【劇場アニメレビュー】モチベーション高く新たな試みも多い意欲作に!? 『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』

3月3日(金)20時0分 おたぽる

『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』公式サイトより

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『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』(2006年)で声優陣がリニューアルされてから『映画ドラえもん』シリーズも早10年経ち、さすがにもう今のキャストの声に慣れ親しんで久しいものがある(というか、もう今の子どもたちにとっては現在の声が当り前で旧シリーズに違和感を覚える向きも出てきていることだろう)。

 私自身、実は今のキャスト陣の声はかなり気に入っていて、またアニメーション技術の進化とともにスタッフ・ワークも年々秀逸になってきている感があるだけに、特にここ数年の映画版は毎回楽しみにしているのだが、ただ昨年大ヒットした『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』のように、現在のシリーズは旧作のリメイクが多いのがやや気になるところ。

 原作者が亡くなっていることもあるかもしれないが、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズのように原作のテイストを生かしつつ、毎回オリジナルで勝負しているものもあるのだから、そろそろ旧シリーズに遠慮することなく、現在のスタッフ&キャスト陣なりの、それこそドラえもんたちが毎回繰り広げる大胆かつ楽しい冒険を繰り広げていただきたいところ。

 その意味では今回シリーズ第37作(リニューアル第12作)『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』は、単にオリジナル作品という域にとどまらず、リニューアル・シリーズとしてもっとも大胆な試みがなされているように思える意欲作に仕上がっていた。

 ストーリーは、真夏の暑さから逃れるべく、のび太たちがどこでもドアで巨大な氷山へ赴いて遊んでいたところ、そこで10万年前に凍ったと思しき腕輪を拾い、その謎を探るため南極大陸に赴くといったもの。

 実は映画版シリーズで南極を舞台にしたのは今回が初めてということだが、これがいろいろな意味でユニークな結果をもたらしている。

 まず今回は南極におけるのび太たちの冒険そのものに大きく焦点が絞られており、従来の映画版シリーズでよく出てくる「地球愛」だの「正義」だのといったメッセージ色は薄く、純粋なるSF秘境冒険活劇として屹立している。

 少しだけネタバレさせてもらうと、今回は敵がいないわけではないのだが、その存在は非常にあやふやなものでもあり、あまり正義VS悪のバトルといったテイストに傾くこともない。

 それよりも凍れる寒さの南極で、のび太たちはいかに前に進んでいくかといったところにスポットが当てられているのは、従来のシリーズにあったかどうか?

 作画もブルーを基盤とした氷河と、夜空の濃い青、そしてのび太たちのカラフルな衣裳との色のアンサンブルが素晴らしく、全体的に今回の作品、色彩設計が多大な効果を上げていることは強く強調しておきたい。

 もっとも、そのおかげで映画とシンクロしてしまうあまり、暖房が効いた映画館でないと、かなり肌寒く感じるかもしれない(簡単に言えば『八甲田山』(77年)を真冬に見ているようなものですかね)。その意味では本来夏休みに公開したほうが効果的な作品だったかも!? 実際、私などは鑑賞中に上着のジャンバーを羽織り直してしまったほどだ。

 また、私自身はさほどの藤子マニアではないのだが、今回は画面のあちこちから藤子・F・不二雄のSF短編集的なテイストが感じられ、その伝では藤子SF映画の中にドラえもんたちが登場しているとでもいった雰囲気も濃厚だ。特に物語の導入部は、原作マンガ『ドラえもん』から、「大氷山の小さな家」(てんとう虫コミックス18巻収録)を元ネタのひとつとして組み入れられている気がする。

 特にタイムパラドックスを大胆に用いたストーリー展開は、これぞSFの醍醐味といった面白さで、のび太たちが氷漬けのドラえもんを発見するくだりも、脚本の妙で後々効いてくるし、また劇中登場する新キャラの数々のデザインも、かつてどこかで見たことがあるような……といった楽しさもある。

 沢田完の音楽も今回は壮大で神話的な響きが印象的で、テレビ&映画とリニューアルされて以降、彼の音の功績ももっと語られてしかるべきだと思う。

 本作の監督・脚本(脚本原案は藤子プロ)を務めた高橋敦史はスタジオジブリ出身で(なるほど本作には97年の『もののけ姫』などジブリ作品を彷彿させる要素もある)、マッドハウスを経て(そのせいだろうか、83年の『幻魔大戦』のパロディと思しきショットも発見したのだが、気のせいか?)、09年にTVアニメ『RIDEBACK』で監督デビュー。映画は『青の祓魔師—劇場版—』(12年)があり、このときの美術へのこだわりもかなりのものがあったが、そういった資質は本作でも見事に活かされている。

 今回、シリーズとしては斬新なポスタービジュアルなどもファンの間で話題になっているようだが、単に「意識が高い」といった安直な物言いは子どもたちに対して失礼としても(別に子どもたちをターゲットにした映画が意識が低いとは全然思わないし、逆に子どもだましならぬ大人だましの映画が昔も今もいかに多いことか)、本作はそういった旧来のシリーズの枠から一歩超越して、新しい何かをやってやろうといった意気込みに満ちあふれた作品である。

 すべてにおいてうまくいっているとは思わない。前半の南極表面部での冒険シーンなど、もう少し演出にメリハリがあってもよかったのでは? とか、いくつか気になる点がないわけではないのだが、それでもシリーズ第1作『映画ドラえもん のび太の恐竜』(80年)公開の年に生まれた赤ん坊が37歳を迎える今の時代において、子どもたちだけでなく、大人もより深く楽しめる“ドラえもん”をめざすというのは、3DCG映画『STAND BY ME ドラえもん』(14年)の大ヒットも大きな後押しになっているのかもしれないし、観客層の幅を広げていくのは今後のシリーズの行方を占う意味においても有効であるようにも思う。

 正直、子どもたちが今回はどこまでついてこれるか心配してしまう部分も皆無ではないのだが、でもやはり子どもたちは難しいものでも意外と肌で感知し、そのとき頭で理解できなくても体験として記憶し、後々の成長の礎にしてくれるものとも信じたい。それこそ私たちの世代が、子どもの頃に『ウルトラセブン』などを見ていたように……。
(文・増當竜也)

おたぽる

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