『カルテット』 独特な世界観生み出す土井裕泰さんの演出術

3月4日(土)7時0分 NEWSポストセブン

『カルテット』(公式HPより)の世界観はどう生み出している?

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 ドラマ通の間で絶賛されている連続ドラマ『カルテット』(TBS系)。その演出を手掛けるのが、土井裕泰さん(52才)だ。TBSに所属しながら数々のヒットドラマ、映画を生み出してきた。その演出術が、『カルテット』の高評価を支えているのは間違いない。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが、土井演出の秘密に迫る。


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 脚本を手掛ける坂元裕二さんや、松たか子さん、満島ひかりさん、高橋一生さん、松田龍平さんら主要キャストへの称賛が目立っていますが、もう1人の重要人物である土井裕泰さんのことはあまり語られていません。


『カルテット』のチーフプロデュース・演出を手がける土井さんは、まさに司令塔。会話劇にサスペンスを絡めた坂元脚本を前面に出しつつ、一方でキャストの技量を試すような抑制を効かせた演出で、美しくも不穏な世界観を作り出しています。


 そもそも土井さんは1990年代に『青い鳥』で野島尚さん、『魔女の条件』で遊川和彦さん、『美しい人』で野島伸司さん、2000年代に『夢のカリフォルニア』で岡田惠和さん、『GOOD LUCK!!』で井上由美子さん、『マンハッタンラブストーリー』で宮藤官九郎さんなど日本トップの脚本家とタッグを組んできたTBSのエース演出家。映画監督としても、『いま、会いにゆきます』『ハナミズキ』『映画 ビリギャル』などのヒット作を次々に手がけてきました。


 作品のテーマを問わない仕事ぶりは、ラブ、サスペンス、コメディ、ヒューマンの要素が混在した『カルテット』のチーフプロデュース・演出にうってつけの存在です。


◆ドラマの枠を超えた親近感


 土井演出の特徴は、描き方の多彩さと親近感。ここまで『カルテット』では、同じ演出の金子文紀さん、坪井敏雄さんとともに、2話で「気が合う男女でも恋に落ちるとは限らない」司(松田龍平)と同僚・結衣(菊池亜希子)の友人関係、3話で「年月を経ても修復できない」すずめ(満島ひかり)と欧太郎(高橋源一郎)の親子関係、4話で「子どもがいるのにやり直せない」諭高(高橋一生)と茶馬子(高橋メアリージュン)の元夫婦関係、6話で「それぞれ家族と恋を求めてすれ違う」真紀(松たか子)と幹生(宮藤官九郎)の夫婦関係を描き分けてきました。


 カメラワークやカット割りで微妙な距離感を表現し、セリフや動作に緩急をつけて視聴者をグッと引き込むなど、随所に繊細な仕事ぶりが見られます。だから登場人物の一人一人に血が通い、視聴者は「単なるドラマの1シーンを超えて、親しみのある人物を見ている」感覚を覚えるのでしょう。


 また、それらを1話約45分(CM除く)のパッケージとして、きっちりまとめられるのも土井さんの強み。司と結衣の「一夜の過ち」も、すずめ親子の長い年月も、同じ1話として並列させながらまったく違和感がないのは、さすがとしか言えません。


◆リスクを恐れないディテールのこだわり


 もともと土井さんが手がける作品は、『青い鳥』『GOOD RUCK!!』などで見せた「スケールの大きな映像美」という特徴がありました。『カルテット』でも、美しい楽器の音色とともに軽井沢の美しい自然が見られますが、近年の土井演出はそれだけではありません。


 ここ数年の作品で目立つのは、ディテールのこだわり。昨秋放送された『逃げるは恥だが役に立つ』で土井さんが手がけた3・4話は、『大改造!!劇的ビフォーアフター』『私をスキーに連れてって』『アルプスの少女ハイジ』『サザエさん』『2355』『新世紀エヴァンゲリオン』などのパロディを連発。ナレーション、テロップ、音楽、役名の細部まで作り込む徹底ぶりは他2人の演出を上回り、みくり(新垣結衣)のチアガール姿も話題になりました。パロディ路線を強く印象づけ、右肩上がりの人気を生み出したきっかけと言っていいでしょう。


 また、『重版出来!』では、劇中の漫画をゆうきまさみさんや藤子不二雄Aさんなどの人気漫画家に描いてもらった上でフル活用していましたし、『コウノドリ』では、生まれたばかりの小さな赤ちゃんや低体重児をリアルに映すなど、リスクを恐れずにディテールを追求していました。


 パロディもシリアスも手間をかけて全力投球。「このシーンはこれくらいでいいかな」と視聴者を侮ることなく作り込むため、土井さんの作品は「1話を2回見る」「重要なシーンは巻き戻して確認する」熱心なファンが少なくありません。結果として土井さんの作品は、ドラマフリークをうらなせるだけでなく、ライト層によるSNSの書き込みも誘発しているのです。


◆俳優や視聴者への変わらぬ信頼


 そしてもう1つ忘れてはいけないのは、キャストへの演技指導。新垣結衣さんが『逃げ恥』公式サイトで、「(土井さんのことは)100%信頼しています」「コメディでお芝居をつけてもらうのが初めてで楽しかったですし、出来上がったものを見て、すごく突き抜けていて感動しました」と話していました。


 撮影現場で他の俳優に土井さんの印象を聞いたときも、「指示が丁寧で具体的な話ができるからありがたい」「相談に乗ってもらえる雰囲気がある」と言っていましたし、かつて土井さんのワークショップに参加したことのある駆け出しの俳優も同様のことを言っていたことから、コミュニケーションに長けた人物像が浮かび上がります。


 2010年代に入ってから「視聴者が分かりやすさとテンポの速さを求める」などドラマを取り巻く環境が変わりましたが、「登場人物の愛すべき人柄を引き出す」という土井演出の軸はブレません。キャストを信頼してシンプルな演出に留めるシーンも多く、その姿勢が『コウノドリ』の鴻鳥サクラ(綾野剛)、『重版出来!』の黒沢心(黒木華)、『カルテット』の4人のような愛らしく人間臭いキャラクターにつながっているのではないでしょうか。


 土井さんが信頼しているのは俳優だけでなく、視聴者も同じ。プロデューサーも兼務するほどの意欲作『カルテット』の時代に逆行する難解な作風を見る限り、「面白いものを作れば、“ながら見”ではなく、集中して見てもらえる」という視聴者への信頼に他ならないのです。


◆残り3話に潜む「嘘」と「まさか」


 片想いとサスペンスが動き出す終盤は、これまで以上に波乱含み。「いまだ明かされていない『嘘』や『まさか』がある」というだけに、土井さんたちの演出がさらに冴え渡るのは間違いないでしょう。


 坂元さんのつむぐセリフに注目している人が多いのは当然ですが、土井さんたち演出陣が「文字で書かれたセリフをどう映像化しているのか」も、間違いなく『カルテット』の魅力となっています。3月21日の最終回まで残り3話。演出に注目してみてはいかがでしょうか。


【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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