田原俊彦の本音を引き出した『あさイチ』の丁寧な番組作り

3月2日(土)7時0分 NEWSポストセブン

田原俊彦登場で大きな話題を呼んだ『あさイチ』(番組HPより)

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「自信がないから練習するんですよ」──3月1日、NHK『あさイチ』に歌手・田原俊彦(58)が出演。連続テレビ小説『まんぷく』終了直後に1988年の大ヒット曲『抱きしめてTONIGHT』を歌い、9時台には『ハッとして!Good』『恋=Do!』など11分半にわたってメドレーを歌唱した。


『哀愁でいと』のサビ前では頭より高く足を上げ、『原宿キッス』のラストには開脚してすぐに立ち上がるというハードな技を魅せた。まるで簡単なことのように、踊り続けた。


 ラスト3曲は激しいダンスの『さよならloneliness』『ジャングルJungle』『ごめんよ涙』を選択。当時と同じような振り付けで踊る田原に対して、ネットでは称賛の声が上がっていた。


 8時台のインタビューでは、普段耳にできない話も飛び出した。


 デビュー直後の1980年代の映像が流れた後、近江友里恵アナウンサーが「(多忙なスケジュールの中で)いつ歌とかフリとか覚えていたんですか?」と聞くと、田原は「そうなんだよ、不思議なんだよ、それね。当時、合宿所でみんなと共同生活していたんですけど、夜な夜な帰ってね、鏡がね、リビングにドバーンと5〜6メートル貼ってあるんで、そこでみんなで練習したの覚えてますけどね」と答えた。


 この後、司会の博多大吉(47)はオリジナルのエピソードを田原に振った。


「ラジオで少年隊のニッキ(錦織一清)さんとご一緒させて頂いていて、ニッキさんがおっしゃっていました。トシちゃんはとにかく踊りが体に身に付くまで、ずっと練習を辞めない方だったと」


 すると、田原の口から本音が漏れた。


「自信がないから練習するんですよ。自信がないと良いパフォーマンス生まれないじゃないですか。余裕がないと。(デビュー当時の映像は)顔引きつってますもんね。全部体に入れて、歌もそうだけど、踊りもきっちり叩き込んでから、本番に臨まないと」



 自信家というイメージの強い田原から、大吉が引き出した意外な言葉だった。


 2018年12月5日、大吉が水曜パーソナリティを務めるTBSラジオ『たまむすび』の『月刊ニッキ』というコーナーで、少年隊の錦織一清は田原俊彦の『悲しみTOOヤング』を流した後、こう語っていた。


「ものすごく練習する人なんです。それ見て、僕も刺激を受けたんですけど。(新曲の)振り付けをもらった夜から明け方まで、ずっと鏡の前で、ずっと自分のモノになるまで練習が必要だ、とずっとやる人でしたね。何も考えずに動けるようになるまで、慣らして動けるようになるまではやらなきゃいけないんだと僕は教わったから、トシちゃんに」


 他にも大吉は、田原が高校卒業間近のエピソードを語り終わると、「卒業式の午後には(山梨から)上京されたんですよね」とサラッと挟み込んでいる。会話の端々に、資料を読み込んできたことを窺わせる司会ぶりだった。


 番組では、田原俊彦の芸能人生を振り返る上で避けて通れない1994年2月17日の長女誕生記者会見での発言にも触れた。フリップにはこう書かれていた。


〈何事も隠密にやりたかったんだけど

 僕くらいビッグになっちゃうと

 そうはいきません

 というのがよくわかりました、ハイ〉


 当時の言葉のまま再現していたのだ。


 実は、のちに大きく騒がれるこの発言は当初、たいして話題には上がっていなかった。その証拠に、翌日の記事で『ビッグ』をタイトルに使った朝刊スポーツ紙はない。


 だが、3月になると『ビッグ発言』という呼び方が生まれ、世間には田原俊彦=傲慢というイメージが蔓延っていった。



 メディアの人間が芸能人を取材する時、当然ながら過去記事に一通り目を通すが、中には時が経過した後のまとめ記事に頼ってしまう場合もある。


 このように、年が同じでも月日が違うだけで報道内容は違うわけだから、同じ1994年の出来事を取り上げるにしても、1994年の記事を読むのか、それとも何年もの月日が流れた後の記事を読むのかで、取材の質はまるっきり異なってくる。


『あさイチ』は1994年2月17日と日付まで正確に明記した上で、ビッグ発言と簡単に一言でまとめず、一連の発言を正確に引用していた。


 このような丁寧な作りが、番組の質を確実に上げていた。


 スタッフや出演者の入念な準備、田原俊彦が不遇の時代もめげずに58歳になっても踊れる体を維持し続けたからこそ、“トシちゃん”がツイッターのトレンドワード入りするほど、『あさイチ』は話題になったのではないか。


 陽が当たらない時の準備がいかに大切か。番組は大事なことを教えてくれた。


●文/岡野誠:ライター・芸能研究家。研究分野は田原俊彦、松木安太郎、生島ヒロシ、プロ野球選手名鑑など。本人へのインタビューや関係者への取材、膨大な資料の緻密な読解を通して、田原俊彦という生き方を描いた著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)が話題。

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