あっけらかんと全裸と"リア充"を描いた女性マンガ家・岡崎京子 開催中の原画展に見る、"サブカル"で語られる前の彼女

3月19日(木)23時30分 おたぽる

岡崎京子原画展「戦場のガールズ・ライフ」の様子。

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 1月から世田谷文学館でマンガ家・岡崎京子初の大規模原画展「戦場のガールズ・ライフ」が開催され、盛況を博している。

 マンガ家・岡崎京子。読者投稿雑誌で常連となり、短大在学中の1984年に自由な雰囲気の漂う創生期の美少女コミック誌でデビュー。その後、青年コミック誌、ヤング・レディースコミック誌を中心に活躍、89年頃からはその作家性を買われてファッション誌や文芸誌にもコミックの連載を持ち、いわば引っ張りだこの状態に。また、本人の好奇心の幅広さと時代のムードを伝えるコミックエッセイも人気を集めた。代表作とも言える『リバーズ・エッジ』(「CUTiE」93年3月号〜94年4月号)、『ヘルタースケルター』(「FEEL YOUNG」95年7月号〜96年4月号)の連載が完結。まさに最初の頂点を迎え、ファンの誰もが次回作を楽しみに待っていた。

 彼女が突然ひき逃げ事故に遭ったのは、そんな、96年5月のことだった。彼女がリハビリ生活に入り休業を余儀なくされてから、もう19年になる。その間も、岡崎京子に関しては、たくさんの分析、評論、研究がなされてきた。そのためか近年、「岡崎京子」はサブカルのテーマのひとつみたいに思われている気がする。

 もしそう感じているなら、絶対、岡崎京子原画展「戦場のガールズ・ライフ」に行くべきだ!! みんなが岡崎京子を語ってしまうのは、岡崎京子の作品が面白くて、岡崎京子が好きだからだ!! って再確認できる。

 改めて彼女のプロフィールを確認して驚いたのだが、筆者は岡崎さんと同じ年。上京してオタクな青春を送っていたのも、彼女が生まれ育った下北沢。でも、作品を読むかぎり、同じ時代に同じ空間にいたとはとても思えない。表面だけなぞれば、岡崎作品に描かれているのは紛れもない「リア充ライフ」、その一方で私はSFやアニメのイベントに入れ込む毎日。もしや別々の並行世界に住んでいたのでは......。そう疑ってしまうくらい、岡崎さんとは別のものを見ていた気がして、ショックだった。

 しかし、この原画展を回るうちに、いや、岡崎さんと私はやっぱり同じ時代を生きていたんだ、と強く実感した。80年から90年の中途半端で退屈なあの時代の青春。オタク界隈も中途半端で退屈な側面があった。若い人たちはなんとか面白いものを見つけようとあがき、ニューウェーブとかサブカルが自然発生して、それが載っていたのがミニコミ誌や雑誌で、雑誌文化が最後に最高に熱かった、みたいな時代。懐かしいような痛いような、いや、やっぱりすごかった時代。岡崎京子が好きだったことと同時によみがえる記憶。この展覧会では、そんな心と記憶が激しく揺さぶられる体験が待っていた。

 当時は岡崎京子と共に原律子、桜沢エリカなど、あまりにもフツーに全裸を描く若い女性マンガ家が話題になっていた。最初に騒いだのはおじさんたちかもしれない。でもエッチに過激ではなく、「おっぱいとか見える時もありますけど、何か?」というあっけらかんとした描写は、実は女性にすーっと受け入れられたように思う。私が特に気に入ってたのは岡崎さんの描くふんわりした陰毛と、リア充っぽいキャラがたまらずに「うわあああん」って泣くところ。いや、理由や分析はどうでもいい。こんなに趣味が違うのに、続々と彼女が描くものを愛さざるをえなかった。

 そんなファンは各界にたくさんいたようだ。この岡崎京子初の大規模原画展は、文学館スタッフの熱意により実現したもの。2年も前から、綿密な打ち合わせを経て、ようやく岡崎さんゆかりの地である世田谷で開催に漕ぎつけた。年譜、プロローグ、そして、SCENE 1「東京ガールズ、ブラボー!!」、SCENE 2「愛と資本主義」、SCENE 3「平坦な戦場」、SCENE 4「女のケモノ道」と、時代に沿うようにして練り上げた4幕構成のテーマ展示ひとつひとつから、スタッフのこだわりが伝わってくる。点数にして、単行本未収録作を含む原画300点以上が展示されている。

「スクリーントーンの大胆なずらし方など、物としての存在感のある原画だと思います」と、世田谷文学館の庭山さん。「ゴダールの映画で挿入される字幕のような、独特の言葉の魅力も味わってほしい」

 その言葉どおり、壁や床、部屋そのもの全体を使った展示は「文学館」ならではの表現かもしれない。

『リバーズ・エッジ』に引用された黒丸尚訳のウィリアム・ギブスンの詩「THE BELOVED(Voices for THREE HEADS)」を印象的に使ったものなど、作品ごとの展示も圧巻だが、それに加えて、単行本に収録されていない連載当時の扉絵や「FEEL YOUNG」「ヤングロゼ」のカバーイラスト、「CREA」「ゴメス」に連載していたイラストエッセイの原画が嬉しかった。そうだ。オタクを含め、ほかの人とちょっと違うことを面白がる人たちにとって、岡崎京子はどの雑誌にも載っている作家だった。文学的だとか映像的だとか思う以前に、『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』は次が楽しみでたまらない連載マンガだった。「anan」のイラストエッセイは立ち読みでも最初に読むページだった。

 そのとても贅沢な時代が、あの事故の日に突然断ち切られてしまったことを今更ながら実感して、どうしようもなく切ない。

 そんな気持ちを救ってくれるのは、壁一面にプリントされた『ヘルタースケルター』の扉絵。この絵を生命力のシンボルとして見たのは初めてだった。

 3月末まで開催されているこの特別展、若い女性の来館も目立つという。個人的にはとても嬉しい。口コミで記録的な来館者数となっているとか。そして、恐らくもう一度足を運びたくなると思うので、観覧はとにかくお早めに。

 豪華なファンブックとも言える当原画展公式カタログ『岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ』(平凡社)は一般書店、Amazonでも発売されている。また、きちんと岡崎京子の仕事をまとめた『岡崎京子の仕事集』(増渕俊之・編/文藝春秋)も、観覧のお供としておすすめしておきたい。
(取材・文/さいとうよしこ)

■「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」
3月31日(火)まで。
世田谷文学館2階展示室 10:00〜18:00 月曜休館
一般=800円、高校・大学生・65歳以上=600円、小・中学生=300円
その他割引はお問い合わせください。

主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館
後援:世田谷区
助成:芸術文化振興基金

■世田谷文学館
〒157-0062東京都世田谷区南烏山1-10-10
03-5374-9111
http://www.setabun.or.jp/

おたぽる

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