堂本剛、“アイドル”のイメージに葛藤した過去と音楽を届け続ける意味「世の中には僕と同じように傷つくしかない人が沢山いる」
2025年3月9日(日)11時0分 ABEMA TIMES

俳優でシンガーソングライターの.ENDRECHERI./堂本剛が、成宮寛貴の俳優復帰作となるABEMAオリジナルドラマ『死ぬほど愛して』に自身の楽曲『super special love』を提供した。自身が出演していない作品に堂本がミュージシャンとして楽曲参加するのは稀な事なのだという。しかし本人は、10数年前から望んでいた理想的なコミットスタイルだと起用を喜んでいる。その喜びの裏側には、クリエイターとしての長きにわたる葛藤があった。
【映像】主題歌は.ENDRECHERI./堂本剛!成宮寛貴8年ぶりの俳優復帰作『死ぬほど愛して』
「本当にあなたが書いた曲なんですか?」“堂本剛=アイドル”というフィルターに苦しんだ過去

──楽曲起用の打診があった際はどのように感じられましたか?
僕が作った楽曲が今回の作品にきちんと寄り添えるのであれば…と思いながら、プロデューサーさんと色々とディスカッションさせていただきました。自分が俳優としてコミットしていない作品に楽曲を提供するのはおそらく初めての事ですが、僕自身も自分のお芝居を抜きにして楽曲だけが映像作品とコラボレーションする状況を10数年前から望んでいました。昨年から自分を取り巻く環境が変わる中でタイミングよくいい形で今回のお話を頂くことが出来て、自分としても念願叶ったコラボレーションになりました。
──楽曲だけのコラボを長らく望んでいた、という理由は?
僕はこれまで自分が作る音楽を通して「堂本剛」という人間に対する作り上げられてきたイメージを痛感してきました。特に僕が好きな音楽を自分で作り始めた当初は「本当にあなたが書いた曲なんですか?」と疑いを持って質問されることは当たり前にありました。そのような事を言う方の中には堂本剛=アイドルというフィルターがあるわけで…。僕が作ったものを「純粋に音楽として聴く」という所まで辿り着いてもらう現実はなかなか難しかったです。
──作り手を前に疑うなんて、無礼な話ですね!
自分の作った曲を発表するたびに「アイドルっぽくない」「アイドルのくせに」と長らく言われてきました。でもそれは仕方のない事だったんだと思います(笑)。今は時代が変わって音楽のすそ野も広がっていますが、僕の10代頃のアイドル像といまのアイドル像はもはや全く違うようにも思います。核にあるものは同じだと思いますが、良い意味で多様性が生まれているなと感じています。僕はファンクミュージックが好きで、生きる気持ちを180度変えてくれたジャンルなので、リスペクトを込めて作っていたわけです。あえて「アイドルっぽくないことをしよう」と狙っていたわけではないんです。それは演技の仕事も同じで、その世界でお仕事をされている方に失礼のないように全身全霊で打ち込んでいました。やるからにはとにかく一生懸命に挑みたいなと。でもその結果生まれた楽曲が「アイドルっぽくないよね」の一言で片づけられてしまう。そこの評価から脱するまでの時間は長かったです。
──それだけアイドルとしての堂本剛さんのインパクトが大きかった、という言い方もできるでしょうね…。
楽曲提供だけの話が「せっかくだから出演して欲しい」と言われて、当初とは違う方向に話が進んでいくこともありました。もちろんそのように提案していただくことは嬉しい事で、悪い事では決してありません。でも「シンプルに僕の作ったゴハンだけを食べ欲しかったなあ」とちょっぴり感じたりして。いちミュージシャンとして、作家として、僕のパブリックイメージやビジュアルを抜きにして「音楽」だけが吟味される機会を長らく求めていたのも事実です。だから今回のお話は本当に嬉しかったです。
「世の中には僕と同じように傷つくしかない人が沢山いる」堂本剛が音楽を届け続ける意味

──時に「アイドル」という肩書が足かせになったことも?
うーん、それはどうだろう。「アイドル」という言葉に囚われる人に対して「寂しいなあ」と思うことは沢山ありましたが、アイドルが嫌だとか悪いとかは一度も思いません。みんな自分の人生や時間を犠牲にしながら没頭して一生懸命に闘っていますから。「アイドル」という言葉に翻弄される人と関わった時に、「上手く伝わらないなあ」「違う方向に話が進むなあ」と思うことが多かった、という事です。でもそこに怒りとかいらだちとかはありません。「仕方がない」という言葉が適当かわからないけれど、「こういうものだからなあ」という諦観なのか…。その繰り返しで生きてきました。
──怒りや悔しさを原動力にはしないタイプですか?
「悔しさをバネに!」とかですか?いやいや、僕はそういったことが全くないです、一生ないです(笑)。理解されないことに対してはもちろん傷つきますが、そこからなにがしかの根性が芽生えるわけでもなく、ただただ傷つくだけ(笑)。これは小さい頃からそうで、人から何か言われて「うわっ…」と思うけれど、そこから「見返してやろう!」とか心に火がつくタイプではないです。ただただ飲み込んでただただ傷ついて終わる。だから僕は一度心を壊したのかもしれません。でも今ではそれも良かったことだと思っています。世の中には僕と同じように傷つくしかない人が沢山いるし、そのような人たちのために音楽が出来たらいいな、届けばいいなと気持ちを切り替える事が出来たからです。僕と同じような気持ちを抱える人たちに寄り添うこと。そこが自分の一番生きやすい場所だと気づくことが出来たわけですから。
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii
<衣装クレジット>
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