『3年A組』菅田将暉はなぜ「説教教師」に陥らなかったのか

3月16日(土)16時0分 NEWSポストセブン

菅田将暉はもともと教師志望だったという

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 いつの時代も大人と思春期の少年少女たちの関係は難しいものだが、ネットの普及はさらにその構図を複雑化したかのように映る。だが、若者が大人の言葉に響かないわけではない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。


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「一度でも/ナマで幸せを/体験していれば/コトバの幸せの嘘に/だまされることはない」(谷川俊太郎『幸せについて』)


 印象に残る詩の断片です。詩人の谷川俊太郎氏が自分の本の表紙に刻印したフレーズ。ではもし、このテーマがドラマになったら? いったいどんな作品に仕上がるでしょうか。


 それが現実になりました。『3年A組−今から皆さんは、人質です−』(日本テレビ系)はスタート当初、純文学の世界に通じるような印象がありました。というのも、単純な犯人捜しのサスペンスドラマとは違う匂いを漂わせていたからです。集団に芽生える悪意、SNSのコトバの闇、人はなぜ他者を排除するのか、といった普遍的本質的なテーマについて深く考えることを促していそうだったから。


 ドラマの最後は自己最高視聴率の15.4%を記録。人気の『相棒 season17』(テレビ朝日系)を抜いて今期連ドラ1位の数字に。そして最終回、まさしく谷川俊太郎の詩に響き合うような世界が出現していました。


 主人公・柊一颯(菅田将暉)は美術教師。高校の教室で爆発物使い生徒を人質に立て籠もり「最後の授業」を開始、警察相手の攻防戦をSNSで実況中継……と、そこだけ並べれば奇想天外。ドラマだからこそ可能な、言ってみれば荒唐無稽な舞台設定でしょう。


 しかし、柊の授業のテーマは奇をてらったものではありませんでした。


「なぜクラスメートの景山澪奈は、自殺しなれけばならなかったのか」。まさに現実社会の中で繰り返される苦しみと闇に向き合う。SNSでのいじめ、根拠なき噂に追い詰められる生徒。自殺の原因を探れば探るほど教室内には張り詰めた空気が漂う。


 一番肝心なのは、柊という教師の存在のあり方でした。一つ間違えれば「お説教」に転落してしまう。「先生から教師」への熱き語りは、危険も伴う。


「ナイフを刺せば、血が出る。痛みも伴う。場合によっては、命も奪える。当たり前のことだ。でも今の社会は、こんな当たり前のことに、気がつく暇もないくらいに、せわしなく回り続けてる。相手に何をしたら傷付くのか、何をされたら痛むのか、お前たちには、それに気付かない感情が麻痺した大人には、なってほしくなかった」といった柊のコトバ。


 菅田将暉が演じた柊は異様な集中力を保ち鬼気迫る表情で、彼が語るコトバには妙な生々しさ、肌触りがありました。いったいなぜ、柊のコトバはお説教に陥らなかったのでしょう?


「生徒たちを良い方向に変えてやろう」という、教師にありがちな上から目線ではなく、一人の人間として、生徒と同じ位置に立って、命賭けで「このことだけは、どうしても伝えたい」とフラットな姿勢を一貫して崩さなかったから、ではないでしょうか。


 道徳的押しつけではなく、人としてどうしても伝えたい──そのスタンスを大切に維持したことが、このドラマの成功ポイントだったと思います。そう、菅田さんは「演技」「役者」といった枠すらはみ出し「伝えよう」とする熱量に満ちていました。


 もちろん中には説教クサいと感じた人もいたかもしれません。が、若い世代も含め多くの視聴者が、素直にメッセージを受け取ったことが「ドラマ後の反応」によく現れています。そう、ストーリーの展開にも驚きましたが、何より一番驚かされたのはドラマが終わった後の、現実の変化でした。


 最終回後、動画配信サービスHuluで始まったオリジナルストーリー『3年A組−今から皆さんだけの、卒業式です−』にはアクセスが殺到、接続できない状況が続いた。まあ、ここまでは人気ドラマだし理解できる。本当に驚かされたのはその後です。サーバーダウンしたHuluに対して、普段なら不満がつのった人が罵詈雑言を書き込んで炎上したはず。しかし今回は炎上しなかった。


「落ち着いて待とうよ」「仕方がないこと」「文句書いてんじゃねえよ。柊から何を学んだんだよ」と呼びかけたネット上の人々。即座に叩くのではなく改善を待つ、という冷静なリアクション。あまり見たことのないクールダウンの光景です。


 柊のコトバが、お説教ではなかったという証ではないでしょうか。


 柊にビビッドに反応したのは、視聴者だけではありません。高校生役の役者たち29人のみずみずしさ。素直に感情を揺さぶられ目に涙をため、柊のコトバに生々しくリアクションした彼・彼女ら。その表情に魅せられた視聴者も多かったはず。


 ドラマが終わった後も、高校生役の役者たちは次々に自らの考えを発信しました。自殺した景山澪奈役の上白石萌歌さんは「彼女の痛みに寄り添えるよう、死について考え、向き合おうとしていました」とブログで振り返り、同じく高校生役・川栄李奈さんは「SNSでの誹謗中傷やイジメ面と向かっては言えないくせに 顔のバレないネット上だと好き放題言ったり SNSは便利ですが苦しむ人もたくさんいるということ」とインスタグラムに書いた。


 どんなに荒唐無稽な舞台設定のフィクションであっても、視聴者や出演者にとって密度の濃い時間が流れ、社会について考える体験となったことは間違いなさそうです。これまで「ドラマは社会を映す鏡」と度々記してきましたが、今回のドラマはさらに一方進んで、社会をほんの少しでも変えていく具体的な力になりうることを見せつけられました。


 …と、この原稿を書いているさなか、「高校2年生 ネットいじめを訴えるメモを残して自殺」というニュースが流れてくる。SNS動画で拡散したバイトテロによって営業停止し研修を実施した飲食業についての報道も。今後、『3年A組』が発した願いは、現実の中で本当に生き続けるのか。行動を少しでも変えていく力となるのか。いやそれとも、多くの前例同様に一時的なブームに過ぎず、あっという間に忘れ去られていくのか? 


 最終回に永野芽郁さん演じる茅野さくらが語った言葉は、「先生の願いが誰かに伝わっていればいいな」。そう、柊の授業はまだ始まったばかりです。

NEWSポストセブン

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