斎藤明日斗が語る藤井&永瀬将棋 第74期ALSOK杯王将戦七番勝負第2、3局

2025年3月7日(金)18時0分 マイナビニュース


現在進行中の第74期ALSOK杯王将戦七番勝負。挑戦者の永瀬拓矢九段が一勝を返し、決着は第5局以降に持ち越しとなりました。
将棋世界本誌では、永瀬九段とも親交がある斎藤明日斗六段とともに、七番勝負第2局、第3局の将棋を振り返っています。冒頭から炸裂している、明日斗流の軽妙なトークをお楽しみください。
本稿では、2025年3月3日発売の『将棋世界2025年4月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)に掲載された、第74期ALSOK杯王将戦七番勝負第2、第3局解説記事、「紙一重の決着」より、一部を抜粋してお送りします。
○永瀬九段はお兄さん的な存在
(以下抜粋)
皆さん、こんにちは。斎藤明日斗です。因縁の顔合わせとなって大注目の王将戦七番勝負ですが、私は挑戦者の永瀬九段に普段から格別お世話になっています。加えて藤井聡太王将とは年が近い(?)ということで、第2局と3局を解説する命を受けました。よろしくお願いします。
永瀬九段には、私は四段昇段直後の7年前から定期的に、VS(練習将棋)を中心に研究会でも教わっています。わざわざ丁寧なお誘いのメールをくださり、恐れ多くもこの上ない喜びを感じました。
以来、ずっと変わらず抱いている永瀬九段のイメージは「面倒見のいい優しい先輩」です。あえてなれなれしい表現を使うなら、私にとってはお兄さん的な存在と言えるでしょうか。プロになりたての頃から些細なアドバイスに始まり、棋士としてあるべき姿勢、それに社会人としての心得や礼儀作法まで。いつも正面から向き合い、寄り添ってくださいます。
最近、印象的だったのは、研究会で昼ごはんをご馳走になったときのことです。私はパスタのトマトソースを、着ていたシャツにうっかりこぼしてしまいました。思わず動揺し、ティッシュで応急処置をしようとして慌てたんですが、永瀬九段は平然とバッグの中から「シミとりレスキュー」を取り出して、冷静な所作でピンチを救ってくださったんです。行き届
いた準備にいまさらのように驚かされると同時に、その気遣いに感謝しました。
○藤井王将の強さと戦法の変遷
現在の永瀬将棋は、序盤から積極的にリードを奪いにいく傾向が顕著だと思います。終盤になって攻めか受けか、というような個性が出る局面では、やはり手堅い指し手を好まれることが多いように感じますけれど。私もどちらかと言えば受け将棋だと思うんですが、よくなると手堅いだけで、基本はチャラくて軽快な居飛車党にすぎません。そこへいくと永瀬九段は序盤から決して気を抜かない、どっしりしていて弱点のない棋風ですね。
藤井王将は私より4歳年下ですが、プロデビューは私が1年後輩です。その圧倒的な強さは、私ごときがあれこれ語る余地はありません。公式戦ではいままで3度の対戦がありますが、3局ともボロボロにされました。あまりに不甲斐なくて自分が情けなくなるくらい、レベルの差を見せつけられました。藤井さんの先手で角換わり1局と、相掛かりが先後1局ずつなんですが、藤井さんは全く力を出していません。私が序盤で離されてそのまんまという将棋ばかりで、実はまだ中終盤の力関係が不明なんです(苦笑)。直近で敗れた1年半前の1局はテレビ棋戦だったんですが、私が定跡を間違えてすぐに終わってしまいました。感想戦では藤井さんが話を引き延ばし、間が持つように気を遣ってくれて、番組の構成にも配慮する視野の広さに感心しました。
藤井王将は少し前だと先手番で相掛かりを志向することもよくありましたが、最近はブレずに角換わり腰掛け銀に特化しています。この戦法を極めようとする強い思いがあるのではないでしょうか。後手番だと右玉で対抗する指し方に可能性を求め、採用率が上がってきていますね。藤井王将に影響を受ける形で将棋界の風潮的にも右玉が増えていますが、今後も続いていくのか興味深いところです。
今シリーズの開幕局では、勝負にカラくなった一面も感じました。以前は相手の研究を全て受けて立つ雰囲気でしたけど、序盤で主流の戦い方を選ばす、変化に出ていました。対永瀬戦だから特別なのか、いろいろな指し方に意欲的に取り組もうという気持ちの表れなのか、本当のところはよくわからないのですが。個人的には両対局者が後手番でどんな作戦を採るのかに、特に関心がありました。
(ALSOK杯第74期王将戦七番勝負【藤井聡太王将vs 永瀬拓矢九段】第2、3局 「紙一重の決着」 解説/斎藤明日斗六段 記/押沢玲)

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