松方弘樹が語った、アクの強い悪役俳優がなぜいなくなったか

3月11日(土)7時0分 NEWSポストセブン

松方さんは日本の映画や時代劇の現状を心配していた

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、2017年1月21日に脳リンパ腫で亡くなった、故・松方弘樹さんが語った、日本の映画やドラマなどの現状についての言葉をお届けする。


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 先日亡くなった松方弘樹には、本連載だけでなく本誌での対談にもご登場いただいた。先週に引き続き、今回はその時の模様を振り返っていきたい。


 対談の終盤は主に日本の映画や時代劇の現状についての話題になった。その際、松方はさまざまな視点で昔からの状況の変化を語り、そして嘆いていた。中でも、アクの強い悪役俳優が不在になっていることに触れ、それが出てこない背景を語ってくださっている。


「俳優がみんな、いい人になっちゃってる。テレビに出て、好々爺になっちゃった。まあ、生活もあるでしょうし。今は、俳優だけじゃ飯が食えないんです。


 映画の本数もそんなに多くないですから。それで仇役でイイ味がある役者でも、バラエティ番組に出ると悪としてのリアリティが無くなってしまう。そうなると、プロデューサーとしてもキャスティングしにくくなる。テレビのバラエティ番組での土俵は広がっても、アクターという土俵は縮まっていきます。だから、難しいところです。石橋の蓮ちゃん(蓮司)くらいの域のバイプレーヤーは、もうおらんですよ。いい俳優はどんどん少なくなっていく。


 僕も悪役やりたいですよ。たしかに、主役よりも敵役や脇役の方が芝居は面白くできるんです。そういうのをやらせてくれるといいんだけどね──。


 ところが、テレビだと70歳といったらクソジジイと思われて、使わないんですよ。僕のやりたい役はみんな、50くらいの人がやっています。滑舌が良かろうが悪かろうが、体が健康だろうが病気だろうが、この歳になったら、もうキャスティングの候補ですらない」


 松方が終始指摘していたのは、俳優そのものの資質ではなく、映画、芸能界のシステムのあり方についての問題だった。現在のやり方ではいい役者は育たないし、優れた映画も生まれない。松方の言葉は、激しかった。


「主役の女優さんだって、そうです。大竹しのぶちゃんにしても、宮沢りえちゃんにしても、テレビでは仕事がない。映画だったら、多少は機会があったりします。でも、映画も2年か3年に1本か2本でしょう。


 それだけでは食えない。だから舞台をやる。でも、舞台はキャパが小さいから、ギャラは大してもらえないんですよ。


 結局のところ芸能プロダクションの主財源はCMですよ。しかも、それも大手プロダクションが握っている。ドラマもそう。共演の俳優もプロダクションの力学に付随して決まっていく。それでは人は育ちません。


 もし、『今から役者になれ』と言われたら、僕は絶対になりません。あまりにも現場が寂し過ぎるから。


 今の俳優さんは僕らの過ごしたような時代を知りませんから、これが当たり前と思っている。でも、芸能界って、こんなにわびしい世界ではなかった。もっと華やかだったからね。僕はいい時代にこの業界に入ったと思いますよ」


 役者一筋60年近くを生きてきた男が対談の最後に吐露した言葉はあまりに痛切であった。


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。


●撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2017年3月17日号

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