大杉漣さん追悼映画には「不貞の季節」を…

3月3日(土)10時1分 まいじつ


作品目『不貞の季節』


Y・F・C=スローラーナー/2000年

監督/廣木隆一

出演/大杉漣、星瑶子、村上淳、山崎絵里、しみず霧子ほか


名バイプレイヤー、大杉漣さん(敬称略せず)66歳の急逝は、私を含めて同世代に少なからず衝撃を与えた。直前まで元気に撮影現場で仕事をしていたのに…。あらためて、一寸先のことは分からない、と暗澹たる気持ちに襲われた。


スポーツ新聞、雑誌では訃報記事が大きく掲載され、テレビでは追悼放映もされた。偲ぶ映画ではどうしても、常連だった北野武監督作品がクローズアップされてしまうが、あえて裏の道を行き、この隠れた傑作をチョイスして悼みたい。


原作はSM小説の大家だった団鬼六。多分に自伝的要素も含まれるのか? SM作家として知られる黒崎(大杉漣)は、取材と称してモデルらを連れ込み、編集者の川田(村上淳)と緊縛プレイを繰り返していた。その光景を目撃してしまった妻・静子(星瑶子)は憤慨し、外出が多くなり、妙になまめかしくなる…。


かつて純文学を目指していたが、今ではエロが売り物の作家で痴戯に走る中年男のコンプレックスを大杉さんが見事に演じている。妻にののしられ、夜の営みも拒絶され、彼女の不貞(古い言葉だが、要するに浮気)を疑い始めるあたりの情けなさは特筆もの。緊縛裸体を凝視するエロい目線も昔取ったきねづかか。というのも、大杉さんはかつてピンク映画で大いに活躍した個性派俳優で、暴行殺人鬼や変態もこなしていたからだ。



「下積み時代」と言われるのは嫌だった


この映画の廣木隆一監督や、吉永小百合主演の大作『北の桜守』もある滝田洋二郎監督もピンク出身で、若き無名の彼らが大いに頑張っていたころだ。私も当時やたらピンク映画を観ていたので連中とも知己を得て、ピンクの映画賞の常連だった彼らと打ち上げや飲み会で大いにオダを上げていたものだ。


後年、知名度が増した彼が、「あのころを“下積み時代”と(他の取材者に)言われるのが嫌でね。何か暗くてつらいだけの時代と言われているみたいだし。僕にはどの現場も自分を育ててくれた大切な場所だったんだから」と十数年前にインタビューしたときにしみじみ語っていたっけ。その語り口が今も忘れられない。彼には『現場者』という題を冠した自著もあるほど、現場を愛した人だった。


SM作家とその妻、間に入る形の編集者、この3人の織り成す、愛の行き違いがエロチックに綴られる。笑えないけど笑っちゃう愛憎劇。“大杉漣一般映画初主演作”でもあるが、大杉さんが生きていたら『一般映画も成人映画もないんだよ』と嫌うだろう。合掌。


(映画評論家・秋本鉄次)



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