福島避難住民 ふるさとの人間関係や世代などの分断が心配

3月10日(木)7時0分 NEWSポストセブン

 東日本大震災からもうすぐ5年が経つ。復興がすすむなか、元に戻る見込みがない地域がある。福島第一原子力発電所事故による影響を受けた地域だ。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、震災直後から現地を訪れ、避難民も含め検診や保養などの支援活動を続けている。家へ帰れる目処が立たぬまま非難し続ける浪江町の住民たちについて、鎌田氏が報告する。


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 福島第一原発から20キロ圏内を一部にもつ浪江町。その沿岸部である請戸漁港を初めて訪れたのは、震災後約1か月の2011年4月。復旧作業に当たる人たちの健康状態を診るために、許可を得て入った。当時は津波で流された車や船が、道や田畑に打ち上げられ、壊れた家屋の建材や生活用品がガレキの山を築いていた。


 昨年11月、再び訪ねた請戸海岸は光景が様変わりしていた。防波堤や埠頭の工事が急がれ、一日も早い漁港の再開を目指していた。もちろん、ガレキの山は跡形もない。復興の日は近いのだろうか?


 浪江町は、震災前約2万1000人が暮らしていたが、福島第一原発事故のため町民は全国に散り散りに避難したまま今日に至っている。放射線被曝は深刻で、町の面積の約8割を「帰宅困難区域」が占める。年間積算線量50ミリシーベルトを超え、5年を経過しても年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域だ。


 残りの2割も、年間積算線量が20〜50ミリシーベルトの「居住制限区域」と、年間積算量が20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」である。


 浪江町から北に約10キロ、南相馬市の小高区では、浪江町よりも約1年早い今年4月、住民の帰還を目指している。


 小高区は震災後、食料品店などがなかったが、昨年9月、日用品や弁当などの食料品をそろえた商店が開業した。小高区の出張所もオープンし、そこにはカフェもできた。南相馬市立小高病院では日中のみだが、外来が開かれるようになった。


 除染作業も着実に進んでいるようだ。勉強不足の丸川環境大臣がお騒がせ発言をして撤回した、年間1ミリシーベルトを超さないために、生活圏では毎時0.23マイクロシーベルト以下まで除染するのを目標にしてきた。毎時2マイクロシーベルトという汚染があった地域でも、除染後は毎時0.1マイクロシーベルトまで下がった家も多いと聞く。


 ぼくは、小高区からの避難者が多く住む鹿島区にある絆診療所を何度も訪ねてきた。仮設生活での健康管理について講演したり、栄養士と協力し、仮設住宅の狭い台所でも簡単につくれて健康にいい料理を紹介したりしてきた。


 震災前、小高区に家があった70代のBさん夫妻は、避難指示が解除になったら、「小高区の家に帰りたい」と話す。仮設住宅での不自由な暮らしよりも、住み慣れた広い家のほうがいい、というのが理由だ。ただし、気がかりもある。以前同居していた子どもや孫は、一緒に帰るかどうか、まだ決まっていない。


 小高区では今年2学期から小中学校が再開する予定(延期の可能性あり)だが、20キロ圏内の小中学校に子どもを通わせていいのか、漠然と心配する人も少なくない。また、人口が少なくなり、治安の面で不安をもつ人もいる。


 Bさんは「震災前は、子どもや孫と暮らすのが当たり前だと思ってきました。でも、5年の間に子どもや孫に新しい生活のパターンができたことも理解できます。不安ですが、別々に暮らすことになっても、子どもたちの選択を尊重したいと思います」と、寂しそうに話した。


 現在、福島県で県内外に避難している人は約10万人。見えない放射線のために復興を複雑にしている。5年経ち、ようやく復興へと歩み出せたことは喜ばしいことだが、その陰で、ある種の「分断」が生まれているように思えてならない。


 長年培ってきたふるさとの人間関係から分断されたり、帰りたい高齢世代と、帰れない若者世代が分断されたりしないようにしたい。


 5年前は、みな同じ被災者だったのに、隣の家は賠償金がもらえて、自分の家はもらえないという格差もある。自力で家を再建し、仕事を再開できる人と、そうでない人もいる。こうした格差が深刻な分断を生まないかといったことも心配だ。


 町の復興は、人が戻ればいいというものではない。医療や生活、仕事、教育を支えるインフラと同じように、人と人との関係がなければ健康で文化的に暮らすことは難しい。お互いを共感的に認め合いながら、人と人との関係をどう築いていくか。古くて新しい復興の課題である。


●かまた・みのる:1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受け止める練習』。


※週刊ポスト2016年3月18日号

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