『Domani』炎上 「ママっぽくないママ=かっこいい」という価値観の罪深さ

3月8日(金)11時0分 文春オンライン

 何やら『Domani』が燃えているそうです。『Domani』、何したの? まさか「ニッポンの夏、オンナの夏——いつも心に『寅さん』を!」という謎キャッチコピーで全読者を震え上がらせた『男はつらいよ』寅さんカジュアル、通称寅カジ特集をまたやろうとか言っちゃった?? 寅カジ、意味不明が過ぎてちょっと異次元のスベり方してたじゃん思い出して!!


 「ニッポンのワーママはかっこいい!」がテーマ、既婚子持ちの働く女性を対象にした隔月刊女性誌『Domani』(小学館)が燃えていると聞きつけ思わず身構えてしまいましたが、どうやら今回の件は寅カジ、関係なかったようです。良かった……ノーモア寅カジ……。と、ホッとしている場合でもないようで。期間限定で表参道駅をジャックした『Domani』の広告、これに対してツイッターを中心に批判の声が上がっています。



東京メトロ・表参道駅に期間限定で掲出された『Domani』の広告 ©文藝春秋


「働く女は、結局中身、オスである。」に批判が集中


 こちら表参道駅の壁一面を利用して、こんなフレーズが並んでおります。


「今さらモテても迷惑なだけ。」「忙しくても、ママ感出してかない!」「中途半端なイクメン気どりなら、むしろワンオペのほうが100倍楽。」「”ママに見えない”が最高のほめ言葉♡」「ちょっと不良なママでごめんね♡」「助手席じゃなくて運転席の女でいたい。」「えっ!?お子さんいらっしゃるんですか!?」「”○○ちゃんのママ”、本日、休業中。」「(正直、ママ友同士のつきあいが苦手…。)」「働く女は、結局中身、オスである。」。


 特にこの中の「働く女は、結局中身、オスである。」に「なぜオスにならなきゃいけないの?」と批判が集中。しかし広告は予定通り3月3日まで駅に掲出されておりました。


西武そごう、LOFTの炎上とどう違う?


 さて、このところ立て続けに発生している、女性蔑視と見なされた広告の炎上。まず思い出されるのは、西武そごうの「わたしは、私。」というアレ。



 「女は生きづらい」「男も女も関係ない! わたしの時代だ!」という、ふんわりしてて分かりづらくはあるものの「性差別」とまではいかないテキストに、例のパイ投げ写真が合わさると、うわぁぁぁこれはやばいやつと一発アウトな作品に。そしてロフトのバレンタイン広告。顔ではニコニコ、裏では髪引っ張ったり背中をつねったり、おしゃれにポップに「女ってドロドロしてるよね〜」を表現した結果、「なぜわざわざターゲットを愚弄するのか」と非難が殺到しました。当たり前田の智徳さんですよ。こしあんよりつぶあんが好き。



 しかしこれら2つの炎上が護摩行ならば、正直Domaniはひとりキャンプの焚き火くらいの燃え具合でした。ツイッターの反応を見ても、分かりやすいのは「オス」という言葉くらいなので、「なーんかイヤなんだけど、なにがイヤなのかわからない」とモヤモヤしてる方が多い印象。私個人的には、西武そごう&ロフトの炎上より、こちらの方が強い警戒レーダー働いたんですよ。小骨が喉に引っかかるような、スッキリしない後味とともに。



「ママっぽいママ」と「ママっぽくないママ」を分断


 確かに西武そごうとロフトは、言葉で説明不要なくらいビジュアルが衝撃的なので、炎上のスピードも延焼の範囲もやばかった。しかしです。西武そごうは一応、「女とは?」という問いに向き合おうとしていたとは思うのですよ。間違ってますけど。ロフトも使い古された手法ながら「女の友情」を喚起しようとはしていた。間違ってますけど。



 その観点で言いますと、Domaniの広告は上2つとは全く異なるものなのです。まず「かっこいい=男っぽい」という確固たる思想が根底にある。答えがそこにもう存在してしまっているんです。それは裏返って「かっこよくない=ママっぽいもの」となり、徹底的にそれを排除しようとする。「ママっぽいものはダメ」と決めつけ、その基準で女たちを分断しにかかるのです。西武そごうとロフトが雑ながらも「女同士の連帯」を促そうとしていたのに対し、Domaniは「ママっぽいママ」と「ママっぽくないママ」という階層で女たちを分断して、その最上級に「オス」を置いたってわけ。この巧みな「分断」が、西武そごうやロフトの時のように女性が一枚岩で批判することを上手に防いでいるのではないでしょうか。


 さらにもう一点。先の2つの炎上が強い「第三者からの押し付け」をイメージさせた一方、Domaniは絶妙に「当事者性」を醸し出しているところ。フレーズに「読者の声」を感じさせれば、「ああ、そういう人もいるよね」しか言えなくなりますもん。青汁の「個人の感想です」と一緒。その辺りは見事ですよ。まさに女性誌文化の為せる技。「(正直、ママ友同士のつきあいが苦手…。)」とかね、ここだけ( )にして「大きな声では言えないですけど」感出してますけど、実際表参道にでっかく印刷されてますから!!




「ママっぽくないママ=かっこいい」という価値観が生み出す優越感、階層が上がれば上がるほど、この優越感は強いアイデンティティとなるのでしょう。なんて恐ろしい、この女性誌アムウェイシステム。これからの社会で本当に怖いのは、わかりやすく暴力的な「悪」よりも、気づかないうちに自意識をくすぐり、そして操ろうとする「催眠」なのかもしれないです。


髪バサバサやりながら「女ってめんど〜〜」


 しかし、これが「広告」として成功だったのかと言われると、そこには大きな疑問が残ります。騙されたと思って試していただきたいんですけど、若干鼻を詰まらせ、かつだるそうにしながら「不良なママでごっめ〜ん」って言ってみてください。いいですね。では次に「今さらモテてもね〜迷惑なだけ」。そう、察しのいい読者の方ならもうお分かりでしょう。これね、YOUなんですよ。YOU。90年代が生んだサバサバマシーン。YOUが言いそうなことあるあるなんです。たとえ女性をうまいこと分断して批判を逃れたとしても、待ってるのがYOU。2019年にセルフカットの髪バサバサやりながら「女ってめんど〜〜」とか言うやつです。ブラザーKORNがクラブカルチャー語っちゃうのと同じ効果効能。みんな逃げ出すやつです。悲しいくらいのズレがそこにある。そしてズレてるというのは、女性誌にとって、性差別的と批判されるより、罪深いことと言えるでしょう。アーメン。


 ここまで言っといてなんなんですけど、私Domani、買いましたよ。ええ買いましたとも。だってかっこいいワーママ、なれるもんならなりたいですもん。雑誌最高世代なので「このブレスレット買ったら札束のバスタブでウェーイ出来る」って言われたら信じちゃうんです。しょうがないんです。しかし、そんな不埒な希望を胸にページを開いた私を待っていたのは「かっこいいママは白シャツ!」「そして白デニム!」「全身白コーデ!」という、まさかのノンスタイル石田化企画でした……。「かっこいいママ=ノンスタ石田」これだけを胸に刻み、余生を過ごそうと思います。



(西澤 千央)

文春オンライン

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