『御上先生』脚本・詩森ろばが込めた思い「人間は変化していける」 “官僚教師”を主人公にした理由も語る
2025年2月23日(日)12時0分 マイナビニュース
●「生徒に考えさせる今の最先端の教師像をお伝えすべき」
俳優の松坂桃李が主演を務めるTBS系日曜劇場『御上先生』(毎週日曜21:00〜)の脚本を手掛けている詩森ろば氏にインタビュー。“官僚教師”を主人公にした理由や作品に込めた思いなどを聞いた。
本作は、教育のあるべき真の姿を描く完全オリジナルの大逆転教育再生ストーリー。東大卒のエリート文科省官僚の御上孝(松坂桃李)が隣徳学院3年2組の担任教師になり、令和の時代を生きる高校生を導きながら、権力に立ち向かっていく。
詩森氏は、第28回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞するなど演劇界を主軸に活躍。松坂が主演した映画『新聞記者』(2019)で第43回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞するなど近年映像作品にも挑戦しており、民放連続ドラマを手掛けるのは今回が初となる。
「日曜劇場はすごく規模感が大きくて、私がほぼほぼ初めてな状態で書いていい枠とも思わなかったので、当然プレッシャーでしたが、すごく光栄なことだなと思います。民放ドラマなのでいろんな制約があるだろうと勝手に思っていたのですが、ほぼほぼ私が書いたまま、テーマや骨子は全く制限されないまま書かせていただきました」
脚本を執筆するにあたって取材を大切にしているそうで、今回も教育に関して本などで調べるだけでなく、学校などを取材し、教育の進化を目の当たりに。生徒に考えさせる今の教師像を伝えたいと思ったと語る。
「私が思っていたものから学習の制度もすごく上がっているし、理論としての制度も上がっていて、そういうものを書きたいなと。特に、生徒に考えさせるというのは、素晴らしいなと思う教育者の方は皆さんやっていらっしゃることで、生徒が考える、生徒に考えさせるという今の最先端の教師像をお伝えすべきなのではないかなと思いました」
学園モノというのは、『VIVANT』(2023)や『アンチヒーロー』(2024)など話題の日曜劇場作品を多く手掛けてきた飯田プロデューサーの発案で、そこから主人公をどういう教師にするか話し合っていく中で、詩森氏のほうから官僚教師を提案したという。
「あまりうまく制度としては機能していませんが、文科省の若い官僚が官僚派遣で学校に行くというのは実際にありますし、皆さんが思っているより官僚の方っていろんなところに出向されているんです。最初は勘みたいなもので、これでいったら面白いものになっていくかもしれない、広がりの出るものになっていくかもしれないという、『これだ!』という感じが最初からあったような気がします」
『新聞記者』執筆後も官僚について調べていたそうで、その知識も役に立ったという。
「『新聞記者』を書いたときも官僚の方にお話を聞きましたが、聞ききれずにやってしまったという思いがすごくあったので、そのあとに『御上先生』関係なく、個人的にも勉強していました。官僚についてもうちょっと知りたいと思ったのが役に立ち、けっこうリアルベースで書けているのではないかなと思います」
●どの作品でも“パーソナルイズポリティカル”の考えを礎に
ドラマの中で「パーソナルイズポリティカル」(個人的なことは政治的なこと)という言葉が大事なテーマとして何度も登場するが、詩森氏はLGBTQの作品を手掛けたときにこの言葉を知ったという。
「LGBTQの団体の方に取材したときにお聞きして、そのときはそういう考え方をしたことがなかったなと思って。どこかで政治と個人が分かれた存在でしたが、生きづらさみたいなものを解決するとしたら、やっぱりシステムや構造を変えていかないといけないというのはすごくわかりやすいし、当たり前のことだなと思いました」
それ以降、どの作品でもこの言葉を大切にしているという。
「それからずっと、個を描いていくとシステムについてたどり着くようなものを書こうと。物語を作る大前提として常にあり、今回に限ったことではなく、もう30年近くそれを礎に書いています」
今回も勢い込んで用いたわけではないが、自分にとって身近な言葉が広がっていくことに喜びも感じていると語る。
「私にとってもすごく大事な言葉ですし、このドラマによっていろんな方が知ってくれているのはものすごくありがたいです。自分の中では当たり前だと思っていましたが、ドラマに関わってくださっている方も見てくださっている方もすごく思い入れてくださっているのを見ると、今の社会にとって必要な視点、そして必要な言葉だったんだなと思います」
さらに、「ぜひ皆さんに知ってほしい言葉ではあったので、いい機会になりましたし、生徒と大人のキャストの気持ちもつなげてくれているのを見ると、それを中心に考えていけばいいという、すごくいい言葉で、それを私に教えてくれた人に感謝しています」と語った。
すでに脱稿している詩森氏。今後の展開について「思いのほか泣けるドラマになっていくのではないか」と述べ、「大人のキャストも含めて全員が変化しないと乗り越えられないドラマになっているので、変化の素晴らしさ、人間って変化をしていけるし、価値観を少しずつでも刷新していけるんだという素敵さが伝わるドラマになっていくと思うし、そうなるように頑張ってみんなで考えました」と魅力を語ってくれた。
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