっているなと思います」
本作のような難しい役どころを任されることも多い印象だが、そういった作品はやりがいがあると語る。
「楽しいですよ! 難しいテーマの作品をやらせていただくと、求められている気持ちにもなりますし。難しければ難しいほど楽しいです。作品に入る前はすごく嫌で、『あ〜重い』って思いますが、私ができるのはコメディではないので、そういうことを伝えていくしかないんです」
●デビューから28年「楽しいと思えていることが幸せ」
また、「重いテーマをやればやるほど、しっかりした女性に見えて、ちょっとした親孝行になりますよね」と冗談交じりに話し、親孝行したいという思いはずっと抱いているという。
「東京に出してもらって、この仕事をさせてもらったときから、親孝行しなきゃいけない、家族孝行しなきゃいけないと思っていて、それはずっと付きまとっています。自分だけ好きなことをやらせてもらったので」
中学3年生のときに、ロケハンのために中学校を訪れていた河瀬直美監督にスカウトされ、映画『萌の朱雀』(1997)でデビューした尾野。両親からは女優業について「高校に入って、高校生活をちゃんと送って卒業したらやっていいよ」と言われたそうで、高校卒業後に上京して女優業に専念した。
上京当初、なかなか活躍できない尾野を見て不安に思っていた両親も、尾野の活躍を見て次第に反応が変わっていったという。
「『芽が出ない』『いつ帰って来るんだ?』とずっと言われていましたが、『次は何に出るの?』『いつ公開するんだ?』『ポスターはないのか?』と言うようになって、やっと認めてくれたんだなと思ってうれしかったです」
尾野の父親は、『カーネーション』で小林が演じた厳格な父・善作に似ているそうで、「ああいうお父さんですね。厳しい。今でも怖いです」と笑った。
1997年に女優デビューしてから今年で28年となる。
「もうすぐ30年……よく頑張ったなと。楽しいと思えなかった時期もありながら、今楽しいと思えていることが幸せです。辞めようと思ったことはないですけど、なかなか芽が出ない下積み時代は、まだ自分が整ってなかったんでしょうね」
楽しいと感じる瞬間を尋ねると、「お芝居しているときもそうですし、人と再会できることも幸せです」とにっこり。本作での小林との再共演や、演出を担当した片岡敬司氏と2000年以来、久しぶりに仕事ができたことを喜んだ。
●沖縄では「素の真千子として」 居酒屋の女将として接客も
2021年に沖縄在住の映画コーディネーターの男性と結婚し、沖縄の今帰仁村に移住した尾野。結婚、移住を経て心が穏やかになり、“きつね顔”から“たぬき顔”へ表情が柔らかくなったそうで、「全くイラつかないというわけではないですけど、ある意味で穏やかになりました」とほほ笑む。
また、沖縄移住で「メリハリがついた」と変化を語る。
「東京はお仕事をする場所、沖縄や(地元の)奈良は女優ではない真千子になる場所。今までは東京1つで頑張ってやっていましたが、ちゃんと切り分けられたことで、どちらもより一生懸命になれるというメリハリができて、そこが一番変わったところです」
沖縄では居酒屋の女将を務め、仕込みをしたり接客をしたりしているという。
「やれることは全部やりたいんです。人に任せっぱなしというのを嫌がる性格なので、何でもやっています」
そして、沖縄では「素の真千子として本当に普通に過ごしています」と言い、「女優って忘れちゃいけないと思うけど、たまに『あ! 私、女優だった』『そこまでやっちゃダメ』って思うこともあるぐらい、普段は忘れてしまっています」と笑う。
現在43歳。今後については「こういう風になりたいというのはないので、なるようになれ!」と考えているそうで、目の前の作品や役を一つ一つ楽しんでいくつもりだという。
沖縄生活は期間限定ではなく「うちの夫がどこかに行こうって言わない限りは沖縄だと思います」とのこと。そして、「私たち夫婦の、夫婦に合った生活を築いていきたい」と抱負を述べ、「夫は明るい人なのでいつも楽しんでいる! これからも何でも楽しんでいけたら」と笑顔で話してくれた。
■尾野真千子
1981年11月4日生まれ、奈良県出身。1997年、映画『萌の朱雀』で主演デビュー。2007年公開の映画『殯の森』が第60回カンヌ国際映画祭グランプリを獲得し、その後も数々の作品に出演。2011年度後期の連続テレビ小説『カーネーション』でヒロイン・小原糸子を演じ、2024年度前期の連続テレビ小説『虎に翼』では語りを担当。また、2021年公開の主演映画『茜色に焼かれる』で数々の主演女優賞を受賞し、2022年公開の映画『ハケンアニメ!』では第46回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した。
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