バイプレイヤーの泉 第151回 日本のエンタメはリリー・フランキーに頼りすぎているのでは?

2025年3月4日(火)7時0分 マイナビニュース


コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第151回は俳優、文筆家、イラストレーター、作曲家……? とマルチすぎるタレントのリリー・フランキーさんのこと。国内には映画、ドラマ、動画配信サービスにおいて一年間で(本当に暫定ではあるが)、邦画と洋画を合わせて、約2000〜2500本の新作がリリースされていると聞く。それだけ作品数があっても視聴者の印象に残るのはごく僅かという、まさに群雄割拠のエンタメ界。そんな最中、リリーさんを頻繁に作品で見かけている。
○この冬、リリーさん、大流行中
ここ一年足らずで私が吸収したリリーさんの姿を反芻する。
昨年は『地面師たち』(Netflix)で刑事・下村辰夫を演じて、衝撃的な最後を遂げていた。ひょっとしたら未見の人もいるかもしれないので、詳細は伏せるが「1、2、3!」のカウントが恐ろしいものだとこの作品で知ったことだけ記しておく。
そして2025年の年初。2時間スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)では、いかにもモテそうな文豪役を演じて、冬クールの連続ドラマへ突入。これが齢61歳とは思えないほどの働きバチぶりを見せている。『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)では、主人公・山下心麦(広瀬すず)の父親・春生役。第1話で亡くなってしまうけれど、心麦が父の死を追いかけることが物語の主軸なので、重要人物として出演中である。ちなみに春生は元警察官という設定。つい『地面師たち』を思い出して「リリーさん、また死んでる……」とつぶやいた。
2020年から続く深夜ドラマ『ペンション・恋は桃色』(フジテレビ系)では、主人公のシロウ役。ペンションの経営者ではあるけれど、ほぼ毎日遊んで、恋してばかりいる中年男。ご本人のイメージに限りなく近い。そして毎朝『おむすび』(NHK総合)を見ていると流れてくるナレーション。朝から晩までリリーさん漬けだ。
最近、映画『ファーストキス 1ST KISS』を鑑賞した。ここにも教授役で登場する姿を見て(お、リリーさん……)と心の中で独り言。映画館なのでね。演技も独特だと思う。とにかく演じる役柄に良い意味で節操がない。朝ドラ『なつぞら』(NHK総合・2019年)で演じた大型書店の社長……という大物役もあれば、映画『万引き家族』で演じた股引きご愛用のおやっさん役も似合う。ちなみに雑誌やテレビでのありとあらゆるコーディネートも、見事に着こなしている。彼に似合わない洋服なんてあるんだろうか。
そして今年4月に全国でも公開される映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』に興味がわき、公式ホームページを見ていると、ナレーションにまた彼の名前があった。とにかく私の……いや、私たちの進む先々に彼の姿があり、声が聞こえてくる。広告業界では、人に購買行動を起こさせるまでに3回同じものを見せる、というスリーヒッツ論がある。3回見ることで「流行っている」と脳が錯覚を起こすとかなんとか。この理論に沿っていくとするなら、リリーさんは大流行中。日本のエンタメ、彼に頼りすぎだ。
○ひょっとして『おでんくん』から飛び出てきた?
余談だけれど、今から約20年前、私が勤務していた出版社にもリリーさんがよく出入りをしていたそうだ。ちょうど私の入社のタイミングとズレているので、当時のことは先輩たちからの話でしか知らない。でもまだ今のように売れっ子ではない時代から、後輩の面倒をよく見ていたと聞く。ああ、やっぱり上に行く人とは、才能だけではなく、人徳も備えているのだなあとしみじみ。ちょうど、仲良しの編集者と「どんなに才能があっても性格が悪い人に仕事はお願いする時代なんて来ないし、あったとしてもブームで終わっちゃうよね」と話していたところに彼のことを思い出して、筆を取った。
あれよあれよという間に彼は大スターになってしまった。でも約20年前に聞いている飄々とした姿や、いつでもどこでも遅刻しているというエピソードはパブリックイメージと変わらない。改めて不思議な人だと思うし、本当に実在しているのかと心配になる。ひょっとしたら彼は過去に手がけたアニメ『おでんくん』のキャラクターのひとりで、仕事のたびに絵本から出てきているのかと想像してみる。そうでもないとリリーさんの類いまれな人物像は成立しないような気がする。

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