寺門ジモン最強伝説1——水道橋博士『藝人春秋』特別公開 

2月24日(土)11時0分 文春オンライン

 週刊文春連載時より反響を呼び、昨年末に単行本となった水道橋博士さんの 『藝人春秋2 上 ハカセより愛をこめて』 『藝人春秋2 下 死ぬのは奴らだ』 。濃厚な登場人物の中で、博士がひときわ力を入れて描き出したのが寺門ジモンさん。驚きのエピソードより一部を特別公開します。


◆◆◆


「聞いてないよぉおぉぉ!!!!!!」




『藝人春秋2 下 死ぬのは奴らだ』(水道橋博士 著)


 2012年11月30日——。


 ついに「武井vsジモン」が今まさに、目の前で繰り広げられるかと思うと、ボクは高まる興奮を抑えきれなかった。


 この世紀の一戦へと読者の諸君を案内する前に、拙著 『お笑い 男の星座』 などからジモンがどれほど尋常ならざる人物であるか、許された紙幅で要約しよう。



 発端は2001年5月11日——。


 当時、テレビ朝日で生放送されていた金曜深夜のバラエティ番組『虎ノ門』の芸人討論企画「朝まで生どっち」で、「芸能界一ケンカが強いのは誰か!?」を論じる回があった。


 渡瀬恒彦大木凡人和田アキ子……、その日、パネラーたちがそれぞれの人選で最強説を持ち寄るなか、ジモンだけが本番前の楽屋で、「オオオイッ! オッ俺が一番強いに決まってるだろ!」と、まさかの自薦の論陣で討論を待ち侘びていた。


 しかも、人類史において、現役ではヒクソン・グレイシー、過去を振り返ってみても大山倍達と宮本武蔵のみが自分と同じ境地であると、一方的にまくし立てるジモン。


 そのビッグマウスに鼻白む周囲とは異なり、私生活で酒も煙草も人付き合いも絶ち、芸人仲間から変人扱いされているジモンの肉体鍛錬ぶりを熟知するボクは、その強烈な自己愛、自惚れにさえ、仄かな信憑性を感じ取っていた。


 一度でもその肉体を見れば、必ずや同じ思いを抱くはずだ。



©杉山拓也/文藝春秋


 ジモンは、サプリメントを含め薬物を服用することはもとより、筋肉形成を効果的に補うプロテインをも摂取せず、ジムのマシンすら使わず、“プロレスの神様”カール・ゴッチと同じ己の体重だけを利用したトレーニング方法を30年間、1日も欠かさず続けてきた。


 その日常を貫き通すことだけで、ジモンはボディビルダー的な「見せる筋肉」ではなく、柔軟で強(したた)かな、実戦性だけに特化した闘う筋肉を全身に纏(まと)っていた。


 しかし、この話がお笑い種なのは、ジモン自身に「他人と闘った実戦経験がない!」という点だ(彼に言わせれば、そもそも「オレが強すぎるからケンカを売ってくるヤツがいない!」そうなのだが……)。


「強い人間は遺伝子レベルで、オッ俺の強さが分かるのよぉ! 百獣の王ライオンは見境なく他の動物を襲わないし、ライオンを襲う獣もいないでしょ!」


 このように、たとえ武井壮が今さら「百獣の王」を標榜しようとも、もともとそのフレーズすらも以前からジモンの異名であり、専売特許だったのだ。


 自信満々のジモンは、「ノールールのバーリトゥードで、場所は山の中」という自分発の条件下でなら、ヒクソン・グレイシーですらいつでも倒せるとまで断言する。


 そう、ジモンの強さの前提は、山の中で闘うゲリラ戦なのだ。


 その主戦場としての“山”へのこだわりは、「オオクワガタ捕獲チーム」を自ら組織し、年に数回、自主的に山籠りを敢行しているところに拠る。


 ジモンが注ぐ情熱は、飼育・養育用にマンションを一部屋借り上げ、オオクワガタに「大奥」を用意するほどで、捕獲のための山籠りは、通称「地獄の特訓」も兼ねている。


 例えば、山中では匍匐(ほふく)前進のみの移動を自らに課したり、木の上で一晩睡眠したり、ヤクルト1本とバナナ1本だけで活動限界を測る人体実験を試み、それら食料が尽きれば自給自足のサバイバルに移行するといった具合。やってることは、モノズキの域を超え、完全に練兵レべルだ。


 そもそも山籠り歴は子供の頃からで、愛読漫画『空手バカ一代』の中から、極真空手の創始者・大山倍達が、恐怖に負け、決心が揺らいでもすぐに下山できぬよう片眉を剃ってから山に入って修行した有名な一コマを真似て実践したり、自然石割りや指立て伏せといった漫画的なシーンまでも、本気で修練して成功させてしまったという。


 そんな少年時代を過ごしたジモンは、足指を類人猿のように自在に曲げる鍛錬で、現在でも、足をコブシのように握れるようになっているが、なんと9歳までは、鉄棒にコウモリのように足指だけでぶら下がれた……という眉唾エピソードまでがワンセットの自慢話となっている。



 そんなジモンが、これまでの人生で熊と接近遭遇し、戦闘に及んだ通算戦績は4戦4勝。



「ガッガガガルルルルッッーーーー!! ガルルルルッーーーーーーーーーーッ!!」


 



『藝人春秋2 上 ハカセより愛をこめて』(水道橋博士 著)


 横隔膜を鍛え、独自に習得した発声法によるライオンの咆哮(ほうこう)の如き雄叫びで、熊を敵前逃亡させたらしいのだが、これらの話もご多分に漏れず自己申告であり、戦歴すべて、「山の中で」「不戦勝のみ」「現場を目撃した同行者はいない」という、但し書きが添えられる。


 そう言えば、芸人モードのジモンは、「オオ、オオイッ!!」と、必要以上に大きな声で、抑揚のない棒ツッコミを繰り返すのが常だが、実はこれは、「猛獣撃退メソッドのバラエティ番組応用形なのだよ! フフ」……とのことである。


 つまりテレビ番組出演中でさえ、常に仮想敵を想定し行動するのは、ジモンの習性なのである。


 さて、丸腰でも斯様に地上最強な男に、武器や防具を与えたらどうなるのか?


 ジモンは「もし闘わば……」と妄想に妄想を繰り返し、アメリカのプロガンマン、早撃ち世界一のマーク・リードとの対決を一方的に脳内で夢想しながら、30年間毎日、モデルガンで早抜き早撃ちの訓練を続け、今や銃を構えたら日本に敵はいないと胸を張る。


 もちろん、仮想敵はクラシカルな相手ばかりだけではない。時代性に鑑み、テロリスト相手の戦闘も想定済みだ。


 毒ガス攻撃に備え、ガスマスクを愛車に常備。また、過剰防衛を防ぐ目的で、敵の目を眩ませる“攻撃光”付き懐中電灯も常に胸に忍ばせ、それを収めたポシェットは常に左胸に配置する。当然、狙撃された際に弾丸が心臓を貫通するのを防ぐためだ。


 さらには念には念を入れ、ポシェットには分厚いポケット辞書も同梱携行しているのだが、そこにもこだわりがあり、必ず和英ではなく英和辞書でなければならないとする。


 その理由は、「英和辞書のほうがページ数が多いから!」。



©杉山拓也/文藝春秋


 ……などなど全てがひとりよがりの妄言、本番前の楽屋で独演会モードであったが、最後に、


「でもさ、この話って、視聴者が引くから『テレビでは厳禁』って他のメンバーに言われてるの。そもそもマニアックで面白くないだろ?」


 と謙遜するジモンに、その場に居合わせた芸人たちは「面白すぎます!」と絶賛。


「生放送で話してくださいよ!」と皆で持ち上げた。


 上機嫌のジモンを神輿(みこし)に乗せたまま、番組の生討論がスタートした……のだが、カメラを向けられると、なぜか一転して沈黙。根本的に芸人としてのトークスキルが史上最弱レベルだったため、終始、硬直したまま、生放送が終わってしまった。


 しかし、楽屋に戻るや、


「いやぁ、ついつい調子に乗って喋るところだったけど、オッ俺の特訓内容と実力が敵に悟られなくて良かったよ!」


 と嘯(うそぶ)き、飄々(ひょうひょう)と現場から立ち去ったのだった。



「ジモン最強説」をこのまま楽屋話で埋もれさせておくのは、あまりにも惜しい——。


 そう考えたボクは、ジモンの秘めたる過剰性を電波に乗せるべく、2003年3月1日、TBSラジオ『スポーツBOMBER!』にて、メディア初公開「ジモン最強論」を本人の口から聞き出す場を設けた。


 この日、いつものトリオではなくピンでラジオ番組のゲストに呼ばれるという異常事態に、ジモンは、ラジオ局に到着した途端、ある奇行を見せた。


 まず、ブースに入るなり、ひとり離れて、外窓と「金魚鉢」と呼ばれる防音密閉の強化ガラスを拳でコツコツと叩き、音を聞き比べたのだ。


 先述の『虎ノ門』での失態、シミュレーション番長疑惑を払拭するための行動なのだろうか。


 そして、その日のトークでは前置きなく、第一声から「本当の強さとは何か?」という命題にいきなり切り込んだ!


「いいかい、これ最初に言わせてくれる? この状況でもし、本当の最強を語るなら、まず、今、一番脱出しやすいポジションはどこかを把握すること。そして、もしもの場合、つまり有事の際、何をすべきなのか? ドアから出るのか、それともガラスを突き破るのか——そのような意識を日常生活の中で常に持ってなきゃダメなんだよ。それができていない奴は、決して強くはない!」


 おお! ツカミはOKだ!


 なるほど、それで本番前にスタジオの金魚鉢の厚さを確認していたわけか(と、一瞬、納得しかけたが、よく考えれば、ガラスを蹴破ったところで、ここは地上9階なのだが……)。


「あと、筋トレだけじゃダメなんだよ! 強くなるためには走ることも重要。オッ俺の場合、1ヶ月で200kmをノルマにして走っていたからね」


©杉山拓也/文藝春秋

 ネイチャーなジモンが、まさかアスファルトの上を走るとは想定外だった。


 しかし、その日、同席していた芸能界一の長距離ランナーとして知られる、そのまんま東から偶然、駒沢公園でジモンと遭遇した際の模様が語られた。


「たまたまなんだけど、こっちが先にジモンに気がついてさ。あっ! ジモンだ! って思って、しばらく見てたら、コイツ、藪の中の鳥や野良猫に立ち向かおうとしてるんだよ! 明らかに挙動不審でさー。しかも懐中電灯を持って走ってて、最初はノゾキでもしてるのかと思ってたんだよね」


 その証言に気色ばむジモン。


「ヒッ東さん、完全に誤解ですよ。オッ俺が持ち歩いているのは、懐中電灯じゃなくて攻撃光です! 動く動物相手に先制攻撃として、光を当てる特殊訓練をたまたま駒沢公園の周囲でしてたんですよ!」


 自らの証言によって、ある意味、ノゾキよりも遥かに変態的な行動を日課としていることを聴取者に印象付ける結果となった。


 そして、番組の最後に、ジモンは天高く吠えた。


「オッ俺は70歳で最強を目指している!! たとえ世界が滅亡しても、オッ俺だけは生き残るよ!!」


 以上の話に文章上のレトリックはあっても誇張は一切ない。


 大袈裟だと読者の諸君は思うだろうが、寺門ジモンとは、その発言を添加物なしに書き起こしただけでも、文字通り“強靭なる狂人”と形容することができるのだ。


 


 そして、2003年7月、「寺門ジモン最強伝説」を綴った拙著『お笑い 男の星座2』が出版された際に、本人から直々にお怒りのクレームが入った。



「博士ぇ! 本読んだんだけどぉー、あの書き方は全然ダメだよ!」


「ダメでしたか。ちょっと大袈裟に書き過ぎましたか?」


「そッそうじゃなくてさー」


「一応、全て裏を取って書いてるんですけど」


「チッ違うよォー。逆だよ。あんな控え目な表現で書いたら、読んだ連中が、まるでぇ、オッ俺が弱そうに思うじゃない!」



 ここまで来れば、ジモンは病的な虚言癖と思われても仕方がない。


 ならば、伝聞ではなく、自らの目で確認するしかないのだ!


寺門ジモン最強伝説2に続く



著者:水道橋博士 ©文藝春秋


※寺門ジモンエピソード登場の、水道橋博士さんと岡宗秀吾さんの対談を読めます


http://bunshun.jp/articles/-/6158


http://bunshun.jp/articles/-/6163





(水道橋博士)

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