受験失敗心中 母親の過剰な熱意利用する受験産業の被害者か

2月26日(金)16時0分 NEWSポストセブン

 神奈川県相模原市のとある団地で2月18日、15才の長男と47才の母親が死亡する事件が起きた。長男は16日17日に高校受験があったがインフルエンザのためうまくいかず、母子で悩んでいたという。警察は心中を図った可能性が高いと見て調べている。


 長男の受験に対して、かなり熱心だったというこの母親。往々にして受験戦争は母親が子供以上にのめり込む。塾に通わせ、学校説明会に走り回り、息子の偏差値に一喜一憂するのはいつも母親である。父親とは明らかに一線を画すこの熱量はどこから生まれるのか。精神科医の香山リカさんが語る。


「強すぎる母性愛は行き着くところ、子供の人生と母親を一体化させてしまうんです。子供の人生を通して、母親自身が自己実現を図ろうとする。特に、自分の居場所が家庭にしかない母親はこの傾向が顕著です。普通に考えれば受験なんて人生のごく一部ですが、子供が全てになっている母親の場合、一歩引いた立場で見ることができない。子供の成功も失敗も全て自分のことですから。なんとしても合格させようと躍起になり、子供以上に受験戦争に囚われてしまうわけです」


 今回の事件もまた、母親は長男の教育に並々ならぬ熱意と愛情を注いでいた。いつしか母親は長男の化身となり、わが子を通じてしか自分の努力、成果を確認することができなくなっていたのかもしれない。


「仮に子供が受験に失敗したら、全て母親自身の失敗になる。子供を通じた自己実現の道が絶たれたと感じ、子供を慰めるどころか、一緒に絶望してしまう。相模原の事件も、不可解な心中の背景にはこうした母と子の一体化があったのではないか」(前出・香山さん)


 加えて、母親にとって最もわかりやすい成功の指標が偏差値と学歴ブランドだったことが、悲劇を加速させたのではないかと指摘する。


「より偏差値の高い高校に入れ、より有名な大学に行かせなければ…という考えの人間は、えてして精神的な視野狭窄に陥りやすい。“A校に行けなければ終わりだ”と自分自身を追い詰めてしまうんです」(前出・香山さん)


 学習塾「探究学舎」塾長の宝槻泰伸氏も、学歴ブランド志向に染まり、過剰ともいえる受験熱を持った母親に何度も相対してきた。



「彼女たちに共通しているのは、自身の学歴に対する劣等感です。“私が手に入れられなかったものを子供の人生で穴埋めしたい”という欲求を握りしめている。中でも血が出るほど強く握りしめている母親の場合、その指を一本一本開いていくのは至難の業です。問題なのは、多くの塾が母親たちのこの過剰な熱を諫めることなく、逆に利用していることです。B校に受かれば子供の人生はバラ色、落ちれば地獄だと不安を煽り、特別講習の宣伝をする。ほとんどの母親は、子供の意思など無関係に、妄信的に申し込みます」


 宝槻氏によれば、相模原市の母子心中事件の土壌を作っているのは塾の存在もあるのでは、と指摘する。


「高校受験の失敗なんて、人生全体からみれば何も気にすることはない。本来、塾は母親にその当たり前の事実を教え、狂気の歯止めになるべき存在なのに、むやみに不合格の恐怖をちらつかせて、母親と子供を追い詰めている。相模原の母子は、この国の受験産業の被害者なのではないか。そんな気がしてなりません」


 受験関連の痛ましい事件は過去にも起きている。1994年、千葉県千葉市で高校受験に失敗した息子と父親が海に身を投げ心中。2006年には父親の暴力で勉強を強要された奈良県の高2男子が、自宅を放火して継母と異母兄弟を殺す事件を起こしている。2011年以降、高校生以下の子供の自殺者が年間300人を割ることがない。


《入試の点数などという、人間全体から見ればほんとうに些細な数字に右往左往するのが当たり前だと思っている日本の現状は、敢えて言えば犯罪的だと私は前から思っています。教育関係者は、良心が傷まないのでしょうか》


 2月19日、相模原の事件を受け、脳科学者の茂木健一郎氏がブログで綴ったこの問いかけは重い。


※女性セブン2016年3月10日号

NEWSポストセブン

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