ICカードに電子香炉… 改葬の受け皿「室内墓」の今

3月19日(日)7時0分 NEWSポストセブン

“改葬の受け皿”室内墓ビルに潜入

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 中高年以上の人たちにとって大きな悩みとなっているのがお墓をどうするか、ということだ。少子化や遠距離、はたまた日々の忙しさで、先祖代々の墓を引き継いでいけない人が増え、無縁化した数多の墓が社会問題になっている。そこで改葬先として近年、急速に数を増やし、大きな注目を集める室内墓にスポットを当て“お墓”の今をノンフィクションライターの井上理津子さんが伝える。


 * * *

 近頃、都内の地下鉄やJRの車中で、都心のお墓の広告がやたら目にとまる。「交通至便」を“売り”にした「室内墓」の広告だ。


 代々のお墓の維持に悩む人たちは多い。遠方の出身地にある実家のお墓に参りに行くには時間も費用もかかり、現実問題、難しい。


 東京都三鷹市の夫婦(40代)は、夫の父の出身地、茨城県のお墓をたたもうとして菩提寺の住職に「許さん」と叱られ頭をかかえていた。岩手県出身で東京に住む男性(41才)は、父が亡くなった後、祖父や母が入る地元のお墓をたたみ、すべての遺骨を宗派の本山へ改葬(遺骨の引っ越し)した。「お墓は『家』の象徴。“家じまい”してしまって本当にいいか」と長く悩んだ末の結論だった。


 雑草・雑木が伸び放題のお墓も少なくない。放置を続けて無縁化を余儀なくさせるか、改葬をするか。持ち主の迷いが見え隠れするが、改葬を考える人たちが決まって口にする希望条件は「住まいの近く」。交通至便な都心の室内墓は、格好の“受け皿”だろうと想像に難くない。


 お墓とは土の上に建つもの──そうしたかつての常識はもう古いのか。


 今回訪ねたのは、車内広告に見る「高級感あふれる室内墓所」「新宿南口徒歩3分」というキャッチフレーズが強烈な新宿瑠璃光院白蓮華堂。全国紙にも女優・市原悦子さんを起用した全面広告がたびたび出ているので、記憶にある向きも多いかもしれない。


 昼夜とも行き来する人たちで大にぎわいの西新宿1丁目交差点にほど近い、細い道に面した、丸みを帯びた白亜の建物だった。


 正面から仰ぎ見ると、背後に高層ビルが聳える立地だ。世界的に有名な建築家で京都大学教授の竹山聖(せい)氏の設計という。美術館のようなモダンな外観からは、この中にお墓があるとは到底思えない。



 入り口に、蓮の花が浮かぶ人工池。館内に入ると、この日は女性2人が待機する受付カウンターと、テーブルや椅子があり、春の花々が飾られている。こざっぱりした企業の受付のようだ。法衣に輪袈裟姿のお坊さん──副住職の東恵秋(ひがしえしゅう)さん(68才)が出て来られ、ああここはお寺だったとわれに返る。


「岐阜に本坊のある、室町時代開祖の浄土真宗東本願寺派・無量寿山光明寺の東京本院です。京都にも本院があり、ここは2015年の6月に開設しました。昔のお寺のように勉強や娯楽、情報発信などの場となるとともに、お墓参りを特別な行事ではなく日常のものとさせたい。いわば、仏教ルネサンスのお寺なんです」


 いきなり横道にそれるが、関西出身の私は「京都にも本院」に反応した。場所を聞くと左京区の八瀬だそう。実は若い頃、旅行情報誌の仕事で毎年春と秋にそのエリアの観光寺院を隈くまなく取材に回ったが、光明寺というお寺は記憶になかったなあと思いきや、「10年ほど前に料亭を買い取り、お寺に改めたのです」と東副住職。ずいぶんやり手のお寺なんだ、とひとりごちる。


◆旧来の墓地につきまとう暗さは皆無


 エレベーターに乗り、まず案内されたのが、5階の「如来堂」。エメラルドブルーの壁を背に、阿弥陀如来が宙に浮かぶ斬新な光景に目を見張る。まだまだ新しく、金色に光り輝く様は、不謹慎かもしれないが「仏様アートだ」と思った。一方で、柵など遮るものが一切ないため「すぐそばに仏様」と親近感も感じる。


 傍らにグランドピアノが置かれていた。「この部屋で、土曜コンサートや日曜仏教礼拝などを行っています」と東副住職が説明してくれる。


「来る人、いらっしゃるんですか?」と質問を投げると「もちろんです。どなたも参加していただける形なので、お墓を買った人だけでなく、ネットで知って興味を持ってという人も来られていますよ。毎回20人ほどで埋まり、手応えを感じています」。


 4階に阿弥陀仏を祀る荘厳な本堂、3階に法隆寺金剛壁画(模写)などを展示したギャラリー…。確かに「高級感」があふれている。しかし、旧来の木造のお寺に慣れている身としては、少し落ち着かない。


 お墓の参拝所は地階にあった。いわゆる自動搬送の形式だ。



 館内の保管庫に、骨壷を入れた箱(「厨子」と呼ばれる)が収納されている。ICカードを1階の受付横にあるパネル内の所定位置に入れると、「珊瑚」「紫晶」などと名付けられた8か所の参拝所のうち、その時に空いている箇所が表示され、選ぶ。その足で、選んだ参拝所に行くと厨子が届き、自動で墓石にセットされる──そんな参拝の流れを業務統括推進本部部長の木下尚子さんに聞きながら、地階に降りた。


 左右の通路に、縦格子の木戸のようなフェンスで区切られた参拝ブースが4つずつ並んでいる。西側は、窓の外に地上から続く滝が見えて明るく、東側は通路の壁面が岩状でしゃれている。


「紫晶」の参拝所に入った。広さは約2.5m四方。4、5人がゆったり入れる半個室で、床が大理石、壁面は美しい木目。椅子も4脚置かれている。所定の場所にもう一度カードを入れると、すわ。正面の扉が開き、台の上に墓石が現れた。


 バックの壁いっぱいに、紫水晶をイメージする抽象画が描かれ、実に明るい。旧来の墓地につきまとう暗さなど皆無だ。


「最高級の黒御影石です」と木下さん。


 墓石の中央、約25cm四方の部分に「荻野家」との刻字。「荻野家」は見学用のダミーだが、ここには家名でなく「愛」「永遠」「ありがとう」などどんな言葉でも刻字できる。墓石自体は固定されており、この部分だけが、保管庫から自動搬送されてきたのだ。骨壷が入っている厨子の側面に当たる。品よく生花が飾られ、墓前に水が流れ、焼香できる電子香炉もある。


「手ぶらでお参りしていただけるのです。外のお墓は、お骨が墓石の下に納められているので、そちらには目を向けずに竿石に向かって手を合わせるわけですが、ここではお厨子がちょうど目の高さですから、きちんと故人様に手を合わせられるんですね。もっとも“写真参り”のようになっちゃうかたも多いようですが」(木下さん)


 傍らに立てかけられた液晶パネルに、故人の写真が数枚代わるがわる映し出されていた。もし、これが私の両親のお墓なら、あの写真とこの写真を入れよう、なんて考えてしまっている自分に苦笑いする。


※女性セブン2017年3月30日・4月6日号

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