武田鉄矢さんが『徹子の部屋』に登場。西田さんとの思い出を語る「金八先生を定年した後は生徒に。64歳で始めた合気道が教えてくれた〈吐く〉極意」武田鉄矢×ゴルゴ松本
2025年3月10日(月)11時0分 婦人公論.jp
64歳で始めた合気道を通じ、武田さんが気づいたこととは(写真:本社写真部)
2025年3月10日の『徹子の部屋』に、武田鉄矢さんが登場。公私にわたって長年交流があった故・西田敏行さんの思い出を語ります。今回は、武田さんがゴルゴ松本さんと日常を生き抜くヒントについて語り合った、2021年12月8日の記事を再配信します。
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10年にわたり、少年院で「命」にまつわる講演を行ってきたお笑いコンビTIMのゴルゴ松本さんが、俳優でタレントの武田鉄矢さんと対談。言葉にこだわり、人の心に寄り添ってきた二人が、変わってしまった日常を生き抜くヒントについて語り合います。今回は、武田さんが学んでいるという合気道について。合気道を通じ、呼吸について気づきがあったという武田さんですが、実は人生すべてに通ずる「極意」を見出したいと考えているそうで——。
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先生を定年して生徒に戻ろうと
ゴルゴ 武田さんは合気道をやられているんですよね。
武田 はい。「金八先生」シリーズが定年の齢で終了してから、「もう一回生徒に戻るのはどうだろう」と思っていました。それで64歳から始めました。
ゴルゴ 64歳からですか! 習い事はいろいろある中で、なぜ合気道を選ばれたのですか?
武田 きっかけは内田樹さんの本でした。内田さんは哲学者で、合気道も七段の腕前。彼の著作の中に「敵が現れた瞬間いかに愛するか。それが合気道である」と書かれていました。この言葉には不思議と引きつけられるものがあったのですが、意味はまったく理解できなかったんです。
「敵を愛する」なんて、そんな矛盾したこと、あるはずがないですよね。この言葉の意味を理解するために、飛び込んでみようと思いました。
合気の「合」は「愛」でもある
ゴルゴ 僕も合気道の本は何冊か読んだことがあって、合気の「合」は、「愛」でもある、と書いてあったのを思い出しました。
経験者ではないのでうまく理解できていませんが、愛を持って笑顔で臨むと、本当に技がかかりやすいとも書いてありました。たしか合気道の開祖と呼ばれる、植芝盛平さんについて書かれた本であったと思います。
『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(著:ゴルゴ松本/中公新書ラクレ)
武田 私が通っているところの館長は、「植芝盛平の最後の弟子」って言われている方なんです。もうお歳は80を過ぎていて。夕方に道場で稽古を受けて、館長がする武道の話を正座して聴く。
私も70歳を過ぎたけど、「武田君」と呼ばれて、「はい!」って元気よく返事をする。やっぱり学ぶことは良いなと改めて実感します。
ぶつからないことこそが合気道の真髄
ゴルゴ なるほど、素敵ですね! そこでは館長はどういうお話をされるんですか?
武田 不思議なお話で、決して武勇伝ではないんですよ。私がとても好きなのは、館長が道場をかまえたばかりの頃の日常のお話。
勤め人の方たちに向けて早朝6時半から稽古を行っているのですが、館長のご自宅から道場までが遠いので、ある日遅刻しそうになり、赤信号にもかかわらず走って横断しようとしたそうです。そうしたら孫の手を引いた温厚そうな老紳士に、大きな声で「赤ですよ!」と注意された。
館長はすぐに横断歩道の前に戻り、深々と頭を下げて何度も謝った。ご老人は「いやいや、そこまで謝ることではない。私こそ孫の前だからと格好つけて、大きな声を出してしまった」と、早朝の街でふたりして頭の下げあいになった。
このとき、館長は少し合気道を理解できたのだそうです。合気道の精神は「ぶつからないこと」。「敵をつくらないこと」。紛争の場面でも力と力でぶつからず、かわし合う。
このあと、ご老人は朝ご飯を食べながら、「気持ちの良い青年だったな」と私のことを思い出す。私は道場へ向かう電車の中で「孫思いの優しい方だったな」とご老人のことを思い出す。お互いとてもよい一日のスタートを切った。これが合気道なんだ、と。
ゴルゴ すごくいいお話ですね! ぶつからないことこそが真髄。もしかすると、先ほどの内田さんの「敵を愛する」というお話や、植芝さんの合気道の「合」は「愛」でもある、という言葉は、ここにつながっているのかもしれません。
息を吸うか、それとも吐くか
武田 そうですね。だから合気道は殺気を出さない武道なんです。一番基本的な動作でも、肩に力が入っているとすぐに指摘されます。力が入っていると、相手に動きがばれる。息を吸って力が入るのがわかると、相手に動きが読まれる。
合気道は相手が息を吸った瞬間に、自分は吐くのが大切で、吐くと同時に無意識に動けるように訓練をします。合気道を始めて以来、演技をするときもいままで息を吸っていたところで、吐くようになったんですよ。
そうすると面白いもので、思うように身体が動くようになりました。金八先生はずっと息を吸いながらやっていましたからね。(笑)
ゴルゴ 息を吸って力をいれないと、不良少年を叱れませんよね。
今の「息を吐く」というのは、僕にとっても大きなヒントになりました。きっとゴルフにも通用しますよね。テークバックの時、息を吸うべきか吐くべきかいろいろ試しているんです。
黄金の言葉を一つでも見つけたい
武田 そう! ゴルフにも通じる。テークバックの時は、まず吸う。それで吐きながら振る。そうすると力むことができなくなるから、しっかりミートできるようになるんですよ。
ゴルゴ 武道に限らず力が抜けている人の方が、すべてのことでプロフェッショナルになっていきますよね。
武田 ゴルゴさん、私はまさにそれを追い求めているんですよ。人生には、すべてのことに通じる「極意」がある気がするんです。その極意を一つでもいいから掴みたい。ここで言う極意というものは、全てのことに通用しないとダメなんです。
合気道は強くなって、ゴルフは上達し、飯はうまくて、よく眠れる。人間関係もうまくいく。そんな黄金の言葉を、生きているうちに一つでも見つけたい。内田樹さんの文章からは、極意の匂いがするんです。だから合気道に惹かれたのかもしれませんね。
ゴルゴ 僕も同じように思います。漢字もそうですが、昔の人が何を考えていたか、ということを通して、それが分からないか研究しています。今のお話を通して、ヒントをもらえた気がします。これから面白い50代が過ごせそうです!
※本稿は、『「命」の相談室-僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。