『声優道 死ぬまで「声」で食う極意』刊行記念インタビュー! ベテラン声優・岩田光央が語る声優業界の現実

3月11日(土)20時0分 おたぽる

岩田光央

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 アイドル的な活躍をする声優たちの増加により、増え続ける声優志望者……。近年の声優ブームにより、取り巻く環境が大きく変わった声優業界。はたして、現在の同業界をベテラン声優はどう考えているのか? 近著『声優道 死ぬまで「声」で食う極意』(中央公論新社。以下、『声優道』)で、仕事の実情や声で生きていくための秘訣を綴った岩田光央氏に、詳しい話をうかがった。

■声優志望者は自分と向き合えていない

──『声優道』を読んで興味深かったのは、いわゆる「声優になる方法」ではなく、岩田さんの実体験に基づいた「声優として生き続ける覚悟・心構え」が綴られていたことです。

岩田光央(以下、岩田) 現在、僕は講師という立場で声優志望の若者たちと接する機会が増えています。しかし、彼らと関わるようになって危機感を抱くようになりました。

──危機感ですか。

岩田 危機感というと強い言葉に聞こえちゃうけど、心配になったんですよ。なぜなら、多くの生徒が声優を“漠然とした夢”のように捉えているからです。『声優はひとつの職業である』との認識が薄く、雲をつかむようなイメージで捉えている。でも、そんな状態で養成所や専門学校に通っても先が見えないと思うんですよね。

──養成所や専門学校が増えたことで、声優への入口は大きく変わりました。ただ、本書を読んでいて、かえって声優を目指す人の多くが受動的になっているような印象を受けました。

岩田 昔に比べて、声優を目指す人の動機が軽くなったのかもしれません。でも、それは声優という職業が一般的になり、裾野が広がった証拠だと思います。これは歓迎すべきことですが、『声優は職業』という認識が薄いままだと、結果的に養成所や専門学校が潤うだけ。声優専門学校は、言い方を変えれば“職業訓練校”です。職業を訓練する学校に通っているんだと考えれば、漠然とした憧れだけではいられないはずです。別に『声優って厳しいんだぞ!』と過剰に煽るつもりはありません。声優に限らず、どの仕事も厳しいのは当然のこと。単純に、もっと客観的に理解してほしいんです。

──昨今の声優ブームによって、華やかな部分だけを見て声優を目指す人も多そうです。

岩田 多いですね。華やかで目立つ部分を基準にしてしまうので『私はアニメ声じゃないから、声優にはなれないんでしょうか』と相談してくる生徒もいます。

──その生徒にとっては「声優=アニメ」なんですね。

岩田 そう思い込んじゃってるんですよね。でも、違うでしょと。声優は声が必要とされる全般に関わっている。テレビやCMのナレーションも声優の仕事だし、デパートなどの館内放送、電車の停車駅を知らせる車内アナウンス、美術館や動物園の音声ガイダンスなど、多岐にわたります。

 はたして、声優を目指す人たちが、こうした声をどんな意識で聞いているのか。本当に“声”で生活していきたいのならば、そこまで知った上で自分の特質を理解するべきです。先の生徒が目指しているのは、いわゆる『アニメ声優』ですが、アニメ声じゃないといけないわけじゃない。自分が目指している仕事にもかかわらず、理解を深める努力を怠っているんですよ。情報過多の時代であるがゆえに調べていない。自分と向き合えていない気がします。

──「自分と向き合えていない」は「自分の声を理解していない」に通じる気がします。憧れや理想の声が先行し、その声に寄せる声優志望者が増えているのでは? ある専門学校の講師も「いまの生徒は『アニメの主人公』っぽい声しか出さない」と嘆いていたと聞きました。

岩田 僕も授業で経験ありますよ(笑)。少年役ならば、高山みなみさんや大谷育江さんを真似たような声を出す生徒が非常に多い。でも、真似では本人にかなうはずがないんですけどね。なぜ真似してしまうかというと、みんなが自分の個性に向き合っていないから。個性が分からず、自信が持てない。よく『自分には個性がない』と言う人がいますが、個性は有無ではなく“濃いか薄いか”です。まず、誰にでも個性があるということを理解してほしいのに、安易に人の真似に逃げてしまう。

──たしかに「特徴的な声じゃないとダメ」「声色が少ないとダメ」みたいなイメージがあります。

岩田 僕で言えば、いくらあがいたところでこの声しかないんです。ないものをねだったところでどうしようもないし、この業界で生きていくと決めたならば“自分の声をどう商品化するか”を考えることが重要です。自分の声で勝負してダメだった場合と、人の真似をしてダメだった場合、負けたときにどちらが納得できるのか。全員が勝てる世界ではありませんからね。

──一方、声優に大切な要素として『声優道』では“天分”を挙げていたのも印象的でした。

岩田 生まれながらのセンスや才能、いわゆる素質ですね。運動の素質がない人がアスリートになるのは難しいように、生まれつき持ち合わせた声の性質は、声優にとって強い武器となります。多くの生徒が『声優を漠然とした夢のように捉えている』と言いましたが、その通りで素質のない人が声優を目指そうとしているケースも目立ちます。しかも、自分に向き合っていないから、素質の有無に気がついていない。理解していれば、その上で声優になる方法はあるのか、あるならば、どのような努力をすればいいのか……など、必要な課題、生き残るヒントが見つかるかもしれないのに。

──素質や適正について『声優道』で正直に触れたのは、岩田さんの優しさだと感じました。

岩田 絶対に言及するべきだと思いました。多くの専門学校や養成所では、はっきり言わないかもしれません。ビジネスである以上、利益を求めるのは当然ですからね。だからといって、専門学校や養成所を責めるのはお門違いです。声優という専門性の高い仕事を目指すならば、入学する前にもっと自分を分析しておく必要があると思います。

■アイドル声優は“旬”にどう動くかが大切

──それだけ、いまは声優という職業が華やかに見えるのかもしれません。もちろん、我々を含め、メディア側の取り上げ方にも問題があると思いますが……。

岩田 経済活動なので、取り上げるメディアが増えることは悪いことではありません。いまは本当にモノが売れない時代です。かつてはアニメDVDが1万枚売れましたが、現在は3,000枚売れれば良いのかなという時代。そこで、DVDで回収できなかった売り上げをイベント開催などで補っています。回収方法として、声優が表に出る需要が増えているのは事実であり、メディアが人気先行で取り上げるのもわかります。

──声優が表に出る需要が高まったことで、いわゆる「アイドル声優」と呼ばれる声優が急増しています。この現状についてはどのようにお考えでしょうか?

岩田 歓迎しています。受け皿が広く深い業界になってきたなと感じています。

──とはいえ、一過性の人気になる可能性も否めません。『声優道』で声優の旬の期間を「男性7年・女性5年のスパン」と書かれていますが、これは主にアイドル声優のことでしょうか?

岩田 たしかに、アイドル声優のカテゴリに多いです。彼らは人気に火がつくと急激に売れて、ラジオ、歌、イベント、グッズなどさまざまな展開が用意されるし、人気アニメやゲームの出演も一気に増えます。ただ、この人気は、いつか必ず飽きられる。ファンだけでなく起用する側も飽きてしまい、キャスティングの段階で『なんか新鮮味がないよね』と。そろそろ新しい子を……となるスパンが、男性7年・女性5年くらいだと感じています。

──言葉は悪いですが“使い捨て”に近い印象です。

岩田 アイドル声優はそうですね。だからこそ、その時代や旬と合致したときに、どう動くかが大切だと思います。旬の人気にあぐらをかくか、注目されている段階で10年後、20年後も生き残ることができるように実力を身につけるかで大きく変わるでしょう。

──「旬の人気」を「実力の人気」だと勘違いしたら消えてしまう。

岩田 消える可能性は高いでしょう。でも、本当に勘違いしやすいんですよ。人気が出てチヤホヤされると、人ってクレイジーになるんです。ある日突然、現場にサングラスで現れるようになった人もいて、『お前、夜なのに室内でサングラスかよ!』みたいな(笑)。でも、簡単に人を変えてしまうほど、見返りが大きいし、ゆがみやすい。スケジュールがパンパンに埋まって、お金を遣う暇もないし、変なところで大金を遣うようになった人もいます。

──岩田さんもライブなどで熱狂的な人気を経験していますが、いまも一線で活躍を続けています。

岩田 僕は欲張りなんですよ。チヤホヤされることが大好きで、一方で声優として表現する醍醐味も大好き。だから、どちらの努力も惜しみなく続けてきたと思います。

──やはり「チヤホヤされたい」だけだと危険ですか?

岩田 そんなことないですよ。ある有名な俳優さんの話になりますが、彼のモチベーションは『とにかくチヤホヤされたい』でしたから(笑)。彼が無名だった頃、何度か一緒にお芝居していたんですが、彼は一貫して『俺、チヤホヤされたいんすよ』と言ってたんです。その後、個性派俳優として大ブレイクした彼に『すごい活躍だね。もうかなわないよ』と告げたら、不機嫌そうに『俺、知ってんすよ。岩田さん、“ネオロマ(※)”とかいう作品で、チヤホヤされまくってるらしいじゃないすか』って(笑)。

※ネオロマ:ネオロマンスシリーズ。コーエーテクモゲームスが展開する乙女ゲームの総称。「女性向け恋愛ゲーム」という分野を開拓し、岩田光央をはじめとする出演声優たちが毎年ライブイベントを開催するほどの大ヒットコンテンツとなった。

──その俳優さんはかなり活躍してらっしゃいますが、岩田さんに嫉妬してたんですか?

岩田 そう(笑)。本当にコイツはすごいなと。彼にとってのチヤホヤって、それだけの動機付けなんです。本気でチヤホヤされたくて、そのために本気で努力を続けている。だから、いまでも一線で活躍できる。アイドル声優を目指す人も、彼みたいに本気で打ち込んでほしいですね。シンプルでいいんですよ。『人を感動させるために〜』とか言われると、内心でふざけんなとか思っちゃいますから(笑)。良い意味で、自分の欲を大切にしてほしい。その結果が、人に感動を与える演技やパフォーマンスにつながるんです。

■声優も声優事務所も、過渡期を迎えている

──人気商売になったことで、今後は声優たちもプライベートに気をつける必要がありそうです。

岩田 大手の芸能事務所は、所属している芸能人たちに注意を呼びかけているし、報じられた際の対処法がマニュアルとして存在しています。でも、この手の報道に対して、声優事務所はまだ経験が浅い。声優個人というよりも、危機管理とマスコミ対策は今後の声優事務所の課題といえるかもしれませんね。

──そう考えると、声優も声優事務所もいま大きな転換期を迎えているように感じます。

岩田 過渡期でしょうね。ただ、わからないですよ。近い将来、AIに僕らの仕事が奪われる可能性だってありますから。僕自身、いつ仕事がなくなるかという危機感を抱いています。

──『声優道』でも触れられていますが、岩田さんのキャリアをもってしても「危うい」と感じていらっしゃるのが印象的でした。その意図は、謙虚さなのか、自戒なのか、はたまた本心なのか……。

岩田 すべてですね。いまでも自分が生き残っているのは奇跡だと思っています。

──「奇跡」と言いますが、『声優道』には声優として生き続けるための極意が数多く綴られていますよね。

岩田 そうなんですよ! だから、気になる方はぜひ『声優道 死ぬまで「声」で食う極意』をお買い求めください! いっぱい売って、いっぱい印税もらいたいので、ぜひよろしくお願いします!(笑)

(撮影:荻窪番長、ヘアメイク:梁取亜湖)

■岩田光央(いわた・みつお)
1967年、埼玉県生まれ。声優。劇団こまどり、ミュージックステーションクリップ、大沢事務所を経て、アクロスエンタテインメント所属。『AKIRA』(金田正太郎)、『頭文字D』(武内樹)、『トリコ』(サニー)、『ONE PIECE』(イワンコフ)『ドラゴンボール』(シャンパ)など出演作多数。声優養成機関R&A Voice Actors Academy、ラジオ大阪声優&アナウンススクールなどで講師も務める。

おたぽる

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