生前退位 有識者会議は安倍内閣の大失態の尻拭い

2月25日(土)16時0分 NEWSポストセブン

有識者会議にのぞむ今井敬座長(右から2人目) 共同通信社

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 安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が1月23日、譲位のあり方を検討する上での論点整理を発表した。そこに集約された憲法学者、評論家らによる天皇制を巡る意見は、「結論ありき」との批判がたえない。


 しかし、ジャーナリスト・東谷暁氏は、安倍政権が「有識者会議」を必要とする理由にこそ、譲位問題の本質が隠されていると述べる。そして東谷氏は、2016年8月、今上天皇が「ご意向」を表明することが報道された事件を「これは宮内庁の一部とNHKの皇室担当者によるクーデター」と表現する。


 * * *

 現行憲法では天皇の国事行為は内閣の「助言と承認」によって行われる。天皇誕生日に際しての「おことば」にあったように、この行為が「内閣とも相談しながら」なされたのであるとすれば、内閣は天皇への「助言と承認」を行っていたことになる。


 しかし、安倍内閣の「ご意向」表明についての「助言と承認」は憲法に基づくものとはいえない。内閣が助言をして天皇に「ご意向」を発表していただくなどという条項はどこにもないし、そうした解釈の根拠にすべき条項も見当たらない。


 したがって、安倍内閣は恐るべきことに、天皇の国事行為あるいは公的行為ではない行為に「助言と承認」を行ってしまったことになる。結果的にせよ違憲行為に及んだのは安倍首相本人なのだ。


 では、この違憲行為において、天皇ご自身には責任はないのだろうか。もちろん、あるわけがない。国事行為および公的行為において、内閣の助言と承認が必要とされる天皇は「無答責」である。この点は憲法の教科書にも書いてある法理上自明のことだ。


 一般には、保守派の政治家である安倍首相が、誰よりも今上天皇に対して崇敬の念をもち、したがって天皇の「ご意向」を実現してさしあげようと強く念じていると思いがちである。


 しかし、立憲政治家としての安倍首相およびアドバイザーを含めた官邸は、天皇陛下が本来あるはずのない「ご意向」によって、事実上の法制度改変を要求するという事態は受け入れられないものだった。事実、かつてある宮内庁長官が「ご意向」を独断で公表した際には辞任に追い込まれ、今回も風岡典之長官は事実上更迭されている。


 したがって、宮内庁のなかで今上天皇の「ご意向」発表を画策していることを知ったとき、なんとか阻止しなくてはならないと思ったはずである。そして、それができるのは内閣総理大臣の助言か宮内庁への指揮監督以外にはなかった。


 しかし、安倍首相はそれに失敗した。この段階で事態が皇室典範、場合によれば憲法の改正にまで発展する危険のあることは気が付いていただろう。NHKテレビが「ご意向」が発表されると報道した直後、世論調査が80%を超える支持を得たと報じるなか、記者団にそっけなく答える安倍首相の憂鬱な表情を思い出していただきたい。


◆人気投票に近い


 それでは、宮内庁とNHKの「有志」はクーデターに成功したのだろうか。そう簡単にはいかなかった。「ご意向」発表までこぎつけたものの、憲法や皇室典範を改正して今上天皇が考えておられたと思われる譲位を恒久的制度に変える改正にはまだ障壁があった。


 天皇の「ご意向」で憲法や皇室典範を改正することになれば、これは天皇の発議に基づく改正ということになり違憲の疑いがある。この段階で内閣と官邸が試みたのは、天皇の「ご意向」発表と立法過程をなるだけ時間的に離すことだった。


 こうしてみれば、有識者会議というのは安倍内閣の大失態の尻拭いにすぎない。しかし、安倍政権も「ご意向」通りに実現するわけにはいかず、八〇%超の支持を無視するのは国民の反感を買うことになる。たとえ、限りなく違憲に近いとしても、一代限りの「特例」なら切り抜けられると思ったのだろう。有識者会議の落とし所が早々と報じられていたのは当然だった。


 有識者会議では専門家の意見が聴取されたが、興味深かったのは、天皇の「お人柄」や、果ては「DNA」までもちだして天皇制度の存続の根拠としていた論者が、今回は現在の憲法と皇室典範といった制度にしがみついて譲位に反対したことである。天皇制度を論じる際には文化と制度に着目すべきで、天皇に備わる属性ではなく、ましてやDNAなどではなかったのだ。


 私は象徴天皇制の将来に危惧を抱いている。これまで戦後の天皇制度が維持されたのは、伝統と国民統合の象徴である天皇への崇敬の念と、天皇の国民を気遣う言動への敬意といった二つの柱に拠るものだ。


 今回の譲位騒動によって、宮内庁内にとどまっていた天皇の「ご意向」が、今後は世論に開かれて調査の対象となる。高支持率を達成しているうちはまだよい。乱高下するようになったとき、それは人気投票に近いものになり、伝統と国民統合の象徴としての地位は危機を迎えるだろう。


【Profile】ひがしたに・さとし●1953年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。論壇誌『発言者』編集長などを歴任し、1997年よりフリーのジャーナリストに。『不毛な憲法論議』『預言者 梅悼忠夫』など著書多数


※SAPIO2017年3月号

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