80歳の名脇役・品川徹の「乾物的存在感」は異色の劇団に由来

2月21日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏。近作のドラマで独特の存在感を発揮している80歳の怪優とは、かつて同じ空間を共有したことがあったという。


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 出汁をとる時も煮物にも……いろいろな料理に使える。噛んでも噛んでも味が消えず、じわじわっとまた味が滲み出してくる。そんな、乾物のような魅力。最近、ドラマでよく見かける一古老のことです。


 痩せた首筋、眉間に刻まれたシワ、顔にかかる白髪、飄々とした語り口。つい、仙人を連想してしまう。その役者の名は、品川徹。1935年生まれというから齢80を迎えられるお方です。


 注目のドラマ『だから荒野』(NHKBS日曜日午後10時)で、長崎の被爆体験を語り続ける孤独な老人を怪演しています。


 抑揚をおさえた口調。みだりに感情を出さない顔。安易に動かさない身体。その人のまわりに漂う、静けさ。存在が静かだからよけいに、人物が持つ歴史や重ねてきた体験について、思いを馳せたくなる。想像力をかきたてられる。奥行きを感じる。人間はぺらぺらと口先で説明できることだけで生きてはいない−−当り前だけれど、なかなか最近見ることのできなくなった人物像が、そこに浮き上がる。


 印象に残る品川氏の演技。いぶし銀のような存在感。実は最近しばしばテレビ画面にお目見えしています。大河ドラマ『花燃ゆ』では、野山獄囚人の古参・大深虎之丞役。『梅ちゃん先生』『MOZU』『金田一少年の事件簿』『クロコーチ』など人気ドラマに登場し、映画の出演も数多い。


 昨今のテレビ文化の中にあって、噛んでも噛んでも味が出てくる、乾物的存在感。簡単には消費され尽くされない品川氏の凄みは、どこに由来しているのでしょうか?


 実は品川氏はアングラ劇団の出身。1970〜80年代に注目を集めた劇団「転形劇場」の一員だった履歴を持っています。何を隠そう、今ではテレビで人気の大杉蓮氏もメンバーの一人だった異色の劇団です。


 30年ほど前、私自身もその舞台に足を運びました。こう言っては何ですが、まったくもって大衆ウケする舞台ではなかった。アバンギャルド。独創的。アーティスティック。なぜなら、2時間を超える舞台に、台詞がなかったのですから。


 時間の流れ方も、日常とはまったく違っていた。役者が1メートル前進するのに、3分も5分もかかる。鍛え上げられた筋肉がなければ、決して演じられないスローモーションのような動作。


 たとえば代表作『水の駅』では、舞台の上に、ただ一筋の水が糸のように落ちていました。そこへ役者が手を差し延べる。手のひらに水を受ける。その瞬間。しーん。水音は消え、ただただ沈黙だけが暗がりに広がっていく……。


「しーん」を表現するために創られたような芝居。台詞も動きも究極の引き算。まるで、今の情報氾濫社会と正反対のような静謐な世界。そんな前衛的舞台の経験が、今の品川さんの中に結晶しているのかもしれません。


 役者の独特な存在感が際立てば立つほど、ドラマには緊張感がもたらされる。だから是非、品川さんのようなベテラン「乾物的役者」に、もっともっと活躍してほしい。登場してほしい。なぜなら、テレビドラマは映画や舞台にも増して、役者の質感や存在感が作品を左右するからです。


 最後によけいなことですが、朝ドラ『花子とアン』で大ブレイクした、やはり舞台出身の吉田鋼太郎氏はどうでしょう。その異色な存在感で大人気に。でも、お座敷に出すぎなのか、色気がありすぎなのか、最近ちょっと食傷気味。「BOSS」のCMのケンカシーンなんて、怖さも妖しさも感じない。


 すごい速度でこの世の中に消費され尽くされそうで、ちょっとだけ心配です。

NEWSポストセブン

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