『女は二度決断する』——桜庭一樹のシネマ桜吹雪

3月18日(日)11時0分 文春オンライン


© 2017 bombero international GmbH & Co.KG,Macassar Productions, Pathé Production,corazón international GmbH & Co.KG,Warner Bros.Entertainment GmbH


 昔からの知人と、久しぶりに食事をした。楽しく過ごして、帰りに連絡先を交換しようとしたところ、「わたし韓国嫌いだからLINEはやってないの」と言われて、「えぇー!」と椅子から転げ落ちそうになった。


 そういう流れが世の中にあることは、知っていた。でも、自分からはるか遠いところにいる人たちの、特殊な考え方なんだと、ずっと勘違いしていた……。


 この映画は、ドイツを舞台にしたヒューマンドラマだ。ダイアン・クルーガー演じるカティヤはトルコ移民の夫と息子と幸せに暮らしていた。でもある日、夫の事務所がテロの標的になり、二人が殺されてしまった。


 警察は移民どうしのトラブルと決めつけ、死んだ夫を罪人扱いする。カティヤは孤独と絶望で自殺を図った。そこに「容疑者がみつかった」と連絡が。容疑者はドイツ人の若いネオナチだったのだ。


 通報したのは、容疑者の父親、メラー氏。自宅倉庫で爆弾製造の痕跡をみつけたためだ。メラー氏からすると、ある日気づいたら、息子がテロリストになっていて……。


 難航する裁判。移民への偏見に満ちた法廷で、カティヤに敬意を持って哀悼の意を伝えたのは、皮肉にもこのメラー氏だけだった。


 二人が法廷の外で短い会話をするシーンが、忘れ難い。同じ北部出身だと知って、メラー氏が「いつか家にコーヒーを飲みにきて下さい」と頼むのだ。わたしはまず、のんきなことを言うなぁとあきれて、それから、いや、今のは「生きていきましょう」という懇願なんだなと思い直した。彼もまた、通報したことで息子を失った父親なのだ。


 ひどい裁判の後、カティヤには三つの選択肢が残された。自殺する。復讐する。生きて、ある日、メラー氏の家にコーヒーを飲みに寄る。


 観終わってから、タイトルの意味がよくわかり、わたしは打ちのめされました。



INFORMATION

『女は二度決断する』

4月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー

http://www.bitters.co.jp/ketsudan/




(桜庭 一樹)

文春オンライン

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