TBSレトロスペクティブ映画祭:実相寺昭雄特集決定 『ウルトラマン』前夜の幻の傑作が蘇る

2025年3月18日(火)12時0分 オリコン

TBSレトロスペクティブ映画祭 実相寺昭雄特集 開催決定 (C)TBS

 TBS収蔵の貴重なドキュメンタリーフィルムをデジタル修復して劇場公開する「TBS レトロスペクティブ映画祭」。昨年、第1回寺山修司特集を実施し、その現在でもなお力強い映像表現の再発見、再評価の場となった。そして、第2回は、実相寺昭雄特集が決定。5月2日、東京・Morc阿佐ヶ谷ほか順次公開される。上映作品ラインナップは以下のとおり。

 実相寺昭雄監督は、『ウルトラマン』などの特撮作品やATG(日本アート・シアター・ギルド)映画、CM、オペラまで手掛け、その美学と感性で唯一無二の存在感を放った奇才。そんなクールな印象の彼も、デビューしたての20代、TBSの若手社員だった頃は、作品の度に異なる演出スタイルを試みる青臭いまでに熱い青年だった。今回はそんな“ 青の時代”に実相寺監督が手掛けた、ドラマ、音楽番組、ドキュメンタリーの計8作品を、60年の時を経てスクリーンに蘇らせる。

 同映画祭をプロデュースするのは、テレビドラマのプロデューサーとしても活動する傍ら、ドキュメンタリーの制作にも力を注ぐ、佐井大紀氏。映画祭の企画意図を「『テレビ』というメディアの在り方がさまざまな角度から問われている今だからこそ、その黎明期に息づいていた『ものづくりへの熱量』を振り返ることに意味があるはず。そこで私は昨年から、独断と偏見でフィルムを掘り出しデジタル修復して再発表する『TBSレトロスペクティブ映画祭』を企画した」とコメント。

 第2回の実相寺昭雄特集については「いまや特撮ファンから神格化されている彼にも、まだ何者でもない時代があった。『電気紙芝居』と揶揄(やゆ)され、映画に比べはるかに地位の低かったテレビいう場をあえて選び、試行錯誤を繰り返していた昭和の若者の熱い志を、令和のいま改めてスクリーンで堪能してほしい」と伝えている。

■上映作品ラインナップ(作品解説・佐井大紀)

●『おかあさん』

 母親を主題にした1話完結のスタジオドラマのシリーズ。当時この番組は、若手ディレクターの登竜門だった。今回は弱冠20代の実相寺が演出した全6作品を上映。実相寺が個人所蔵していたために上映が実現した貴重な作品もある。

・第178話「あなたを呼ぶ声」(デジタル修復版) (1962年6月14日放送)

 25歳の実相寺による記念すべきドラマ初演出作品。産婦人科で妊娠を告げられた主人公は、その帰り道見知らぬ貧しい少年に「お母さん」と呼ばれ、彼の世話をかいがいしく焼き始める。『愛と希望の街』に感激した実相寺が大島渚に脚本を依頼、大島からは酷評されるも、冒頭の長回しから実相寺らしい技巧的演出が光る。

脚本:大島渚 出演:池内淳子 戸浦六宏 

・第184話「生きる」(デジタル修復版) (1962年8月2日放送)

 後の実相寺組常連が集結、セット撮影の技巧が光るドタバタコメディ。貧乏アパートに囲われた二号の娘と、それにすがる強欲な母。そこに隣人の学生やヒモも絡み、感情むき出しのコメディが展開する。隣接する部屋のセットを縦横無尽にカメラが動き、独特の劇的空間が演出されている。石堂淑朗、冬木透、原保美と、後の実相寺組の常連たちが早くも集結。

脚本:石堂淑朗 出演:菅井きん 原保美  音楽:冬木透

・第190話「あつまり」(デジタル修復版) (1962年9月13日放送)

 鳴り響くジャズと躍動的な映像で時代を切り取った、和製ヌーヴェル・ヴァーグ
ブルジョアの若者たちは夜な夜な集まり、親の金で酒や睡眠薬に耽り退廃的に過ごしていた。その中で、自身で生活費を稼いでいた女性モデルが妊娠、恋人に結婚を迫るが「堕ろせ」と一蹴される。『京都買います』の斉藤チヤ子と、若き日の田村正和のシリアスな演技にも注目。

脚本:田中堅太郎 出演:斉藤チヤ子 田村正和 

・第207話「鏡の中の鏡」(デジタル修復版) (1963年1月10日放送)

 美術や画面構図を駆使して観念を表現する、実相寺アングルの原点。女優の美年子は自らを束縛する父に対して、今は亡き元女優の母の身代わりを演じさせないで欲しいと反発する。継母との関係や腹違いの兄との出会いから、彼女は自らのアイデンティティを模索していく。観念的なテーマを、異様に細長い食卓や鏡合わせを駆使して演出する実相寺の手腕が光る。

脚本:須川栄三 出演:朝丘雪路 和田周

・第212話「さらばルイジアナ」(デジタル修復版)(1963年2月14日放送)

 原知佐子主演。目元、口元、オペラ…実相寺演出がさく裂する鮮烈な人間ドラマ。神学校の寮を舞台に、学生と若く美しい義母の関係が鮮烈に描かれるこの作品が、後に妻となる原知佐子との初仕事だった。フィルム、VTR、生放送ブロックが混在し、当時のテレビドラマの在り方を伝える意味でも貴重。川津は緊張と興奮のあまり台詞を忘れ、鎮静剤を打って生放送に臨んだそうだ。

脚本:田村孟 出演:原知佐子 川津祐介 音楽:八木正生

・第236話「汗」(デジタル修復版) (1963年8月8日放送)

 音楽番組風のセットで臨んだ、姉妹の強烈な愛憎劇。堅実に生きる姉と破天荒な妹の対立を、団地を舞台に繰り広げる人間ドラマ。一部ロケ映像を含んだ生放送のスタジオドラマだが、音楽番組のようなセットを組んで様式美・実験的なスタイルを貫いている。「坂本九ショー」と見比べると、当時実相寺はドラム缶がお気に入りだったこともわかって面白い。

脚本:恩地日出夫 出演:稲垣美穂子 加賀まりこ 

●『7時にあいまショー』「坂本九ショー」(HDリマスター版)(1963年6月8日放送)

 ドラマ風の演出で魅せる、TBSに残る最古の坂本九出演の音楽番組。手持ち長回しを駆使した九ちゃんのヒットメドレーや、司会・古今亭志ん朝の軽妙なトーク、原知佐子のナイーブな朗読などで飽きさせない構成。音楽番組なのに精巧なドラマ用のセットを組んだため、スタッフや坂本九はスタジオが変更になったと思い込み、収録に遅れてやって来たという逸話もある。

構成:永六輔 出演:坂本九 古今亭志ん朝 永六輔 いずみたく 朗読:原知佐子

●『現代の主役』「ウルトラQのおやじ」(HDリマスター版)(1966年6月2日放送)

 特撮の神様・円谷英二の真髄に迫った伝説のドキュメンタリー。実相寺が円谷プロに出向するきっかけとなった作品。『サンガ対ガイラ』の撮影風景や、実相寺の上司でもある円谷の長男・一との親子対談、怪獣による円谷へのインタビューなど、構成・編集・音楽どれを取っても実相寺節全開。脚本家・金城哲夫も冒頭に出演し、構成も少し手伝ったとのこと。

出演:円谷英二 円谷一 金城哲夫 音楽:冬木透

■上映館
東京:Morc阿佐ヶ谷 5月2日〜5月22日
京都:アップリンク京都 5月23日〜6月5日
大阪:シネ・ヌーヴォ 6月7日〜6月20日
名古屋:シネマスコーレ 近日発表

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