ネタ切れ?働き方改革?朝ドラ、放送中のスピンオフへの困惑

2月26日(水)16時0分 NEWSポストセブン

今週は主人公の人生を描く本編ではなくスピンオフが放送(公式HPより)

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 戸田恵梨香が主人公の陶芸家・川原喜美子を演じ、視聴率でも好調が続く連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)。今週月曜から、「スペシャル・サニーデイ」と題した特別編がスタート。朝ドラでは異例となる放送中のスピンオフに、視聴者から困惑する声が出ている。なぜこのタイイングでスピンオフなのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。


 * * *

 残り5週の放送と大詰めの朝ドラ『スカーレット』に異変が起きています。


 24日(月)から放送されている第21週「スペシャル・サニーデイ」にヒロインの川原喜美子(戸田恵梨香)はほとんど登場せず、メインは幼なじみの大野信作(林遣都)と妹の百合子(福田麻由子)夫妻。残りわずかの放送になったところで、喜美子の人生を描く本編ではなく、事実上のスピンオフを放送しているのです。


 これを受けてネット上には、「何で喜美子がいないの?」「早く本編を進めてほしい」などと困惑の声が飛び交っていますが、無理もありません。ヒロインが不在である上に、放送は残り1か月のみ。また、穴窯の窯焚きが初めて成功したシーンのあと、陶芸家として成功するまでの7年間を省いたことが物議を醸していただけに、「肝心なところをすっ飛ばしてスピンオフを入れるのか!」と嘆く気持ちは理解できます。


 本来、朝ドラのスピンオフは、本編終了後に放送されているもの。だからなのか、制作サイドは第21週の放送を「スピンオフ」と明言していないようです。そのため、「本編の放送回数を削ってまでなぜ今これを放送しなければいけないの?」という不満が挙がるのは当然でしょう。


 はたして本編放送中のスピンオフは、どんな意味があり、どんな未来を暗示しているのでしょうか?


◆民放連ドラに似た小刻みな章立て


 本編放送中のスピンオフが意味するのは、「本編の物語が減る」ということ。ネット上には「終了までの時間稼ぎ」「ネタ切れなのか?」などの厳しい声も飛んでいますが、これは本編に対する期待の表れにほかなりません。「スピンオフは本編を減らすほど面白い話なのか」と言いたいだけで、単に不満の声をあげているわけではないでしょう。「本編放送中にスピンオフをはさむ」は、それだけハードルの高い構成なのです。


 また、視聴者の中には陶芸家として成功したところが『スカーレット』のクライマックスであり、2月5日の放送以降は「すべてサイドストーリーであり、スピンオフに近いもの」とみなしている人も少なくありません。朝ドラは近年、「主人公が仕事で成功を収めたあとの残り数週間をどう描くか」という課題を抱え、視聴者から「息切れ」「尻すぼみ」などと指摘されるケースが続いていました。


 視聴者のドラマを見る目が厳しくなり、民放の連ドラですら放送回数を減らす中、週6日で半年間放送するのは、やはり難しいのでしょう。だからこそ制作サイドが「それなら放送中にスピンオフをはさむ形はどうだろう」とトライアルするのも合点がいくのです。


 さらに、スタッフサイドの事情として有力視されているのが、働き方改革の影響。このところ朝ドラは、クランクインの時期を早めたり、今春スタートの『エール』以降は週5日放送に減らしたりなど、働き方改革を踏まえて制作体制を変えています。


 その上で第21週のタイトルバックを見て、「あれ?」と思った人は少なくないでしょう。脚本家がこれまでの水橋文美江さんから三谷昌登さんに代わっていたのです。ちなみに三谷さんは、「フカ先生」の二番弟子・磯貝忠彦を演じた俳優でもあり、過去には『あさが来た』のスピンオフ『割れ鍋にとじ蓋』の脚本も手掛けました。最も忙しいであろう水橋文美江さんと戸田恵梨香さんを1週間分、休ませることができたのです。


 本編放送中のスピンオフにおけるもう1つのポイントは“章立て”。民放の連ドラは「第1章、第2章、第3章、最終章と小刻みに章立てすることでクライマックスを増やし、視聴者を飽きさせることなく引きつける」という構成がすっかり定着しました。その点、『スカーレット』は明確に章立てしたわけではないものの、「章の合い間にスピンオフをはさむ」イメージだったのではないでしょうか。


 たとえば、喜美子が陶芸家として歩きはじめた年末の第13週までが第1章。年末年始のインターバルをはさんで年明けの第14週から陶芸家として成功しながらも離婚してしまった夫との和解までを描いた第20週までが第2章。スピンオフの第21週をはさんで、第22週からの残り4週で最終章を描こうとしているのかもしれません。しかも、その第22週以降は、喜美子の息子・武志(伊藤健太郎)の闘病を描く重苦しい展開が予想されているだけに、その前に明るいムードのスピンオフを入れたのでしょう。


◆「本編放送中のスピンオフ」は定着するのか


 もし今回のトライアルが最終的に視聴者から評価されたら、本編放送中のスピンオフは今後も制作されるでしょう。また、定着するにつれて制作サイドは脇役たちの登場シーンにより注力するでしょうし、キャラクター造形のうまい脚本家が重宝されそうです。


 ただ、「定着するか」と言えば、その「可能性は高い」とは言えません。毎日放送される朝ドラは「生活リズムの1つになっている」という人も多いだけに、「いきなり本編に関係のない話が入ってくる」という構成は受け入れられにくく、実際に「調子が狂う」という声も見られました。


 そもそもスピンオフは、本編を最後まで見てくれた人へのファンサービス。やはり順番としては本編終了後の放送が妥当であり、終了前に放送するとしても「本編とは別の枠で見てもらおう」という配慮があったほうが視聴者を喜ばせるのではないでしょうか。


 NHKがさらなる朝ドラ現場の働き方改革を進めるのなら、「スピンオフを合い間にはさむ」というより、放送回数はますます減らしていくのかもしれません。しかし、それらはNHKサイドの事情によるものだけに、今後も視聴者を納得させる形での着地点を探し続けていくのでしょう。


【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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