ペナルティが『徹子の部屋』に初出演。ワッキー「特攻隊に関わった人たちの思いを、伝え続けていきたい」中咽頭がんを乗り越え、舞台『Mother』の一番のファンとして

2025年3月13日(木)11時0分 婦人公論.jp


撮影:本社 奥西義和

3月13日、お笑いコンビ「ペナルティ」が「徹子の部屋」に初出演。高校のサッカー部の先輩・後輩でコンビを組んで31年、芸の原点はザ・ドリフターズだという2人。5年前にはワッキーさんががん治療のため休業、苦しい闘病を経て復帰した後は、芸人として舞台に立つことへの強い思いを感じたと語る。ワッキーさんが、自らの闘病や、舞台『Mother〜特攻の母 鳥濱トメ物語』への意気込みを語ったインタビューを再配信します。
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今年で16年目を迎える舞台『Mother〜特攻の母 鳥濱トメ物語』に出演するお笑い芸人ワッキーさんがこの度、正式に『Mother』のプロデューサーに就任しました。舞台に出会って以来、この作品を世に広める使命を背負ってしまったと感じているワッキーさん。がんを乗り越え、後遺症と付き合いつつも、作品愛は募るばかりです。そんなワッキーさんの奮闘の日々と、舞台について伺いました。(構成:岡宗真由子 撮影:本社 奥西義和)

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作品に出会い使命感


初代・鳥濱トメ役の大林素子さんにお誘いいただいて、舞台『Mother〜特攻の母 鳥濱トメ物語』に出会ったのが12年前のことです。「なんて清らかで、なんて大義のある作品なんだろう」と衝撃を受けました。

その時から、トメさんの言葉「あなた達のことは絶対あたしが忘れさせやしないからね…」と共に、僕の胸に炎がポッと灯ってしまったんです。最初は特攻隊員ではなくて、どちらかというと特攻隊と敵対することもある憲兵の役。何年かして特攻隊を演じるようになって、ますます『Mother』にのめり込んでいき、今日までこの舞台と関わってきました。

『Mother』に出演する特攻隊役の役者は、“教練”という特攻隊さながらの準備運動を稽古前に1時間行っています。声を合わせながら腹筋、背筋、天突き体操(手を掲げて行うスクワット)などを全力でやって、汗だくでハァハァ言いながら稽古に入る。“教練”を実際に披露するシーンは舞台には一切ないのですが、不思議なもので、教練をすることでじわりと芝居にリアリティが出てくるんです。

特攻隊役は若い役者たちなんで、初顔合わせの時はやっぱりチャラチャラしたやつらに見えるんですよ。ピアスなんかしてて。別にピアスしてていいんですけど(笑)。これが毎日教練を一緒にしていくと、目の鋭さだとか、雰囲気が一気に変わってくる。

劇場に足を運んでくださった方からはいつも「特攻隊員の人たちが本物みたいに見えた」っていう感想をいただきます。これはやはり“教練”の賜物なのかなと思うんです。


天突き体操ポーズを披露してくれたワッキーさん

舞台に関わる人間は、舞台前に鳥濱トメさんのお孫さんの赤羽潤さんが営んでいる「薩摩おごじょ」という新宿の居酒屋を訪ねて、お話を聞くというのも『Mother』の習わしになっています。

そしてキャストには、それぞれ自分のモデルとなった実在の人物がいるので、よく研究していきます。中には実際に鹿児島の知覧に赴いてご家族を訪ね、写真を見せてもらって髪型まで似せてくるような役者もいます。舞台となる食堂のあった知覧には、ひ孫さんの鳥濱拳大さんがいらっしゃるので、現地を訪ねる人間のアテンドをして下さって、お話を聞かせてくださいます。

とにかく『Mother』という作品は、僕を含め関わるみんなが勉強熱心になり「本物の舞台にしよう」という意欲が芽生える、そういう作品なんです。

そして観ていただければわかるのですが、この舞台の大きなテーマとして「誰のために」「何のために」死んでいったのか、があります。「特攻」とひとくくりにしても、1人1人に違った事情も家族もあった。「お国のために」だけではない気持ちが…。僕は実際に戦争に行ったわけではないので簡単に言えませんが、もし家族に残すとしたら、心配させないような、前を向いてもらう手紙を残したかもしれません。

そして“たすき”は渡された


今回の『Mother』の主演は浅香唯さんです。

2019年、11年間トメさん役を務めた大林素子さんに変わり、2代目トメさん役を探さなければいけなくなりました。制作をしているエアースタジオの方達というのは、芝居では一流でも、芸能界に精通している訳ではなくて、キャスティングの策を持っていなかった。

「ワッキーさん誰かいい人いますかね?」と演出の藤森一朗さんに相談されて、僕の頭に真っ先に浮かんだのが浅香唯さんでした。僕は仕事で何度かご一緒したことのある唯さんのお人柄を知っています。大袈裟じゃなく、太陽みたいで誰にでも愛される方、誰のことも愛することができる方なんです。

当時、僕はプロデューサーという立場ではなかったのですが、大林さんからたすきを渡されたように感じていました。そんなわけで、何年かぶりに僕から浅香唯さんに直接ご連絡して、「『Mother』でトメさん役やってくれないですか?」とお願いしたんです。僕と唯さんとの最初の出会いですか?何十年も前、別々の仕事で、偶然同じホテルに泊まっててご挨拶した…それが始まりで、時々現場で一緒になったり。

最初はあまりに突然だったこともあり、唯さんも固辞されたのですが、僕が作品愛を熱く語り、しつこく食い下がったところ、「じゃあ、やります」と最後には言っていただきました。

本当に気取ってない方なので、稽古の雰囲気もすごくいいんです。僕が休憩時間に携帯で彼女のヒット曲の「C-Girl」をかけたら、楽屋から飛び出してきてフリ付きで踊ってくれたこともありました。あの姿を見たら、唯さんの表裏のない人柄がみんなに伝わると思います。僕の人選に間違いはなかったって思えた瞬間でしたね。(笑)

安藤美姫さんと、突然の公開オーディション


今回初めて出演される安藤美姫さんにも僕がオファーしました。これはまた一風変わったキャスティングですよね?美姫さんは、舞台経験もこれが初めてと聞いています。

実は美姫さんは『Mother』といろんなご縁がある方。美姫さんの弟さんが2016年に特攻隊役で出演されていますし、2021年にはお嬢さんが『Mother』唯一の子役で出演されています。そういった事情で美姫さんはお嬢さんに付き添って毎日のように舞台にいらっしゃっていました。

ある日、舞台裏でたまたまお会いした時に、美姫さんが「私、久保田少尉(僕の役名)の奥さんの台詞、全部言えますよ」とおっしゃるので、そこで僕と即興の夫婦のシーンが始まりました。それが偶然そこに居合わせた人たちも驚くほど、あまりにもしっくり来ていたんです。


そんなわけで、「次回はぜひ舞台で演じてください!」という話になりました。コロナ後に舞台再開のきっかけで、僕からまた直接ご連絡させていただいたんです。

1日先生体験


このように、僕はキャスティングプロデューサーのようなこともやってきましたが、集客、そして協賛してくださる企業探しにも奔走してきました。

というのも、『ライオンキング』やるよと言ったら、その名前でワッとお客さんが集まりますよね?僕は『Mother』も多くの方に知っていただければ、そういう作品になれると思っているんです。でもまだまだ知名度が足りない。

僕は『Mother』を学校の平和学習に使ってほしいと思っていて、いろんな学校を回ったりもしています。若いキャストたちの卒業した学校に繋げてもらい、校長先生に舞台の話をしに行きます。そうすると、「ワッキーさん、生徒の前でもう一度その話をしてください」と言われる時もしばしば。

そんな時は壇上に立ってお話しさせてもらいます。「ああ先生ってこんな感じで授業をしているんだな〜」というのは『Mother』に出会わなければできなかった楽しい経験です。

『Mother』がここまで続いたことがいい作品の証ではあるのですが、これからもっと多くの人に知られることで、永久に続くような舞台になってほしい。それは僕に元気があるうちに実現したい夢でもあるんです。


さんまさんが推薦のひと言をくれた公演チラシ

首に「しこり」があるのを発見して


2020年のある日、首に触ってわかるようなしこりができているのに気づきました。痛みはなかったのですが、念の為、病院に行ってみることにしました。そうしたら、病名はがん。おまけにしこりは転移先で、原発が他にあると宣告されました。発見から1ヵ月間、原発がわからなかったこともあって、家族にも誰にも話すことができませんでした。

酒もそこそこでタバコもやらないし、運動不足でもない僕は、自分のことを健康体そのものだと思っていたので、受け止めきれなかったのかもしれません。結局、最初の病院では、原発がわからなくて「原発不明がん」という病名がつきました。

やっとのことで妻に打ち明けたら、「ここのところ様子が変だったけど、そうだったのね〜」とあっけらかんとして動揺も見せず、「これからの治療、頑張ろうね」と明るく言ってくれたんです。

それから病院を変えたりするうちに原発も判明して、HPV型の中咽頭がんだとわかりました。中咽頭がんは放射線と抗がん剤で治療ができるがんだと言われています。言われた通りの治療に取り組み、がん細胞を追い出すことができました。

ただ不運なことに、そのがんが発覚した年こそ、僕が自らオファーした浅香唯主演の『Mother』が始動するぞという年だったのです。こんな悔しい思いは後にも先にもないっていうくらい悔しかった。放射線治療での入院中も、「早めに退院して舞台に出よう」と思い、病室で台詞の練習をしていました。でも間に合わなかった。

一番舞台袖から見ているのが僕


翌年になり、やっと念願かなって舞台に戻ることができました。ただがんの脅威は去ったのですが、後遺症として僕は唾液が出にくくなってしまい、味覚が以前の半分くらいしか感じない体になってしまいました。今でも僕の味覚は6割までしか戻っていません。100%に戻ることはもうないそうです。

でも、その味覚の“6割”に合わせて、病気前の自分と同じ自分ではなく、6割を100%として、今やれることをやろうと思っています。無理をして、できなくて、自分に失望するのは結局僕らしくない。

6割ペースの自分になったら、なぜか以前より周りの普通のおじいちゃんやおばあちゃんとの話が弾むようになりました。僕が実際歳をとったこともあるんでしょうけど、好奇心だけは子どもみたいなところがあるので、昔の話を聞くだけでワクワクしてしまうんです。

この前も地方のスナックで、若い女の子より96歳のお婆ちゃんが気になっちゃって(笑)。その方と昭和のパーマ事情とかオシャレの話を聞いて大いに盛り上がりました。

今年は戦後80年を迎える節目の年なので、今回の公演には80歳以上の方を無料招待させていただくことになりました(ご招待締め切りは終了)。同伴の方1人も無料としましたので、付き添いがてらお子さんやお孫さんなどに来ていただければと思っています。世代を超えて語り合う時間がもたれるといいというのがみんなの願いでもあります。

うちには高校生になる息子がいるのですが、小学校5年生になった年に舞台を観に来てくれました。そうしたら「夏休みの自由研究は特攻隊について調べることにした」と言ってくれたんです。僕の話も聞いて、自分でも調べて、汚い字でしたけど、大きな紙いっぱいに一生懸命書いてくれたことが嬉しかったですね。

そして8年前に舞台を観にきてくださったご縁から、今回さんまさんにコメントをいただいています。さんまさんからは「感動した 実話やから心に突き刺さった これは本物や」という言葉をいただきました。意外と“感動した”とか普段、簡単に言わない人なんですよ、さんまさんって。だからとても嬉しかったですね。自分へのエールとも受け取りました。

ちなみに今度の『Mother』で僕は、特攻隊長ではあるんですけど、出ずっぱりではありません。僕の演技を楽しみにしてくださる方は前半出てこないので「なんだよ!」ってなるかもしれませんが(笑)、後半ぎゅっといいシーンで魅せますので。

僕は出番のない時、いつも袖から舞台を観ています。今年で13年目になりますが、飽きるどころか何度でも泣いてしまう。長い間関わってきたからというより、この作品のことがやっぱり心から好きなんですよね。ぜひ1人でも多くの方に、そして何度でも観に来ていただければと思います。

そして、今回の大病の時、舞台は復帰のモチベーションにもなりましたが、それより、人間いつどうなるかわからない、やれることは今やっておかないと、と気づかされました。大きな岩も、最初は動かないけど、転がり始めたらゴロゴロと行きますよね。今、『Mother』ももう一息のところまで来ているので、僕の命ある限り押し続けていきたいと思っています。


【公演概要】 アース製薬100周年presents 「Mother〜特攻の母 鳥濵トメ物語〜」
【出演】浅香唯、ワッキー(ペナルティ)、太田博久ジャングルポケット) 、安藤美姫 他
<配信チケット情報>
料金:税込3,000円
販売期間:2月21日(金)17:00 〜 3月29日(土)正午12:00
視聴可能期間:3月22日(土)18:00 〜 3月29日(土)23:59まで
*期間中は何度でもご覧いただけます
配信チケットURL https://airstudio.zaiko.io/item/370197
【公演情報】公式HP http://www.airstudio.jp/index_2025mother.html
公式X https://x.com/mothertomestory

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